気遣いできるボーイッシュガール/お尻の軽いビッチ
「さてと、んじゃまあ戻りますか」
屋敷を出て。オクサはそう言いながら、家のほうへと歩き出した。
「……」
「グラたん? 大丈夫?」
「お気を確かに。グラ様が気になさることではありません」
そして、彼女に続くグラたち。だが、グラはヘクスニア男爵との対話でショックを受けたのか、屋敷を出たときから無言だった。そんな彼を、エーテルたちが心配している。
「んだよ、女々しい奴だな。叔父さんに説教されたくらいでめそめそしてたら、妹なんか一生見つからねぇぞ」
「ちょ、そんな言い方……!」
「だって、そうだろ? 間違ってるって言われたくらいで凹んでたら、途中で挫折しちまうだろ。男なんだから、もっとしゃんとしろよ」
「それは……」
そんなグラに、オクサは呆れ交じりでそう言った。正論過ぎて、エーテルやハイドラにも擁護のしようがなかった。
「……いや、その通りだ」
「グラたん?」
「グラ様?」
「おっ? ようやく目が覚めたか? こりゃ、張っ倒す手間が省けちまったか?」
彼女の言葉に、グラは顔を上げた。それを見て、オクサは愉快そうに笑う。
「ああ。……元々、ナッタを見つけ出すのは困難だと分かっていたんだ。この程度のことで挫けていたら、ナッタに笑われる」
「へっ、そうこなくっちゃな。お前はあたしと互角に渡り合った男なんだ。それくらいの意気込みがなくてどうするんだよ」
完全に立ち直ったグラの肩を、オクサはバンバンと叩く。……彼女なりに、グラを心配していたのだろうか。
「そんじゃあ、細かい話は明日にしようぜ。今日は休んでろよ」
「いや、一方的に世話になるのもあれだからな。少しは手伝うさ」
「いいのか? 結構な重労働だぜ?」
オクサにそう申し出るグラだが、彼女は驚いたように返してきた。彼がそんなことを言うだなんて、思っても見なかったのだろう。
「ああ。これでも畑仕事は慣れてるんだ。たまには土に触れるのも悪くない」
「そっか。なら、頼むぜ。バリバリ扱き使うからな!」
だがグラとしては、気分転換も兼ねて、久々の農作業がしたかったのだろう。そんな意思を汲み取ったのか、オクサは冗談めいた口調で(内容は恐らく本気だろうが)そう言った。
「なら、私も手伝うわ」
「私も手伝います」
「あー、お嬢さん方は止めとけ。正直、戦力外だ」
グラがするのならばと、エーテルとハイドラも手伝いを申し出るのだが、オクサは手をひらひらと振って断った。……実際、二人に慣れない農作業は難しいだろうし、本音を言えば、オクサとしてもその面倒を見るのは手間なのだ。
「でも……」
「それよか、母さんを手伝ってくれよ。母さん、家のことだけじゃなくて、畑のほうでも働いてるからな。あたしも家事はちょいちょいフォローしてんだけど、お前らのほうが向いてるだろ?」
「……! そうね、そうさせてもらうわ」
「はい、喜んで!」
しかし彼女は、母親のフォローを二人に頼んだ。彼女たちも、何か役に立ちたいと思っていたので、それに応えた形だ。
「うっし、そんじゃあ、いっちょ働きますか」
そうして、彼らは労働で汗を流すのだった。
◇
……夕方。
「ん~! なんか今日は久々に働いた感じがするわね」
オクサの家にて。エーテルは伸びをしながら、そんなことを漏らした。……彼女は元々宿屋の娘であったために、家事は割とできるほうであった。前にもアシッドで食堂を手伝ったが、給仕よりも、今日のような掃除や洗濯のほうが、仕事をしている気分になれた。
「でも……働いた後は、やっぱりあれよね」
だが、彼女としてはまだ少し物足りなかった。……それは、彼女にとっての労働は、掃除や洗濯だけではなかったからだ。
「さすがに……これだけ男日照りだと、調子が出ないのよね」
そう、男の相手も、彼女の仕事だった。しかも、エーテルの場合は趣味も兼ねていたので、この状況はストレスを溜めてしまうのだ。
「グラたんは淡白だし、手頃な男が近くにいたらいいんだけど……」
彼女は今まで、グラについていたために、男遊びを控えていた。けれども、グラがエーテルに興味を示さないので、欲求不満が募る一方だった。そろそろ発散したいと思うのも無理ないのかもしれない。
「あ、そういえば……オクサのお兄さんとか、丁度いいかも」
そこで彼女が目をつけたのは、オクサの兄だった。彼は若いし、日々の農作業で体が鍛えられているので、エーテルの好みにも合う。それに、どうせここにはそう長くいないつもりなので、後腐れもない。そういう意味で都合が良かった。
「ふぃ~。やっぱ、仕事の後の風呂は最高だな~」
「ふふっ、噂をすればなんとやら、ね」
そんなエーテルの前に、都合よくオクサの兄が姿を現した。どうやら風呂上りのようだが……オクサたちがまだ戻ってないのを見るに、彼だけ早めに切り上げてきたのだろう。オクサは、家族のことを勤勉でないと評していたが、それはあながち間違いではないようだな。
「お兄~さんっ!」
「おっ、お客さんじゃねぇか。どうした?」
「ねぇねぇ、お兄さん……私と、い・い・こ・と、しない?」
「へ?」
エーテルは上目遣いに、妙に色っぽい声で、そう言った。
「な、何を……?」
「何って、ナニよ? 例えば―――」
「ちょ……!」
戸惑いながら後退る彼の手を取り、自身の胸に押し当てるエーテル。突然の行動に、彼は狼狽しながらも、抵抗する素振りを見せない。
「お兄さん、毎日畑仕事で、女の子と遊ぶことなんてあんまりないんじゃない? 結構溜め込んでるでしょ? だったら―――私と、イケナイ遊び、しない?」
「い、いいのか……?」
「駄目だったら、声掛けてないわよ」
「だ、だったら―――」
簡単に誘惑にあっさり負け、彼は空いた手でエーテルの肩を抱き寄せようと手を伸ばし―――
「何やってんだよ、お前ら?」
「エ、エーテル様……!?」
「はっ……!」
そして、聞こえてきた声で我に返り、彼女と距離を取った。
「兄貴、何やってたんだよ?」
「どういうことですかエーテル様……!? そのようなことを、それも、こんなところで……!」
「あの、ちょっと、落ち着いてハイドラ。これには色々と細かい事情があってね」
不審な目を向けてくるオクサと、真っ赤な顔で抗議してくるハイドラ。二人は偶然、この場に居合わせてしまったらしい。
「言い訳されるのならば―――このことは、グラ様に報告しますっ!」
「ちょ、待ってハイドラ……! それだけは勘弁して……! ただでさえ難攻不落なのに、余計に攻略が難しくなるじゃない……!」
「……で、どういうことなんだよ?」
「それは、その、えっと……」
グラに告げ口しようと立ち去るハイドラと、彼女を追い掛けるエーテル。残されたオクサの兄は、妹からの冷たい視線にたじろくのだった。




