疲れているとなにやってもうまくいかないもの(体験談
◇
「……さて、行くぞ」
「はい」
{ああ」
繁華街、閉店したバーの前にて。グラ、ハイドラ、オクサの三人は、互いに顔を見合わせながら、バーへと入っていく。
「ん……? おい、君たち、何勝手に入ってきてるんだ?」
「そうだぞ。ここは私有物件で、勝手な立ち入りは禁止されているんだ」
バーの中には、兵士が二人いた。彼らはグラたちに気づくと、退出を促してくる。
「あんたらはいいのかよ?」
「私たちはここを巡回しているんだ。使われなくなった店舗は、不良の溜まり場になりやすいからな。君たちみたいに不法侵入する輩が現れないように、日々パトロールしてるんだ」
「今日のところは見逃してやるから、さっさと出て行きなさい」
兵士たちは巡回を理由に、この場に居座ろうとしていた。……多少不審ではあったが、主張自体は正当であり、グラたちは頷くしかない。
「どうする?」
「ここは一旦出たほうがいいな」
「はい」
故に、グラたちは大人しく従った。踵を返し、バーから出て行く。
「……ったく、冷や冷やしたな」
「ああ。まあ、最悪、逮捕しちまえば何とでもなるけどな。ただ、三人もいるとなると、一人くらいは取り逃しそうだし、追い払うに越したことはないんだが」
グラたちが去って、兵士たちはそんなことを漏らしていた。……その内容を聞けば、どう考えても巡回の途中とは思えなかった。
「―――ほう」
「え……?」
だが直後、片方の兵士が倒れた。彼の背後には、木刀を携えたグラの姿が。
「なるほどな。お前らは窃盗団に買収されてた、ってことか」
「な、何を―――」
「そもそも窃盗団が盗品を町の外に持ち出すのは困難なはずだ。町は塀に囲われてるし、門を通ればお前らが荷物を検めるからな。なら、そのお前らが窃盗団に与していたとしか思えないだろ。あ、まさかとは思うが、窃盗団の説明はいらないよな? トレハの平和を守る兵士さん?」
「……!?」
グラの言葉に、残った兵士は愕然とした。……突然相方を襲われて、しかも襲撃者は自分たちの秘密を言い当てた。驚くなというほうが無理である。
「その反応を見るに、図星ってところか」
「き、貴様……! 何者だ……!?」
兵士は叫びながら、銃剣型のギアを抜き放とうとする。
「お前なんかに名乗る名前はないが―――」
しかし、グラのほうが早かった。木刀を振り抜き、兵士の意識を刈り取ろうとする。
「強いて言うなら、魔神だな」
その直前、彼は呟くようにして、そう答えたのだった。
「……もういいぞ。二人とも片付けた」
「ヒュ~♪ さっすがじゃねぇの!」
「お疲れ様です、グラ様」
グラが声を上げると、先程出て行ったはずのオクサとハイドラが戻ってきた。……彼らは、ここを捜索するにあたり、兵士たちと遭遇する可能性も視野に入れていた。前述のように、窃盗団と兵士は癒着している可能性が高く、またそれを裏付けるかのように、このバーからは兵士が出てきていた。故に、兵士と遭遇した場合の対処も事前に取り決めてあったのだ。
「さてと……少なくとも、ここが窃盗団のアジトなのは間違いないだろう。手分けして、エーテルと窃盗団を探すぞ」
「ああ」
「はい」
というわけで、グラたちはアジトの捜索を始めるのだった。
「……すぅ」
一方、地下のアジトにて。野菜の保管庫内で、男が壁にもたれかかりながら眠っていた。……彼は別に居眠りをしているわけではなく、このアジトにはベッドがないため、こうして眠る他ないだけだ。
「寝込みを襲うってのも、中々ありよね」
そんな男を、エーテルがロープで縛っていた。彼女は家畜の加工室に隠れていたのだが、いい加減脱出したくなって、とりあえず手近な男から無力化しようとしていたのだ。……王都にいた頃からそれなりに場数を踏んできたエーテルだが、そもそも彼女自身は非力な少女である。無論、ハイドラのような箱入り娘と比べれば体力も腕力も十分あるが、大抵は隠形で姿を隠しながら工具を振るって男たちを退けていたのだ。グラのように、複数の男たちに囲まれた状態から抜け出すほどの技量はない。故に、まずはアジト内の男たちを少しずつ無力化し、脱出を容易にしようとしているのだ。うまくいけば、グラたちのところまで戻った後、とんぼ返りして彼らを捕らえに来ることも出来る。
「さてと……これで大体終わったかしら?」
男たちが起き出す前に、アジト内の殆どを無力化できた。残っているのは、入り口付近で寝ずの番をしている二人だけだ。それだけであれば、彼女一人でもなんとかできる。隠形で姿を消した状態で、工具を振り下ろせば無力化できるのだ。
「待っててね、グラたん、ハイドラ」
というわけで、エーテルは入り口へと向かった。……入り口には、やはり見張りが二人、階段に座っていた。この見張り自体はあくまで念のためなのだろうが、それでも油断して居眠りしてない辺り、犯罪者の割りに真面目なのだろうか?
「そおっと、そおっと……」
隠形を維持しているものの、それでも極力物音を立てないように歩くエーテル。足音は消えても、例えばその辺に置いてある物を倒したりすれば、その音は消えないので、当然ではあるのだが。
「じゃあ、おやすみー」
そして男たちの前まで来ると、工具を振り上げ、意識を刈り取ろうとして―――
「……は?」
「え……?」
虚空を見つめていたはずの男の一人と、何故か目が合った。隠形で姿が消えていれば、目が合うことなどまずありえない。……つまり、この事態が意味しているのは。
(や、やばっ……! 隠形が解けた……!?)
隠形の魔法が、効力を失ったということだった。……エーテルはこの魔法を多用しているが、一晩の間、休みなく維持し続けたことはほぼない。しかも、窃盗団のアジトで、見つかれば命が危なくなるという状況だ。危機感と緊張から精神をすり減らし、魔法の維持ができなくなってしまったのだろう。よりにもよって、このタイミングで。
「えいっ……!」
「ぐふっ……!」
それでもエーテルは、工具を振り下ろして、片方の男を倒した。しかし、それが限界でもあった。
「てめぇ……!」
「きゃっ……!」
残った男から反撃を食らい、階段から突き落とされてしまう。辛うじて受身は取れたが、衝撃を殺しきれず、体を起こせない。
「こいつ、どっから沸きやがった……!? おい、誰か来い……! 侵入者だ……!」
男は仲間を呼ぶが、その仲間はエーテルに縛られているため、来られない。……それでも、エーテルの危機には変わらなかった。




