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剣士とビッチと美少女七人(エトセトラ)  作者: 恵/.
3の章 ~星乙女と虚無の鉱山都市~
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そして邪魔が入るところまでがお約束


「あら?」

 いつになく妖艶な雰囲気のエーテルに迫られ、なすが儘になっていたグラ。だが、突然の物音に、エーテルが手を止めた。

「誰かいるの?」

 エーテルはグラから離れ、物音がした扉のほうへと歩いていく。しかし、扉の向こうを覗いても、そこには誰もいなかった。

「全く、出歯亀するなら静かにしなさいよね……さ、グラたん、続きしましょう」

「馬鹿言え、お断りだ」

 邪魔が入って興が冷めたのか、彼女の雰囲気はいつも通りに戻っていた。それでグラも正気に戻り、いつものように突っぱねた。

「ふ~ん? 初チューでドキドキしてたのはどこの誰かなぁ?」

「してないっての」

「あははっ、照れなくてもいいのに」

 からかわれながらも、グラは安堵していた。……あのまま邪魔が入らなかったら、自分は間違いなくエーテルと一線を越えてしまっていただろう。彼にはそれが、とても恐ろしく思えた。

「それじゃあ、私は戻るわ。お大事にね」

「ああ」

 そうして、エーテルは自分の部屋へと帰っていったのだった。



  ◆



 ……ほんの少し前。


「グラ君、どうしてるかなー?」

 店が終わり、カルバはスルホンの家までやって来た。鉱員たちに連れ回されたグラの様子が気になったのだ。

「あれ? エーテルちゃん?」

 グラの部屋まで行こうとしていたら、前方にエーテルの姿が見えた。彼女はカルバに気づかず、グラの部屋に入っていった。

「エーテルちゃんもグラ君のところかなー?」

 そしてカルバもその後を追い、そのまま入ればいいものを、ついつい悪戯心で、部屋の前で立ち止まり中の様子を窺った。

「え……?」

 扉の隙間から見えたのは、グラとエーテルが並んで座っている光景。いや、それは別に普通なのだが、問題はその後だ。エーテルが悪戯っぽい笑みを浮かべると、グラに顔を近づけた。―――この角度からだと、まるでキスしているかのように見えた。

「嘘―――どうして」

 一瞬、何が起こったのか分からなかった。そしてすぐに、これは見間違いだと思った。だが、それはないと悟ってしまう。漏れ聞こえる彼らの吐息は、微かではあったが、それが普通のものではないと明らかだった。経験のない彼女でも分かる、いや分かってしまう。彼らはキスをしているのだ、と。

「あっ……!」

 そして、エーテルが顔を離した。その彼女の横顔に、カルバは息を飲む。……エーテルの表情は、今までとは違い、艶っぽいものに変わっていた。上気した頬に、潤んだ瞳。そして相手を愛おしげに見つめるその視線は、まさしく女の顔そのものだったのだ。それを、自分と大して歳の変わらない少女が見せているという事実に、カルバは頭が真っ白になった。

「……っ!」

 そして堪らず、彼女はその場から逃げ出した。立ち去る際、大きな物音を立ててしまったのだが、それに気づく余裕もなかった。



「……っ」

 スルホンの家を出て、自分の部屋まで戻って来たカルバ。部屋の隅に蹲り、膝に顔を埋める。

「グラ君とエーテルちゃん、そういう関係だったんだ……」

 カルバが漏らしたのは、そんな呟きだった。……実際のところ、彼らは別に恋仲でも何でもないのだが、そう思うのも無理ない状況だった。

「そっか、そうなんだ……そうだよね、グラ君の秘密も知ってたんだから」

 そしてそう思うと、カルバは胸が締め付けられるような気がした。

「グラ君、エーテルちゃん、付き合ってたんだ……」

 二人の関係に少なからずショックを受け、そして気づいた。―――己の内に秘められた、自分でも気づかなかった思いに。

「そっか、私……グラ君のこと」

 だが、それ以上は決して口にしない。口にすればその思いは確定的になる。横恋慕なんてしたくなかったし、何より自身へのダメージが大きすぎた。恋を自覚する前に失恋、だなんて、簡単には受け入れられない。

「グラ君……」

 カルバは今まで、特定の男子と親しかったことはない。男たちは鉱山の仕事に従事することが多く、普段はあまり関わらない。接点は食事に来るときくらいだが、食堂や出前の時はみんなのアイドル扱いだった。そんな彼女が、初めてまともに話した男子がグラだったのだ。おまけに、窮地を救われ、彼の秘密を知った。これで全く惹かれなかったら、そのほうがおかしいとさえ思えるくらいだった。

「……すぅ」

 そうして彼女は、心の傷を癒すように、ゆったりと眠りに落ちた。少年のことを想い続けながら。



「たっだいまー♪」

「おかえりなさい、エーテル様」

 場所は変わって、スルホンの家。スルホンの部屋に戻って来たエーテルを、ハイドラが出迎えた。スルホンはまだ戻ってきていないようだな。

「~~~♪」

「随分とご機嫌ですね、エーテル様。何かいいことでも?」

「ふっふ~ん! なんと、遂に、グラたんとキスしちゃったのよ!」

「ほ、本当ですか……!?」

 自慢げにそう言うエーテルに、ハイドラは飛び上がりそうな勢いで驚いた。グラの身持ちが固いことは知っていたし、何がどうなってそういう状況になったのか分からないのだ。

「グラたんが酔い潰れてたから、その隙を突いて、不意打ちでね」

「ああ、そういうことでしたか……」

 しかし、事情を聞いて、ハイドラは合点がいった。彼が鉱員たちに連れ回されて飲まされていたのは聞いていたし、酔い潰れていたのならば隙を晒すのも納得だ。

「ですが、後で怒られませんか?」

「大丈夫よ、グラたんだって所詮は童貞だし」

「……本当に、後で怒られますよ?」

「大丈夫だってば。邪魔が入らなければ最後まで出来そうな雰囲気だったし」

「そ、そうですか……」

 最後まで、と聞いて、ハイドラは僅かに頬を赤らめた。さすがの彼女も、それくらいのことは想像できる―――というか、エーテルと一緒にいる間に出来るようになってしまったのだ。

「っていうか、案外冷静なのね」

「何のことですか?」

 そんな彼女に、エーテルは不思議そうに首を傾げる。

「だって、ハイドラってグラたんのこと好きなんでしょ? 私がグラたんとキスしたって聞いて、動揺してないの?」

「……していないわけでは、ありませんが」

 無遠慮ともいえるエーテルの質問に、ハイドラは躊躇いながらこう答える。

「確かに、私はグラ様をお慕いしています。ですが、グラ様が他の女性と懇意にされていても、それを咎めるつもりはありません。勿論、内心穏やかではありませんが」

「前にもそんなこと言ってたけど、疲れない? そういうの」

「不器用だとは思っています。ですが、正直エーテル様相手であればそれほどでもありませんよ? グラ様がエーテル様をお選びになるとは思っていませんから」

「ちょ、それ何気に酷くない……!?」

 ぶっちゃけるハイドラに、エーテルが抗議する。……とはいえ、素面のグラにはいつも袖にされているのだから、間違った評価ではないのだが。


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