まずは出来ることから
◇
「全く、即断即決なのはいいけど、もうちょっと落ち着きなさいよ。お陰で、牛に触る暇もなかったじゃない」
関所を出て。エーテルは、溜息混じりにそう言った。……彼女は牧場の牛と触れ合うのを楽しみにしていたのだが、結局それは叶わなかった。
「お陰で、ハイドラもバテバテじゃない」
「も、申し訳、ありません……」
そしてハイドラは、体力切れになって、エーテルに肩を貸してもらっていた。行きとは違いかなり速いペースでの移動だったので、彼女の体力が持たなかったのだ。
「すまない……」
「わ、悪ぃ……」
そんな彼女たちに、グラとオクサは平身低頭だった。……オクサは前にもハイドラに無理を強いたことがあったのだが、今回は自分が先走りすぎたという自覚があったのだろうか。
「全くもう……それで、どうするつもり? まさか、このまま窃盗団を探す、なんて言わないわよね?」
「ああ。捜索は俺一人でやる」
「結局やるんかい!」
グラの返答に、エーテルは思わず突っ込んだ。……確かに、グラ一人であれば、ハイドラにこれ以上の無理を強いることはないだろう。だが、それはそれで仲間外れにされているようで不愉快だった。
「あたしも行くぜ」
「いや、お前はそろそろ畑に戻れよ。俺たちに付き合って、ほったらかしになってるだろ?」
「うっ……」
オクサもついて行こうとしたのだが、グラにそう言われて呻いた。……実際、彼女はグラたちに付き合って、仕事が滞っていた。用事が済んだ以上、畑に戻らなくてはいけないだろう。
「い、いや、あたしも行く! ここまで付き合ったんだ、最後まで付き合うさ!」
「いいのか?」
「ああ。こういうときは、普段サボってる野朗共にやらせればいいんだよ」
だが、オクサは仕事よりもグラを優先した。……たまには、仕事から解放されたかったのだろうか? 畑仕事だけでなく家事も手伝っていたのだから、そうであっても無理ないが。
「……じゃあ、私とハイドラは先に戻ってるわね」
「二人で大丈夫か?」
「平気よ。子供じゃないんだから、心配しないで」
というわけで、エーテルとハイドラとは別行動となった。
「んで、結局どうすんだよ?」
「とりあえず繁華街のほうまで行く。あの辺は外部の人間が多く出入りしてる、というか集中してるからな。怪しいのは酒場辺りなんだが、他には宿泊施設も候補だ。賭博場があればそれもな。ま、今日は一通り見て回るだけで、本格的な捜索はエーテルたちと協力したほうがいい」
「んだよ、折角手伝ってやろうってのに、そんだけかよ」
歩きながら、今後の方針を話し合うグラとオクサ。しかし、グラが示した方針に、オクサは不満のようだった。
「これも結構重要なんだぞ? 繁華街に範囲を絞ったって、全てを捜索しきるのは無理だ。となれば、予め可能性の高い場所を割り出して、効率的にこなす必要があるだろ」
「へいへい、そういう頭使うことはそっちに任せるよ。あたしは足使って探すほうが性に合ってる」
「だろうな」
言いながら、彼らは繁華街までやって来た。エーテルやハイドラに配慮しない分、二人だけのほうが早く移動できるのだ。
「さてと……まずは酒場だな。この辺だと酒場は何軒ある?」
「四軒はあるぜ。今の時間でもやってんのは二軒だけどな」
「なら、まずはそこだな」
彼らはまず、一番近くにある酒場を尋ねることにした。昼間の酒場はレストランとして営業している場合が多く、その酒場もそうだった。
「んで、どうするんだよ?」
「とりあえず、昼食代わりになんか食うか。そのほうが居座りやすいしな」
グラたちは酒場に入ると、席に着いて適当に料理を注文した。そして、料理が来るまでの間に、店内を軽く見回す。
「あからさまに怪しそうなのはいねぇな……」
「怪しいのは、昼間から豪勢な飯を食ってる奴とか、高い酒を飲んでる奴だな。盗みで儲けてるなら、食事が豪華になるのが自然だからな」
「そういう奴もいねぇみたいだな……」
店内の客は、グラたちを除くと、作業服姿の男性や、若い女性など、仕事の休憩時間と思しき者達ばかりだった。窃盗団の一味がこの中にいるとは考えにくい。
「ま、ここに常時いるとは限らないからな。飯食ったら次に行けばいい」
「へーい」
やがて、二人の元に料理が運ばれてきた。グラはミートスパゲティ、オクサはカレーライスだった。
「つーかさ、こういうのって叔父さんに相談したほうが良くね? 叔父さんだったら、もっといい方法を知ってるだろうし」
「ないな。というか無理だ」
「どうしてさ?」
食べながら、二人の話題はヘクスニア男爵についてとなっていた。北トレハへと向かうようにアドバイスしていた彼ならば、また何かいいアイディアをもらえると思ったのだろうが、グラはそれを否定してしまう。
「ああいう手合いは、子供に極力手を貸さない。なんでも自力で解決させようとする。窃盗団云々だって、あいつは確実に知ってたはずだ。だが、あいつはそれを直接教えず、現地に向かわせるなんて遠回りな方法を選んだ。しかも、初回でそれだからな。次からはヒントもくれずに追い返すだろうさ」
「あー、確かにな。叔父さん、昔っからそういうとこあったわ」
グラの言葉に、オクサは納得したように頷いた。そしてグラは、こう続ける。
「ただ……あいつが今まで、何もせずに手をこまねいていたとは思えないんだよな。何かしら対策を打っているはずなんだが、何か知らないか?」
「んー……叔父さん、ああ見えて結構忙しいからな。案外、何もしてないんじゃね? パーヘ公爵の影響力から南を守ってたし、こっちはこっちで窃盗団への対処もしなきゃだし、北のほうまでは手が回らねぇよ、さすがに。だから、お前に任せたんじゃねぇの?」
「なるほどな」
オクサの答えに、今度はグラが頷いた。……ヘクスニア男爵の領地がどこまでなのかは分からないが、貴族であればまずは自分の領地を守らなければならない。パーヘ公爵からの干渉を防ぎ、窃盗団の対策をし、その上で公爵家の問題にまで首を突っ込むのは難しいに違いない。或いは最初から、グラたちが自発的に窃盗団を探すようにと手を回したのかもしれない。そうすれば、数々の問題を一挙に解決できるのだから。
「だが、そうなると余計に解せないな」
「何がだよ?」
「お前とあの男爵が血縁だってことが」
「……ほっとけ」
グラに言われて、オクサは拗ねるように顔を背けるのだった。




