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剣士とビッチと美少女七人(エトセトラ)  作者: 恵/.
3の章 ~星乙女と虚無の鉱山都市~
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別れと真実と、そして別れと



  ◇



 ……翌日。


「グラたんハロー」

「……何でお前は、勝手に部屋に入ってくるんだよ?」

 朝。グラの部屋にエーテルが入ってきた。いつものことであるが、突っ込みは欠かさない。

「元気になったかしら?」

「俺は元々落ち込んでなんかいない」

「強がりが言えるくらいはなれたのね」

 グラの様子に、エーテルは満足そうに頷いた。……妹に関する手掛かりが失われてショックを受けていたグラだが、それをいつまでも引き摺るようなことはなかった。

「それで、これからどうするの?」

「言うまでもない。―――ナッタはアシッドにはいない。なら、探しに行くしかないだろ」

「言うと思った」

 グラはあくまで前向きに、妹の捜索を続けていくつもりだった。……アシッドにいないということは、逆に言えば他の町にいるのだから、そちらを当たればいいのだ。そう考えれば、候補が絞られる分、やりやすい。

「次の目的地だが、流れ的にはトレハだな」

「農業都市トレハね」

 彼らは今まで、オガーニ王国内を東から北へと回っていた。なので、今度は北西部にあるトレハへ行くことにしたようだ。

「可能ならば今日にも出発したいな」

「私は別にいいけど……いいの?」

 グラの言葉に、エーテルは疑問の声を上げた。

「何がだよ?」

「だって、アシッドって、グラたんの生まれ故郷なんでしょ? しかも丁度北西地区なんだから、一日くらい見て回っても良くない?」

「構わんさ。通り道だから眺めるくらいはするが……俺が探してるのはナッタだ。故郷じゃない。ナッタがいない生まれ故郷になんて、何の価値もない」

「……そう」

 そう言うグラに、エーテルは悲しそうに呟く。そして、彼に背を向けた。

「……ハイドラに言ってくるわ。昼前には出発しましょう」

「ああ」

 グラが頷くと、エーテルは部屋から出て行った。その背中は、どこか寂しげだった。

「……あいつ、どうしたんだ?」

 そんな彼女の様子に、グラは首を傾げるのだった。



  ◇



「さて、行くか」

 昼前。グラたちは、アシッドを出発することにした。グラの行動パターンを読んでいたのか、エーテルやハイドラも既に準備を終えており、予定通りに出発できることとなった。

「もう、行っちゃうんですか……?」

「ええ。グラたんったら堪え性のない早漏だから、今すぐ妹を探すんだって聞かないのよ」

「スルホンちゃんもお元気で」

 急な出発に、スルホンは寂しそうにしている。……彼女は当然ながら、こちらに残る。いずれはスチレに戻り、また学業に専念するだろう。だから、グラたちについていくことなど出来ないのだ。元々アシッドへの案内役で来ただけだったしな。

「グラ君……」

「カルバも達者でな」

「……うんっ!」

 そしてカルバは、その瞳に寂しさを漂わせながらも、笑顔で彼らを見送ることにした。……彼女もアシッドに残る。ナフタリ伯爵は失踪して、少なくとも以前のような真似は出来ないのだから、これ以上一緒にいる必要もなかった。

「エーテルちゃん」

「何かしら?」

「グラ君のこと、よろしくね。末永く、お幸せに」

「ええ、当然よ。グラたんの童貞は私のものなんだから」

「おいこら」

 そう言って、エーテルとカルバは握手を交わす。エーテルの台詞にグラは突っ込むが、カルバは笑い声を上げるだけだった。

「ったく……さっさと行くぞ」

「あ、ちょ、待ってー! そういうわけだから、今度会ったらよろしくー!」

「またお会いしましょう」

 呆れ気味に背を向け、先に歩き出したグラを追って、エーテルとハイドラも慌しく別れを告げた。



「……行っちゃったね」

「うんー。ほんと、あっという間だったねー」

 グラたちが立ち去って。スルホンとカルバは彼らの背中を見送り、感慨深そうに呟いた。

「……カルバちゃん、良かったの?」

「何がー?」

「グラお兄さんのこと……好き、だったんでしょ?」

 すると、スルホンはカルバにそんなことを尋ねた。彼らを前にしては、口に出すのも憚られたことだが、今ならば聞くことが出来る。

「うん……でも、エーテルちゃんに悪いよ。それに、私はグラ君について行くのは無理だし」

 だが、カルバは既に割り切れていた。自分はアシッドを離れるつもりがないし、そもそも彼にはエーテルがいる。自分が横恋慕するのは良くないと、諦めることが出来た。

「え……? グラお兄さんとエーテルお姉さんって、付き合ってないはずだけど」

「え……?」

 だが、スルホンの一言で、カルバは自分の決意が崩れそうになるのを感じた。

「前に聞いてみたんだけど、付き合ってるわけじゃないんだって」

「で、でも、グラ君とエーテルちゃん、その、えっと……キ、キス、してた、し」

「そ、そうなんだ……で、でもね、エーテルお姉さんって、その、「びっち」って人らしくって、男の人と簡単にキスするんだって。前にも、グラお兄さんにキスしてって言ってたし」

「ビ、ビッチって……あっ」

 言われて、カルバにも思い当たる節があった。エーテルの言動は、確かに年頃の娘としては相応しくないものだった。しかしカルバは、彼女の下品な言葉遣いに違和感がなかった。ここの男たちは、あれくらいの言動など日常茶飯事だからだ。

「じゃ、じゃあ、グラ君とエーテルちゃんは付き合ってるわけじゃなくて……エーテルちゃんがちょっかい掛けてるだけなの?」

「多分……そうだと思う」

「えぇ……そんなのってないよぉ」

 真実を知って、カルバは落胆した。……正直なところ、「想い人には既に恋人がいて、泣く泣く諦める悲しいヒロイン」な自分に陶酔していなかったといえば、嘘になる。だが、そもそもそんな事実などないと知らされれば、己がこの上なく滑稽に思えてしまうのだ。

「えっと、その……元気出して、ね?」

「ちょっと、ううん、暫く引き摺るかも……」

 本当のことを教えてしまったせいで、意図せずカルバを傷つけてしまったスルホン。余計なことをしてしまったと、少し後悔した。

「はぁ……間抜けだなぁ、私」

「ご、ごめんね……?」

 落ち込みカルバに謝罪しながら、彼女に付き添うスルホン。

「……?」

 だが、その途中、スルホンはふと足を止めた。そして、人通りのない路地に目を向けると、ふらふらとそちらへ入ってしまう。

「……あれ? スルホンちゃん?」

 落ち込んでいたカルバもそれに気づいて、彼女の後を追い掛けた。

「スルホンちゃん……? どこ行ったの?」

 しかし、路地に入り込んだはずのスルホンは、忽然とその姿を消していた。



「―――巫女は確保した。花嫁と乙女の接触も順調。儀式は滞りなく、か。あの男は余計なことをしていたが、それが却ってプラスに働いたようだな」

 場所は変わって、鉱山の中。今は使われていない廃坑の奥にて、男―――キレートは呟いた。

「残る乙女は四人……彼らは出会うだろう。花嫁と乙女は惹かれあうもの。……花嫁の復活は近い」

 計画が理想通りに進んで、キレートはほくそ笑んだ。……傍らに、少女を一人、抱えながら。

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