R18じゃないので、この辺で勘弁してください
「……ふぅ」
その頃、グラは。部屋のベッドに腰掛け、そっと息を吐いていた。……妹探しが振り出しに戻り、仕切り直しとしてトレハへと向かうことにした。だが、果たしてそれは正解なのか、グラは悩んでいた。アシッドにはいないだろうということだったが、それでも捜索範囲は依然として広い。何せ、「絶対にここにはいない」と断言できる場所が少ないのだ。マレイーナの証言からアシッドと、エーテルが住民票を確認した王都は除外できるとしても、オガーニ王国には未だ六都市が残っている。セルロやスチレなど、今までに訪れた都市であっても、隅々まで調べたわけではない。もしかしたら、それらの中に、妹がいるのではないか。或いは、その間にある宿場町にいるのか。そう思うと、気が遠くなる。
「まあ、ぼちぼち探すしかないんだけどな」
元々、妹探しの旅が、一朝一夕で終わるとは思っていない。一年、いや、下手したら数年以上の歳月を費やし、それでも見つからない可能性だってある。寧ろ、今のように場当たり的な探し方では、見つかるほうが奇跡と言えなくもない。それに、彼女は既に十八―――この国であれば、既婚者であってもおかしくない年齢だ。今更生き別れの兄と再会したところで、彼女の生活を壊してしまうかもしれない。自分としては、妹に一目会えればそれでいいのだが、実際に妹を前にした状態で、自分を抑えられる自信はなかった。
「あの、グラ様……よろしいでしょうか?」
「ハイドラか? いいぞ」
「失礼します」
そんなネガティブ思考に陥っていると、部屋にハイドラが訪ねてきた。……これがエーテルであれば、彼は決して部屋に入れなかっただろう。そもそも、彼女の場合は勝手に入ってくるが。
「どうしたんだ? またエーテルが馬鹿やらかしたのか?」
「あの……グラ様、お願いがあるのですが」
「何だ? 言ってみろ」
普段、あまり我侭を言わないハイドラが、自分からそう言い出した。故にグラは、折角だからと、彼女の願いを尋ねた。そして、できることならば、それを叶えてやりたいとも思った。
「―――抱いて、ください」
「……何?」
だが、さすがにそんなことを言われるとは想定していなかっただろう。グラは面食らい、まともに反応できないでいた。
「グラ様……私は、グラ様の女になりたいんです。一番にして欲しいとは言いません。結婚しろとも言いません。ですから……どうかご慈悲を」
「ハイドラ、落ち着け」
「私には、グラ様しかないんです……」
涙を目に浮かべ、ハイドラはそう訴えた。グラが宥めるも彼女は聞かず、ドレスのボタンに手を掛け始めた。
「ハイドラ、止めろ」
「……私はずるい女です」
胸をはだけたところで手を掴まれ、ハイドラはぽつりと漏らした。
「グラ様が、こうして迫られれば困ってしまうことも分かっています。そして、本気で迫られれば抵抗できないことも。ですが……私は、それでも、グラ様の温もりを感じたいんです」
ただひたすらに、グラに思いを伝えるハイドラ。そう言われて、グラの手も力が弱まってしまう。
「それとも、私のような女はお嫌いですか?」
「……確かに、それはずるいな」
ハイドラの問い掛けに、グラはそう答えた。……無論、グラが彼女のことを嫌うわけがない。だからこそ、彼はハイドラの思いに応えざるを得ないのだ。
「はい。私はずるい女です。グラ様のご寵愛を受け取るためならば、どんなことでもしますから」
「……ハイドラ」
「あっ……」
グラはハイドラの肩に手を置き、彼女を抱き寄せた。そして、その耳元でそっと囁く。
「……今は、これで勘弁してくれないか?」
「え……?」
だがそれは、愛の言葉ではなかった。
「お前に対して、不誠実なことをしているのは分かっている。だが、俺にはやるべきことがある。ナッタを―――妹を、見つけ出す。それまで、待ってくれないか?」
グラにとって、最優先なのは妹の捜索だ。それまでは、恋愛ごとに構ってはいられないのだ。だからこそ、彼は、断腸の思いでハイドラを突き放す。最大限の謝罪を込めて。
「ナッタを見つけたら、ちゃんと答えを出す。だから、それまで待って欲しい」
「……はい。待ってます。いつまでも」
「自分で言っておいてあれだが……いいのか? 必ずお前を選ぶとは限らないんだぞ?」
「構いません。選ばれるように、努力するだけですから」
身勝手ともいえるグラの願いに、ハイドラは健気にそう答える。
「ですが、その代わりに一つだけ」
「何だ?」
「暫く、このままでいさせてください」
グラの胸に顔を埋めながらそう言う彼女に、彼は手に込める力を強めることで応えた。
「グラ様……愛しています。例え、あなたが誰のものになろうと、我が身はあなたのために」
一途な彼女に何もしてやれない自分が歯痒くて。けれど、それを口にするのは憚られた。故にグラは、彼女に自分の温もりを与え続けるのみだった。
◇
「……すぅ」
「……眠ってしまったようだな」
あれから暫くして。ハイドラはグラに抱えられて、眠ってしまった。安心してしまったのだろうか。
「……それで、いつまでそこにいるつもりだ?」
「あら、ばれちゃってたのね」
グラが声を掛けると、エーテルが部屋に入ってきた。ドアの前にいたようだな。
「魔法を使って隠れてるのならば無理だが、普通にしてればさすがに分かる」
「ふーん。それはそうと、随分と甲斐性のない対応してたみたいね」
「どうせお前が焚き付けたんだろ?」
「まあね」
グラに追求されて、エーテルはあっさりと認めた。彼女は軽いノリだったが、グラとしては堪ったものではない。
「あまりハイドラに無理をさせるなよ」
「……それ、本人が起きてるときに言っちゃ駄目よ? ハイドラは、グラたんのために私の挑発に乗ったんだから」
「俺のため?」
エーテルから、彼女を焚き付けた際の状況を聞いた。……グラも所詮は男、女に手を出さずにはいられないと言って、ハイドラはそれが間違いであることを証明するため、グラに夜這いを仕掛けたのだ。
「そんなことがあったのか」
「ま、ハイドラは寧ろ私の言う通りだったほうが良かったんだろうけど……結局、グラたんは甲斐性なしの無責任男だったってことね。賭けはハイドラの勝ちだわ」
「いくらなんでも言いすぎだ」
目論見が外れて不機嫌なエーテルに、グラは批難の声を上げた。自分としては精一杯の誠意を見せたつもりなのだが、それを甲斐性なしの無責任と呼ばれるのは不本意だった。
「そういうわけだから、私は戻るわね。ハイドラが起きたら、ちゃんと可愛がってあげるのよ」
「頭くらいなら撫でてやる」
「言うと思った」
そうして、エーテルは部屋を出て行った。残されたグラは、ハイドラが起きるまでの間、彼女の温もりを感じ続けたのだった。




