自然な流れでお宅訪問
「つーわけで、お前らちょっと付き合えよ」
自己紹介を一通り終えて。農場で出会った少女―――オクサは、そう言って、彼らに農場を案内した。
「この辺は芋畑で、あっちのほうは大豆畑だな。んで、そっから先は麦畑だ」
オクサの説明は大雑把だったが、この広大な農地では細かい説明などしようもないので、然程問題にならなかった。
「ほんと、どこまで行っても畑しか見えないな」
「んー? 一時間くらい歩けばうちに着くぞ?」
「い、一時間……」
オクサの言葉に、ハイドラは表情を引き攣らせた。……今日の疲労は入場の際の待ち時間である程度回復したが、それでも更に一時間歩き続けたら―――そう思うと、疲労がぶり返しそうになるのだろう。
「そうだ、お前らうちに来いよ。旅行者なんだろ? 町の宿はべらぼうに高けぇからな。さっき襲っちまった詫びも兼ねてさ」
「それは助かる」
「ええ。よろしくお願いするわ」
「は、はい……」
だが、オクサの厚意により、そのまま彼女の家まで行くことになった。……ただで泊めてくれるというのだから、断る理由はない。さっきの謝罪も兼ねていると言われれば、遠慮するのも難しい。まして、グラとエーテルは完全にその気になっている。つまり、ハイドラはあと一時間もの間、このだだっ広い農地を歩き続けなければならないのだ。
「どうしたハイドラ? 顔が真っ青だが?」
「へ、平気です……! 私は元気ですから……!」
「?」
故にハイドラは、彼女の様子がおかしいと気づいたグラに、そう言う外なかった。
◇
……一時間後。
「はぁっ……ひぃぅ……ふぅっ……」
「なんだよ、だらしねぇな」
「も、申し訳、ありま、せん……」
オクサの家に着いて。ハイドラは案の定、疲労困憊でぐったりしていた。朝から半日の移動で疲弊していたのに加え、夕食に使うからと、オクサが近くの畑から作物を収穫しては彼らに持たせたせいで、彼女の家に到着したときにはこの有様だった。
「勘弁してくれ。そいつはあまり体力に優れないんだ」
「これだから、都会育ちのお嬢様はいけねぇな」
当然、グラやエーテルも作物を持った。いや、ハイドラの負担を軽くするために、手に抱えきれない分を肩に引っ掛けてまで持った。だが、オクサはハイドラにも負担を強いた。いや、それくらいの量を収穫していったのだ。無論、彼女が貴族育ちで、体力に自信がないことも伝えたのだが、オクサは聞く耳持たなかったのだ。
「で、でも、これはさすがに酷いわよ……そりゃ、ただで泊めてもらうんだから、お手伝いくらいするわよ? けど、これは無茶振りじゃない」
「んだよ、お前も貧弱だな。そんなんだから貧相に育つんだぞ」
「ひ、貧相……ええ、そうよね。どうせ私は、女子力皆無の筋肉女にも負ける程度のサイズしかないですよぅだ」
ハイドラを擁護しようとしたエーテルだが、オクサにそう言われて落ち込んでしまう。……オクサが言いたかったのは、彼女が痩せすぎだということだろう。だが、エーテルはそれを胸のサイズと受け取ったようだ。実際、オクサのほうが彼女よりも胸が大きかった。日頃から農作業で体を鍛えているお陰だろうか。
「あんまりうちの女性陣を虐めないでくれ……いや、そっちは素でやってるんだろうが」
「虐めてなんかいねぇよ。……仕方ねぇだろ。生まれてこの方、ずっと畑で過ごしてきたんだ。お嬢様の扱いなんて分かるかよ」
「すまん、責めるつもりはなかったんだが……とりあえず、ハイドラには無理をさせないでくれ。倒れられたら困る」
「お、おぅ……」
てっきり、ハイドラに無理をさせたせいで責められていると思っていたオクサ。だが、グラに頭を下げられて、拍子抜けしてしまった。
「……お前、変わった奴だな」
「そうか?」
「ああ。なんつーか、調子狂うぜ。連れを気遣うのは分かるけど、あたしのことまで気に掛けやがって……そんなに他人ばっか気にしてて、疲れないか?」
「そのつもりは全くないんだが……」
オクサに言われて、今度はグラが困惑した。……彼にとって、エーテルもハイドラも、自然と気遣えるくらいには大切な存在となっていた。しかし、彼自身にはその自覚がないため、他人から指摘されると戸惑ってしまうのだ。更には、自分からすれば当然の謝罪すらも評価されれば、スマートな返答などしようがなかった。
「ったくよー、うちの野朗共にも見習わせたいくらいだぜ。みんな自分勝手で、人に仕事を押し付けやがって。こっちだって暇じゃねぇんだぞ。自分のパンツくらいは自分で洗えや」
「今の台詞で、お前の生活環境がなんとなく分かってしまったな……」
愚痴を零しながら、オクサはグラたちを家に案内していく。オクサの家は平屋だが、やたらと大きな木造建築だった。さすがに貴族の屋敷ほどはないが、他の町の民家に比べたら十分に大きい。
「まあ、ここも半分くらいは仕事用だから、実際はそんなに広くねぇんだけどな。おーい!」
オクサは言いながら、野菜が入った籠を玄関に置いた。そして、家族を呼ぶ。
「おー、戻ったかオクサ。ん? お客さんか?」
「ああ。うちに泊めることになった旅行者だよ」
「そうか、それはいい。うちにお客さんなんていつ以来だろうか」
出迎えてくれた老人は、オクサの言葉にそう答えた。彼女の祖父だろうか? グラたちを歓迎している。
「皆さん、こちらへどうぞ。畑を歩いて疲れたでしょう? さ、こっちでゆっくりしてくださいな」
そしてもう一人、中年の女性が現れて、彼らを居間へと案内する。こちらはオクサの母親だろうか?
「んー? お客さんかー?」
「姉ちゃんがお客さん連れてきたの?」
すると、今度は少年が二人やって来た。年上のほうはオクサの兄で、年下のほうは弟だろうか?
「な、なんか、あっという間にぞろぞろと沸いてきたわね……」
「は、はい……まるで手品のようでした」
「まあ、もうすぐ夕方だからな。ほんとならもうちょい仕事なんだが、今日は出荷作業とか色々あるし、早めにうちに戻ってんだよ。んなことは置いといて、お嬢さん方はその辺で寛いでろよ」
一瞬での家族勢揃いに、呆気に取られるエーテルとハイドラ。そんな彼女たちに、オクサは居間のクッションを勧めた。
「今日はご馳走作らないとね」
「あ、あたしも手伝うよ」
そして彼女は、母の手伝いに加わった。畑仕事の後は家事と、働き者のオクサだった。




