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剣士とビッチと美少女七人(エトセトラ)  作者: 恵/.
4の章 ~陸乙女と肥沃なる農業都市~
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疲れてるときに無理するとろくなことにならない(体験談

「おい、開けっ放しじゃねぇかよ」

「……!」

 窃盗団のアジトを発見し、脱出を試みようとしていたエーテル。だが、上からそんな声が聞こえてきて、慌てて中のほうへと駆け込んだ。

「んなドジ踏みやがって……万が一ばれたらどうするんだよ?」

「まあ、大丈夫だろ。用心に越したことはないが、気を張りすぎるといいことないぞ」

「だな。あの男爵が、公爵の手を阻んでるって話しだし。全く、男爵様様だな」

 どうやら、窃盗団の一味が戻ってきたらしい。……物音を嫌ったのと、彼らが戻ってくるのを察知できるように蓋を開けておいたのだが、それを不審がられてしまったようだ。おまけに、アジト発見で気分が高揚していたためか、彼らの接近に気づけなかったという間抜け振りである。彼らも足音を忍ばせていたとはいえ、致命的と言わざるを得なかった。

「こうなったら……」

 となれば、エーテルは奥のほうへと逃げ込むしかない。狭い入り口を無理に抜けようとするのは、いくら姿が消えていても、容易ではないだろう。最悪、窃盗団の連中に見つかってしまう。

「ひぃっ……!」

 だが、奥の部屋に入ったエーテルは、思わず悲鳴を上げてしまった。……そこはどうやら、盗んだ家畜を捌いて加工する部屋だったらしく、床も壁も真っ赤に染まり、血塗れの器具がいくつも並んでいた。ホラー以外の何物でもない光景である。

「……これ、見つかったら解体されたり、しない、わよね?」

 もしも見つかってしまった場合、命が危ない。そんな危機感を抱いたエーテルは、体の震えを抑えるので精一杯だった。



  ◇



 ……翌朝。


「エーテルが戻っていない?」

「はい……昨夜から戻られていないようです」

 朝食の席にて。ハイドラは不安げな表情を浮かべ、そう言った。……エーテルは昨夜、窃盗団を探すため、繁華街へと繰り出していた。しかし、彼女は未だに帰ってきてないという。

「まあ、あいつのことだから、調査をそっちのけで男漁りしてる可能性もあるが……」

「ええ、それは否定できませんが……」

「ありそうだな……」

「お前ら酷ぇな……」

 グラの呟きにハイドラと―――そしてオクサの兄は同意するように頷いた。それを見て、オクサは呆れるようにそう漏らす。

「とりあえず、探しに行くか。あいつなら大丈夫だとは思うが、万が一ということもあるからな。それに―――もしかしたら、見つけたのかもしれないからな」

「では、私もご一緒します」

「じゃあ、あたしも―――」

「ちょ、オクサ、いい加減にこっちの仕事も手伝えよ!」

「そうだよ姉ちゃん、昨日、俺たちがどんだけ働いたと思ってんだよ」

「うっ……」

 エーテルの捜索に、オクサも当然のように同行しようとしたが、兄弟たちから反対意見が噴出した。……昨日は北部のウィルストン牧場まで行った後、グラと一緒に窃盗団の捜索をしていた。その前日にも、彼らをヘクスニア男爵に会わせていたため、一日半も仕事を休んでいたことになる。

「け、けどさ、元はといえばトレハ(うちら)の問題なんだぜ? あたしが行かなくてどうするんだよ」

「こっちだって仕事があるんだからな。こっちのことも考えくれよ」

「姉ちゃん、いつも人に仕事サボるなって言ってるくせに、自分はサボるのかよ」

「うぐっ……」

 それでも食い下がるオクサだが、兄弟から集中攻撃を受けて、ぐうの音も出なかった。

「オクサ、そんなに行きたいのか?」

「……え?」

 そんな中、オクサの祖父は、彼女にそう問い掛けてきた。

「確かに、今回の件はうちらの問題だ。けれど、お前がやる必要なんてない。お前は別に兵士でも貴族でもないんだ。―――それでも、やりたいのか?」

「爺ちゃん……ああ。あたしは、自分の手で、不届き者を成敗したい。それに、あのお嬢さんはうちらのために働いて、そして帰ってこなくなったんだ。あたしが行かないでどうすんだよ」

 祖父の言葉に、オクサはそう答えた。その瞳に迷いはなく、ただ力強い意思だけが宿っていた。

「そうか……なら、好きにしなさい」

「本当か……!?」

 そんな彼女に、祖父は許可を出した。まさか許してもらえるとは思っていなかったのか、オクサは身を乗り出して驚いている。

「ちょ、爺ちゃん……!」

「いいんだ。……今まで、うちのことばっかで、愚痴は吐いても我侭なんて言ったことがないオクサが、初めて自分から言い出したことなんだ。思う存分やらせてやりなさい」

「爺ちゃん……」

 抗議してくるオクサの兄に、祖父はそう返した。……身勝手な話であるにも関わらず、それを受け入れてくれた祖父に、オクサは感謝の念しかなかった。

「話は纏まったな」

 オクサの参加も決まり、グラはこう切り出した。

「この後、繁華街でエーテルを探す。……場合によっては、危険も伴うはずだ。それでも、もしものときは俺がお前たちを守る。だから、どうか力を貸してくれ」

「当然です、グラ様。必ず、エーテル様を見つけましょう」

「へっ、言うじゃねぇか。けどまあ、守ってもらうだなんて軟弱なことは言わねぇよ。自分の身くらい自分で守る。―――だから、お前はお嬢さんを見つけることに集中しな」

「ああ」

 そうして彼らは、エーテルを探しに行くのだった。



「……さすがに、くたびれたわね」

 その頃。エーテルはすっかり疲弊していた。……窃盗団のアジトで一夜を過ごすことになった彼女。入り口付近には常に窃盗団のメンバーが居座り続けていて脱出が困難であり、見つからないようにと隠形を維持し続けて精神的疲労も大きい。そうでなくても、見つかれば終わりという状況と、血生臭い部屋に隠れているというのも相まって、普通の人間なら耐えられないほどのプレッシャーを受けているのだ。これで疲弊しないほうがおかしい。

「もうそろそろ朝よね? ……グラたんたち、心配してるかしら?」

 仲間に迷惑を掛けているという自覚があるため、エーテルの気持ちも沈み気味だった。……もしこのまま戻らなければ、彼らは自分を探しに来るだろう。その場合、真っ先に怪しいであろうこの店に来ることは明白だ。だが、その場合、窃盗団と鉢合わせて襲われる危険がある。

「グラたんだけなら、大丈夫だと思うけど……」

 無論、グラが窃盗団如きに後れを取るとは思っていない。だが、窃盗団は数が多い。彼女が確認しただけで、アジト内にはまだ十人以上もいた。外に出ていた者達も戻ってきて、その人数になったのだ。しかも、どうやら彼らは刃物などの武器を装備しているようだった。それだけならばどうとでもなるのだろうが、捜索の際にハイドラを同行させていた場合、彼女の身にも危険が及ぶ。加えて、ハイドラを庇いながら、十人のも男を相手に無事でいられるか、不安で仕方ない。

「こうなったら、ちょっと無茶するしかないかも」

 そうなる前にと、エーテルは脱出を試みるのだった。

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