ここまでくると、育ち云々の問題ではなさそう
◇
「んで、結局どこに向かうんだよ?」
「次はドコサだな。あそこはまだ行っていない」
「貿易都市ドコサですね」
南西の門からトレハを出て。グラたちは、次なる町へと向かっていた。目指すは貿易都市ドコサ。海に面した港町である。
「貿易って何なんだ?」
「他の国と取引することです。ドコサでは、船によって海外に物資を運搬しているんです」
「へー」
オクサの質問に、ハイドラは詳しく説明した。……元々、ドコサは海の向こうから来る侵略者を阻む役目を持っていた。今では海外からの侵攻もなく、故に友好国との貿易拠点となっている。
「ドコサといえば、やっぱり海よね! 新鮮な海産物と、広大な海水浴場! これはもう、楽しむしかないわね!」
「お前は相変わらずだな」
「まあ、エーテル様ですから」
エーテルの言葉に、グラとハイドラは口を揃えてそう言った。
「ちょっと、失礼じゃない! グラたんもハイドラも、海を見たことないんでしょ? 私だってそうだし。だったら、楽しみになるのも当然でしょ? 寧ろ、楽しみにならなきゃ海に対する冒涜よ!」
「いやまあ、楽しみじゃないわけじゃないがな」
「それはまあ……私も生みは初めてですし」
「そういや、あたしも海は見たことねぇな」
「でしょ?」
だが、エーテルに言われて、彼らは白状した。……なんだかんだ言っても、全員、海については知識でしか知らないのだ。故に、未知の存在に心躍るのは避けられなかった。
「グラた~ん? 私の水着姿に悩殺されちゃうかもよ~?」
「いや、悩殺されるならハイドラかオクサだろ。体格的に」
「……グラたん。女の子を泣かせて楽しい?」
悪戯っぽい口調で笑うエーテルに、グラはマジレスして彼女の心をへし折った。……エーテルのバストサイズは、相変わらず哀愁漂うものだった。平均並みのオクサや平均より大き目のハイドラと比べてしまえば、最早それ以上の形容が躊躇われるレベルだ。
「……いいもん。そんなこと言うグラたんは放っておいて、私は水着でその辺の男を適当に摘み食いするから」
「好きにしてろ」
不貞腐れるエーテルに、グラは呆れたように答えるのだった。
◇
……夕方。
「部屋がない?」
宿場町に到着し、宿を取ろうとしたグラたち。しかし、宿泊の手続きでトラブルがあったようだ。
「正確に言うと、部屋は二つしか取れませんでした」
「しかも、二人部屋ね」
手続きをしていたハイドラとエーテルが、部屋の鍵を示しながらそう言った。
「どうにも、最近は宿泊客の数が多いみたいなのよね。どこも似たような状況で、部屋が取れるだけマシな状況みたいよ」
「ですが、このままだと、グラ様は誰かと相部屋ということに……」
宿は何故か混雑していて、部屋を男女で分けるだけの余裕はなかった。必然的に、グラは女子の誰かと一夜を共にすることとなったのだ。無論、二人部屋に女子を三人とも押し込めるという手もあるが、さすがに無理があるし、出来るだけ避けたかった。
「そうか……まあ、仕方ないだろうな。オクサ、相部屋でいいか?」
「ん? ああ、あたしは構わねぇぞ」
「ちょ、ちょっと待って! どうして迷わずオクサを選ぶのよ!?」
そんな状況で、グラはオクサに声を掛けるのだが、彼の態度にエーテルが突っ込んだ。
「んなもん、お前は論外だし、ハイドラだと恥ずかしさで気まずくなるからに決まってるだろ」
「なんで私は論外なのよ!?」
「貞操を守るために決まってんだろこのビッチ」
「うっ……」
しかし、正論で返されてぐうの音も出なかった。要するに、普段の行いが悪いからである。
「そういうわけだから、大人しくしてろよ。ハイドラ、後は任せた」
「お任せください、グラ様。エーテル様は私がしっかり抑えますから」
「四面楚歌……!?」
「そういうわけだから、じゃあな。行くぞ、オクサ」
「ああ」
そしてグラは、オクサと共に部屋へと向かった。
「ふぅ……」
「なんだよ、疲れたのか?」
「お前は常時元気そうでいいな」
部屋に着いて、ベッドに腰を下ろしたグラ。思わず溜息を漏らしたところ、オクサに笑われてしまった。
「さすがに歩いたからな、溜息くらい漏れるだろ。その調子で、ハイドラを虐めたりするなよ? ……まあ、ハイドラも最近は体力がついてきたみたいだが」
「んなことするかっての。けど、お前は男なんだから、お嬢さん方を守れるくらいの体力と頼り甲斐がねぇと駄目だろ?」
グラの言葉に、オクサはそう返した。
「……言っておくが、お前もその守るべき仲間なんだからな? 忘れるなよ」
「なっ……! ったく、そういうこと言うの止めろよな……調子狂うぜ」
だが、そう言われて、オクサは照れながら、徐に服を脱ぎだした。
「おい……!」
「な、何だよ……? 急に大声出して」
「何故脱ぐ……?」
「はぁ? もう飯は食ったし、後はシャワー浴びて寝るだけだろ? 服着たままシャワー浴びるわけにもいかねぇだろうが」
慌てるグラに、オクサは上着の裾に手を掛けながら、訝しげにそう言った。……どうやら彼女は、グラの前で服を抜くのに抵抗がない様子。
「……いや、いい。俺が暫く席を外す」
「何でだよ? 疲れてるんだろ? だったらここでゆっくりしてろよ」
ならばと退室しようとするグラに、オクサはそう言った。……彼女は気遣っているつもりなのだが、それが却って裏目に出ているな。
「……これなら、エーテルかハイドラのほうがまだ良かったか?」
そんな彼女に、グラは再び溜息を漏らした。……オクサの場合、エーテルのように誘惑するために脱いでいるのではなく、ただ無頓着なだけだ。それも、異性の前で裸になるのがどういうことなのか理解していない。そう考えると、気恥ずかしさはあるものの、ハイドラのほうが幾分マシだったかもしれない。
「あ、なんなら一緒に入るか? 折角だから裸の付き合いでもしようぜ」
「断るっ!」
オクサの誘いを、グラは間髪入れずに断った。断固拒否の姿勢である。
「何だよ……兄貴も弟も、昔は一緒に風呂入ってたのに、最近は一人で入れって言うし」
「それは当然の反応だと思うぞ」
ぼやくオクサに、グラは突っ込みを入れた。……年頃の男子であれば、彼女くらいの姉や妹と入浴したいとは思わないだろう。というか、思ったらそれはそれで問題である。
「というか、いくらなんでも無防備すぎるだろ。突然男の前で脱ぎだしたり、風呂に誘うとか」
「無防備って……分かったよ。一人で入ればいいんだろ?」
仕方がないとばかりに注意するグラに、オクサは渋々脱衣を中断するのだった。




