適材適所といえばいいのか、他力本願といえばいいのか
◇
「―――ここも空振りか」
昼食を終え。残る候補を巡り、グラは溜息交じりにそう漏らした。……さすがに、彼もすぐ見つかるとは思っていない。だが、それでも落胆せずにはいられなかったのだ。
「しゃーねー、一旦戻ろーぜ」
「そうだな」
仕方がないので、彼らは帰ることにした。街を歩いて、オクサの家へと向かう。
「……ん?」
その途中、グラは妙な光景を目にした。酒場と思しき場所から、兵士が一人、出てきたのだ。それだけならまだいいが、その店はどうにも営業しているようには見えなかったのだ。
「おい、あの店は?」
「ん? ああ、そこのバーは大分前から閉店してるよ。それがどうかしたか?」
「いや、今、あの店から兵士が出てきたんだが」
「兵士が? なんたってそんなとこに兵士がいるんだよ?」
グラに言われて、オクサが首を傾げた。空き家に兵士が出入りしている、というのは、確かにおかしな話だった。
「―――まあ、詳しいことはエーテルに調べさせればいい。俺たちは戻るぞ」
「ああ」
芽生えた疑問は棚上げして、グラたちは再び歩き始めた。
◇
「おっかえりー! どう? 成果はあったかしら?」
「なんでそんなにテンション高いんだよ……?」
オクサの家へと戻ったグラを、何故かハイテンションなエーテルが出迎えた。部屋にハイドラの姿はなく、彼女一人だけのようだった。
「どうせグラたんのことだから、適当に怪しいポイントだけ洗い出して、残りは私にやらせようって考えてるんでしょ? だったら、ここからは私の出番じゃない。気合も入るってもんよ」
「それは……さすがというか。まあ、やる気になってくれてるのは歓迎すべきだな」
そんな彼女に、グラはそう呟いた。……彼女がモチベーションを上げてくれるのはありがたいのだが、自分が他力本願な性格であると言われているようで、癪だったのだ。とはいえ、エーテルの機嫌を損ねるのもあれだったので、細かい不満はぐっと飲み込むことにする。
「それで、どうなの? オクサと一緒に、色々見てたんでしょ?」
「ああ」
そしてグラは、今日の成果をエーテルに話す。……酒場の場所と店名、それから開店時間に至るまで、オクサからの情報と、自分たちが足を運んで得た感想を事細かに伝える。無論、帰り際に見かけた兵士のことも話した。
「ふぅん……? 兵士が、閉店したはずの店に出入りしてた―――確かに、ちょっと引っ掛かるわね」
兵士の件は、エーテルも疑問に思ったようだった。
「お前はどう思う?」
「う~ん……可能性の一つとしては、単純に巡回してたってとこなんだけどね。廃屋って不良の溜まり場になりやすいし、老朽化すると危ないから、兵士が巡回するのはあり得る話だわ。ただ―――ううん。こればっかりは、ちゃんと調査しないと、何ともいえないわね」
グラの問い掛けに、エーテルは首を振った。何か思い当たる節があるようだが、推論を述べるよりも調査を優先したいようだ。
「じゃあ、ちょっと行って来るわね。ハイドラのこと、お願いね」
「それはいいが、ハイドラはどこにいるんだよ?」
「台所よ。会わなかった? 花嫁修業だって、体力が回復してからはずっと家事を手伝ってるわ」
そう言い残して、エーテルは部屋を出て行った。これから繁華街へと向かうのだろう。
「……ハイドラの様子でも見に行くか」
残されたグラは、一抹の不安を覚えながらも、ハイドラの様子を見に行くのだった。
◇
「……えっと、残ってるのはここだけね」
深夜。日付が変わる時間になっても未だに賑わい続ける繁華街を、エーテルは一人で歩いていた。……窃盗団のアジトを突き止めるため、酒場を梯子していたのだ。各所で聞き込みをするなど、グラたちよりも突っ込んだ調査もしていたのだが、現状は成果なしだった。
「グラたんが言ってたことも気になるし、調べておいたほうがいいわね」
最後に向かったのは、グラから聞いた、閉店したバーだった。ここに、兵士が出入りしていたというのだ。
「……っと、姿を消さないと面倒だわ」
エーテルは一度裏路地に入り、隠形の魔法で姿を消してから、店の入り口を潜った。……当然ながら、店には灯りが灯っていなかった。しかし、扉に鍵は掛かっておらず、入ろうと思えば誰でも入れる状態だった。
「う~ん……見た感じ、おかしなところはないのよね」
店内に入り、一通り眺めてみるものの、怪しいところは見受けられない。……彼女自身が思った通り、ただの巡回であったのだろうか?
「んしょ、っと……!」
「っ……!」
だが、突如聞こえてきた声と物音に、エーテルは硬直した。誰もいないはずの厨房から、男が一人出てきたのだ。……エーテルは隠形で姿を消しているので、勘付かれることはない。それでも、反射的に声を潜めてしまった。
「ふぅ……ったく、毎度のことながら、やりにくいったらないな」
男はそうぼやきながら、店から出て行った。
「……もう、行ったわね」
男が去り、エーテルはそっと息を吐いた。……だが、これで手掛かりは掴めた。恐らく、この店には地下室があるのだろう。男はそこから出てきたのだ。状況から、彼女はそう結論付けた。となれば、そこを調べない手はない。
「さてと……それじゃあ行きますか」
エーテルは厨房に入ると、しゃがんで床に触れた。すると、床板の継ぎ目から、僅かにだが光が漏れていることに気づく。そこに指を掛け、物音を立てないように持ち上げた。
「この辺かしら?」
そして、物音を立てないように細心の注意を払いながら、中へと忍び込む。
「……なるほど、そういうことね」
中に入って、エーテルは驚愕した。……地下室は思った以上に広く、地上部分よりも大規模だった。おまけに、ギアによって明るく照らされており、室内はまるで昼のようだ。そんな地下室には、大量の野菜が収容されている。また、野菜だけでなく、それらを乾燥させたり、漬物にするなど、加工品も作っているようである。
「ビンゴ、ってとこかしらね?」
これは最早、疑う余地などないだろう。―――ここが、窃盗団のアジトなのだ。
「盗んだままじゃあ足がつきやすいからって、態々ここで加工してるみたいね。ご丁寧に照明まで用意して」
しかも、盗んだ野菜の加工場まで兼ねている。照明用の発光ギアで水分を飛ばして乾燥させたり、塩漬けにすることで、隠蔽だけでなく付加価値の向上、更には体積の縮小によるスペースの節約まで兼ねている。組織掛かりで長年続けていた、というのも頷ける内容である。
「……確認も済んだし、さっさと退散したほうがいいわね」
アジトを発見して、エーテルはそう呟くのだった。




