鉄血系ヒロイン(熱しやすく冷めやすいという意味で)
「とりあえず、畑の見学しましょうよ」
広大な農地に圧倒されていたグラたちだが、エーテルの一言で動き出した。畑の中を進み、適当なところで立ち止まった。
「これ、何かしら?」
「芋だな。村で育ててた」
エーテルがしゃがんで作物を眺めると、グラは彼女にそう言った。このあたりは芋畑になっているようで、畝からは茎がいくつも顔を出している。
「へー。お芋って、ほんとに地面に埋まってるのね。初めて見たわ」
「はい、私もです」
「さすがに、木になってる、なんて勘違いはしないか」
エーテルたちの言葉に、グラはそう呟いた。……昔、「町の連中は、芋が木になっていると思っている」という話を行商人から聞いたことがあったのだ。そのことを思い出したらしい。
「私はちゃんと学校でてるけど、そうじゃない女の子たちはそんな勘違いしてるわよ? 「芋は木の実の一種」、「小麦粉は花粉」、「赤ちゃんはキャベツ畑から生えてくる」なんて本気で信じてるし。あ、因みに最後のはハイドラね。私がちゃんと教えてあげたけど」
「エーテル様……!」
エーテルがそう言うと、ハイドラは顔を真っ赤にして叫んだ。……一体、どういう流れでそんな話になったのか。想像しないほうがいいだろうか?
「あの小父様ったら、ハイドラにちゃんと性教育してなかったみたいなのよね。ま、父親には荷が重過ぎるから、仕方ないんだけど」
「エーテル……止めてやれ。ハイドラが真っ赤になって沸騰しかけてる」
エーテルにからかわれて、ハイドラは頭から湯気が出そうなほどに赤くなっていた。
「最近少しはマシになったと思ったけど、やっぱりまだまだ初心ね」
「お前には羞恥心という奴が足りなさ過ぎるんだ」
「グラたん……私にだって、羞恥心くらいあるわよ。もしなかったら、そもそも服を着て歩いてないし」
「極端すぎるわ」
奔放すぎるエーテルに、グラは頭痛を抑えるのに苦労した。……もう慣れてきたとはいえ、彼女の言動に振り回されて、精神的に疲弊してしまうのだ。
「それじゃあ、後学のために、ちょっと触らせてもらいますか」
グラを論破(?)して、エーテルは畑の見学に戻った。初めて見る芋に興味津々のようで、その葉へと手を伸ばす。
「くぉぉおらぁぁあーーー!」
「……!?」
だがその直後、何者かが大声を上げて、エーテルに襲い掛かった。
「っ……!」
「うぉっ……!?」
その襲撃を、グラは咄嗟に木刀を抜いて受け止めた。襲撃者は反動を利用し、バックステップで距離を取って、手にした得物―――鍬を構え直す。
「てめぇら……うちの畑に何しやがる!」
鍬をグラたちに突き出し、襲撃者の少女はそう叫んだ。……長身で、筋肉質な体型の少女だった。丈が短いタンクトップにショートパンツと、露出が多い格好で、そこから覗いている肢体は見苦しくない程度に筋肉がついている。日焼けのためか肌がやや黒くなっているものの、それが逆に健康美を醸し出している。
「さては盗人か!? うちの畑に盗みに入るとは、いい度胸してるじゃねぇか!」
少女は、その短い赤毛を揺らし、綺麗に整った容貌を憤怒に染めて、再びグラたちに襲い掛かってきた。
「落ち着け、誤解だ」
「何が誤解だ! 泥棒の言うことなんか信用できるか!」
鍬を木刀で受け止めながら説得を試みるグラだが、少女は頭に血が上っていてまともに取り合わない。
「この阿呆が手を伸ばしたのはちょっと触りたかったからで、決して盗むつもりはなかったんだ」
「うるせぇ! 木刀まで用意しといて何をほざきやがる!」
更には、グラが木刀を装備していることも、彼女の不信感を煽る原因となっていた。やがて、グラの木刀が徐々に押し負けてしまう。
「手荒にはしたくないが……仕方あるまい」
「うぉおっ……!?」
グラは溜息を吐くと、木刀を握る腕に力を込めた。そして少女を押し返すと、鍬を跳ね飛ばそうとする。
「このっ……!」
「はっ……!」
鍬を持ち上げさせられ、体勢を崩された少女は、強引に鍬を振り下ろそうとした。だが、その隙を突いて、グラは彼女の懐に潜り込んでいた。
「はぁっ……!」
「ぐぉっ……!」
そして、その腹に木刀を叩き込んだ。強烈な一撃を受け、少女がよろめく。
「うぉ……らぁーーー!」
だが、彼女は気合で体勢を立て直した。鍬を地面に突き刺し、グラを睨みつける。
「へっ、やるじゃねぇか……こちとら喧嘩では負けたことがなかったんだけどな、盗人の割に強いじゃねぇか」
「だから誤解だ。畑に盗みに入るほど、食事には困っていない」
「けど、そこの女がうちの芋に手を伸ばしてたじゃねぇか」
「エーテル、ちゃんと謝れ。これ以上拗れると面倒だ」
強敵との戦いが楽しかったのか、少女は不敵に笑う。だが、未だに誤解が解けていない。なのでグラは、エーテルに謝罪するよう指示した。
「ええ……その、ごめんなさい。芋が生えてるところなんて初めて見たから、つい触りたくなっちゃって」
「お、おぅ……」
エーテルも同感だったのか、彼女は素直に謝罪した。少女は戸惑いながらも、その謝罪を受け入れる。……楽しさのせいで怒りが収まったのか、エーテルが嘘を吐いていないと分かってもらえたようだ。或いは、謝られるとそれ以上怒れない性格なのかもしれない。
「ったくよぉ……そういう紛らわしいことするなよな」
「それについては謝るしかないんだが、そっちこそいきなり襲ってくることないだろ」
「畑泥棒に慈悲なんてあるもんか」
それでもなお、すっきりしない様子の少女。確認もせずに襲撃したことをグラに窘められるも、その件に関しては謝罪するつもりはない模様。
「まあ、自分が育ててきた作物を盗まれそうになったんだから、頭に血が上るのも無理ないが、次からは鍬で襲い掛かるのは止めてくれ。俺じゃなかったら、下手すれば死んでる」
「そういやあんた、すっげー強かったな。得物ありだからって、ここまでやる奴は初めてだぜ」
「これでも多少は修羅場を潜ってきてるからな」
少女に賞賛され、グラは嘆息しながらそう答えた。……これまで彼は、少なからず戦ってきた。キレートの件だけでなく、エーテルと出会う前にも悪人を成敗してきたのだ。今更農家の娘に襲われたくらいでどうにかなるわけがなかった。
「ははっ、面白いなあんた。あたしはオクサ。あんたは?」
「グラリアクトだ」
「グラリ……なんだって?」
「長かったらグラでいい。そこの二人もそう呼んでる」
「おう、よろしくな、グラ」
そして少女―――オクサと自己紹介をして、彼らは和解したのだった。




