何故かすぐに集まる人たち
◇
……夕方。
「オクサ」
「ん? どうしたよ?」
「どうやら、この町に妹はいないらしい」
「何だよ唐突に」
オクサの家に戻る途中、帰宅途中のオクサを見つけたグラは、ヘクスニア男爵から聞いた話をした。しかし、今のはさすがに分かりにくかっただろうと思い直し、ちゃんと順を追って説明した。
「そうか……いないんか」
「ああ。……だから、近いうちにトレハを出ることにした」
そして、ヘクスニア男爵に言われた通り、オクサにもトレハを出ると伝えた。
「……そうか」
「ああ。もう、ここに留まる理由もないしな」
「……なあ。あたしもついて行っていいか?」
「……は?」
だが、彼女の問い掛けに、グラは疑問符を浮かべた。いや、理解できなかった、というべきだろうか。彼女がそんなことを口にするとは予想していなかったのだ。
「あたしもさ、旅ってのをしてみたいんだよ。……けどさ、一人ってのは何かと不便だし、誰かと一緒のほうが心強いだろ? だからさ、あたしも連れてって欲しいんだ」
「……」
オクサの頼みに、グラは押し黙った。……彼女が加入するのは、正直言って歓迎すべきだ。度々荒事になる彼らは、特にハイドラを無防備な状態で晒しやすい。だが、オクサがいれば彼女を守りやすくなる。それを、今回の件で実感した。しかし、問題もあった。ただでさえ三人という大所帯なのに、これ以上メンバーが増えると不都合も多い。特に、宿泊の際に部屋を取れなくなる可能性が増してくる。女子が三人に増えるのも、それに拍車を掛けている。
「……すぐには答えられないな」
故にグラは、そう返した。オクサを仲間に加える場合、一番困るのはエーテルたちだ。であれば、彼女たちと相談せずには決められない。それに、オクサはグラの秘密を―――彼が魔神であることを知らない。そのことについても、彼女たちと相談しなければならない。
「そうか……なあ、グラ」
「何だ?」
「お前……魔神なのか?」
「……っ!?」
だが、オクサは突然、そんなことを言い出した。……グラが魔神であるなど、彼女は知るはずがない。一体どういうことなのか?
「お前、魔神なんだろ? 叔父さんが言ってたぞ」
「あの野朗……!」
オクサから出てきた名前に、グラは歯噛みした。……ヘクスニア男爵は、グラが魔神であることを見抜いて、オクサに漏らしたのだ。そう悟られるような情報は殆ど見せていないのだが、それでも見抜く辺りはさすがと言うべきか。
「……頼む。あたしも連れてってくれよ。そしたら、誰にもこのことは言わないからさ」
「脅してるつもりか?」
「ああ……本当だったら、こんなことしたくないけど、こっちもこのチャンスは逃したくないんだよ。それに、あのお嬢さんたちも知ってるんだろ? だったら、あたしも仲間に引き入れたほうが好都合じゃないか?」
申し訳なさそうにしながらも、オクサは目を逸らさず、真っ直ぐにグラを見つめている。それだけ、彼女は真剣なのだろう。
「……なんか勘違いしてるみたいだが、俺は別に連れて行かないとは言っていないぞ?」
「……へ?」
それが分かったからこそ、グラは先に誤解を解くことにした。
「お前を連れて行くなら、エーテルたちに相談しないわけには行かないだろ? だから時間をくれと言っただけだ」
「あ……」
指摘されて、オクサは硬直した。……どうやら、自分が早とちりをしていたことに気づいたようだ。
「わ、悪い……」
「別に構わんさ。俺の秘密を知ってるなら、話が早い。あいつらの説得も簡単になるってもんだ」
早とちりで脅してしまい申し訳なく思うオクサに、グラはそう言った。
「とりあえず、一度戻ろうぜ? お前も帰る途中だったんだろ?」
「あ、ああ……」
そうして彼らは、家路に着くのだった。
◇
「ふーん……オクサをねぇ」
帰宅して。エーテルたちに、オクサを仲間に入れることを伝えたのだが、エーテルの反応は芳しくなかった。
「駄目か?」
「駄目じゃないけど……これ以上女の子が増えて、私が目立たなくなるのは勘弁願いたいわね」
「よし、どうでもいいな。ハイドラはどうだ?」
しかし、彼女の懸念は大したことがなかったため、グラはさらっと流した。
「私は歓迎します。エーテル様に対する抑止力が増すのはいいことですから」
「そ、そうか……」
ハイドラの意見に、グラは戸惑いながらも頷いた。……最近、彼女はエーテルに対して棘のある発言が多い。打ち解けてきた証と見るべきなのか。
「それじゃあ、オクサを連れてくってことでいいな?」
「ええ」
「はい」
二人の意見を元に、グラはそう結論を出した。それに対して、二人も頷く。
「……どういうことだよ?」
「あ、兄貴……!?」
話が纏まりだしたとき、部屋にオクサの兄が入ってきた。……どうやら、先程の話を聞かれたらしいな。
「姉ちゃん、この家出て行くの?」
「どうなんだよ、答えろよ!」
「え、えっと、その……」
更には弟のほうまで出てきて、二人でオクサに詰め寄った。……恐らく、彼女からは何も聞いていなかったのだろう。それを突然聞かされて、憤慨しているのだ。自分たちに黙って家を出ると聞かされれば誰だって戸惑うだろう。
「なんだい一体、騒々しい」
「あ、爺ちゃん。丁度良かった、今姉ちゃんが……」
「爺ちゃん、オクサが家を出て行くって言い出したんだ」
「ほぅ?」
騒ぎを聞きつけたのか、今度はオクサの祖父までやって来た。オクサの兄たちは、祖父にことの次第を話す。
「爺ちゃんからも何か言ってやれよ。身勝手すぎるって」
「いや、別にいいんじゃないか」
「「爺ちゃん……!?」」
だが、祖父はそんなことを言い出した。彼の言葉に、オクサの兄弟たちは驚愕している。
「実を言うとな、オクサがトレハを出たがってると、ヘクスニア君から聞いていたんだ。そして、できることならばオクサの好きにさせてやってくれともな。……オクサ。お前はまだ若い。それに、お前の父親は、自分の家を捨ててでも好きな女と結婚したような男だ。お前も、うちらのことは気にせず、自分の生きたいように生きなさい」
「ええ。あなたは、あの人みたいに、自由に生きなさい」
「爺ちゃん、母さん……」
いつの間にかオクサの母までやってきて、彼女にそんな言葉を掛けた。……あっという間に一家集合である。
「け、けどさ、うちの仕事はどうすんだよ……?」
「そんなもん、お前らがちゃんと働けば済む話だろう。今まで、オクサがお前たちの何倍働いてきたと思ってるんだ?」
「うっ……」
なおも食い下がるオクサの兄に、祖父は正論を口にした。……彼らが怒っていたのは、働き手が減るということもあったのだろう。
「そういうわけだ。君たち、オクサのことは頼んだよ」
「ああ。分かった」
「ええ。了解したわ」
「はい。お任せください」
そして祖父は、グラたちにそう言って頭を下げる。グラたちも、それに応えた。
「オクサ、これからもよろしくな」
「……ああ。それと、爺ちゃん、母さん、ありがとな」
そして、そう言うオクサは、嬉しさのあまり、目に涙を浮かべていたのだった。




