セキュリティ意識低い系お城
◇
「……ほんとにやばいな、この国」
一時間後。グラは王城内部にいた。ここまで誰にも気取られず、比較的容易に来れた。……警備用の索敵魔法がグラに効かないことを考えても、少々怠けすぎではないか?
「平時ならこれでも許されたんだろうが、俺が態々犯行予告してやったのにこの様では……」
王城は国王の住まいというだけでなく、行政に関する重要施設だ。王都民の情報や行政関係の情報も沢山あるのだ。それらを目的に賊が入ることもあるだろうに、こんな管理でいいのか。
「まあ、今はそのほうが好都合だがな」
そう呟きながら、グラは王城を探索していた。……現在いるのは行政区画。職員は既に帰宅し、時々巡回の兵士が来る以外は人気がない。ここが入り口に一番近かったというのもあるが、王城内に案内図があるわけでもなく、無駄に彷徨うよりはここで見取り図でも見つけたほうがいいと思ったのが。妹の情報も探さなくてはならないしな。
「……っと」
そうしてグラは、行政区画にある住民情報管理室を見つけた。ここになら、住民票が置いてあるかもしれない。
「あまり時間はないが、軽く探してみるか」
グラは管理室に入り、妹の情報を探すことにした。
「……さあ。待ってなさいよ、グラたん」
その頃、エーテルは王城の裏―――物資の搬入やゴミを運び出す裏門の前にいた。ここにも当然ながら兵士がいるのだが、彼女の使う隠形の魔法により、その姿も気配も察知されることはない。
「……交代の時間だ」
すると、裏門から兵士が出てきた。見張りの場所は一定時間で入れ替わるようで、そのために城内から出てきたのだ。
「チャンス」
僅かに開いた裏門から、エーテルが城内に侵入する。裏門も正規のルートなので、警備用の索敵魔法は発動しない。
「ちょろいちょろい。ちょろすぎるわ」
そうしてそのまま、王城の中を探索する。目当ては勿論グラだ。彼の目的が国王ならば、ここに来るだろうと考えたのだ。
「こんな調子だと、グラたんも中にいるはずよね。……今すぐ追いついてやるんだから、覚悟しなさいよ」
折角見つけた研究サンプルで、このまま逃せばプライドもズタズタになる。そんな彼に、エーテルは必要に執着していた。前述の事情を考えても、それは過剰だった。自分の夢やプライドとは無関係に、彼のことを気に入り始めているのだ。
「とりあえず、奥のほうを目指してみようかしら」
王の元へ向かっただろうグラ。彼を追って、エーテルは城内を進んでいくのだった。
◇
「……ふぅ。やっぱり見つからないか」
行政区画、住民情報管理室にて。妹の情報を探していたグラは、手元のファイルを棚に戻していた。……住民票は地区ごとにファイリングされていたのだが、その中から十八歳の情報を抜き出すのは容易でなかった。王都だけあって住民の数も多く、一つの地区だけでもまともに探していられない。
「ここは諦めていいだろうな。こうしている時間が勿体無い」
グラは早々に見切りをつけて、部屋から出て行く。当初の目的である、国王の元へと向かったのだろう。
「……あれ? 扉が開いてる」
その直後、今度は部屋にエーテルが入ってきた。どうやら行き違いになったようだ。
「住民情報管理室……じゃあ、ここに住民票があるのかしら?」
扉に書かれた文字を見て、彼女はそう推測した。徐にその辺の資料を手に取って、それが住民票であることを確認する。
「でも、紙の資料って探すの大変なのよね……あ、端末がある」
するとエーテルは、部屋の隅にある四角い物体を見つけた。それは魔製端末といって、魔法技術を応用した高度な演算・記憶装置だ。膨大な情報を記録したり、それらを条件に応じて抜き出したりできる。また、遠距離通信によって、離れた場所からその情報を閲覧することも出来る、最新の端末だ。
「グラたんは多分扱えないだろうし、先に探しておいてあげようかな」
幸い、彼女はギアの専門店で端末の使い方を学んでいる。住民票の検索くらいは余裕だ。
「えっと、電源がここで……あ、立ち上がった」
エーテルは端末を立ち上げ、グラの妹―――ナタリーアクトの名前を検索する。だが、その名前は見つからなかった。
「やっぱり、王都にはいないみたいね……あ、そうだ。ついでだし、あれをやってこっと」
その後エーテルは、端末を操作して、更には部屋に置いてあった白紙の住民票を取って何かを書き込むと、それを棚に戻して部屋を出た。……なんかさらりと違法行為をしていたようだが、そもそも王城に不法侵入しているので、とやかく言うのは野暮か。
「さてと、ちょっと時間も取っちゃったし、いい加減グラたんを探さないと」
そしてエーテルは王城探索を再開した。索敵魔法に掛からないように、順路から外れた通路は避けていく。いくら隠形があろうと、魔法の目は誤魔化せない。巡回の兵士たちも念のために躱しつつ、奥のほうへ進んでいく。
「あれ? これって……」
そんな中、エーテルは妙なものを見つけた。……それは、何の変哲もないただの階段だった。だが、ここは一階だ。そして、階段は下り。つまり、階段は地下に続いているのだ。だが、この王城に地下が存在しているなど、エーテルは聞いたことがなかった。学校で習った王城の情報には、全長や部屋数などはあったものの、地下室の存在はなかったはずだ。
「ま、どうせ「王家に伝わる隠された~」的なものなんだろうけど」
とはいえ、存在が伏せられた部屋など、別に不思議でもなんでもない。そもそも、国民に機密情報を何でもかんでも教えるほうがおかしいのだ。これはこれで健全といえる。
「……でも、やっぱり気になるわね」
エーテルは、「触るな危険」と書かれていると、思わず手を触れたくなる性分である。無論、本当に危険なものには決して触れないが、その衝動を堪えるのに苦労するタイプだ。そんな彼女の前に、謎の地下室が現れた。覗いてみたいと思うのは、至極当然の流れだった。
「けれど、こっちは順路じゃないから、センサーに引っ掛かるのよね……」
ただし、この先には索敵魔法が仕掛けられている。下手に侵入すれば、警報が鳴って即座に兵士が駆けつける。そのまま御用になるだけならばまだいいが、背後から攻撃魔法の弾幕を張られようものならば、最悪死亡してしまう。
「けどまあ、ここはエーテルさんにお任せ、ってね」
だが、彼女には方策があった。この魔法を、誰にも気取られずに処理する方法が。さすが、魔製機構技師を志望しているだけはある。




