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「……なんでお前がここにいるんだよ?」
「あ、そういうこと言うんだ。こっちは凄く心配して、態々穴から飛び降りたっていうのに」
エーテルの灯りに照らされたグラは、純粋な疑問を口にした。けれども、彼女はその問いを不快に思ったらしく、抗議するようにそう言った。
「っていうか、そっちこそ何なのかしら? 仲良く手なんて繋いじゃって」
そのせいなのか、グラたちが手を繋いでいるのを、彼女は額に青筋を浮かべながら指摘した。……まあ、心配して駆けつけたのに女の子とイチャイチャしていたら、誰だってイラッとするわな。
「落ちた時に誰かに襲われたんだが、出くわさなかったか?」
「ああ、変な男たちがいたけど、あれって悪い人だったのね。良かった、殴り倒しておいて」
「そんなさらっと言うことかよ……」
グラの問い掛けに、エーテルはそんな風に答えた。……複数の男に襲われてさらっと撃退できるっていうのは、さすがエーテルだと言わざるを得ないな。
「それじゃあ―――弁明のほう、聞かせてもらおうかしら?」
折角話を逸らしたのだが、彼女は見逃してはくれなかった。満面の笑みを浮かべながら、事情説明を促す。
「こういうことだ」
それに対して、グラはカルバの手を離すことで答えた。彼が手を離すと、カルバが使っていた点灯が再び効力を発揮し、彼女の周りが照らされる。
「なるほどねぇ。私が賊だと思って、姿を隠すために点灯を消したのね」
「咄嗟のことだったからな。その辺は勘弁してくれ」
誤解も解け、エーテルの怒りも収まる。そうして、お互いの状況を話し合う。
「私はグラたんたちを追い掛けてきたのよ。穴から飛び降りてね」
「お前、相変わらず無茶苦茶なことするよな」
「落っこちそうになってる女の子へ飛び込むグラたんほどじゃないわ」
とまあ、こんな風に呆れながらも、互いの状況を理解した。
「とりあえず、ここがどの辺なのか分からないと、脱出のしようがないわね……さっきの場所まで戻れば、上から引き揚げてくれるかもだけど」
「それがいいな。……さっきの連中はお前が倒したんだよな?」
「ええ。ただ、あれから少し時間が経ってるし、もう起きてるかも」
「ま、鉢合わせたら撃退すればいいか」
そんなわけで、彼らは元の場所へと戻ることにしたのだった。
「……あれ?」
落ちてきた場所まで戻ってくると、エーテルは首を捻った。……そこには彼女が倒した男たちが伸びているはずなのだが、誰もいなかったのだ。
「もう起きて逃げたのかしら?」
「いないならそれに越したことはないだろ。今のうちに戻ろうぜ」
「そうね。……ハイドラー! スルホンー! 聞こえるー?」
この機会を逃す手はないと、エーテルは天井に空いた穴へと声を掛けた。
「エーテル様ぁー! ご無事ですかぁー!」
「エーテルお姉さーん!」
「グラたんたちを見つけた来たわー! ロープかなんかで引き上げてくれるー?」
「了解ですー!」
上にいるハイドラたちによってロープが垂らされた。何本かのロープを即興で繋いで編み込んだもののようだが、彼らが脱出するのに十分な強度はあるようだ。
「さ、グラたんから行って」
「俺からでいいのか?」
「寧ろグラたんから行って。っていうか察して。紳士の振る舞いでしょ」
「……ビッチの癖に」
文句を言いつつも、特に不満はないので、グラは自分から脱出するのだった。
◇
「……ふぅ」
夜になり。グラはベッドの上に腰掛けた。……ここはスルホンの家だ。彼女の母の厚意により、今日はここに泊めてもらえることになったのだ。
「まさか、あんなに飲まされるとはな……」
グラは今まで、鉱員たちに連れ回されていた。……身を挺してまでカルバを助けようとした姿勢が評価され、彼らに気に入られたのだ。そのせいで、助け出されてからずっと酒場を連れ回されていたのだった。
「うっ……吐きそう」
酒場を梯子した上に、酒を浴びるように飲まされたため、グラは酔い潰れてしまった。元々酒は強いほうだったのだが、それでもさすがに耐えきれず、どうにか抜けてきたのだ。お陰で吐き気が止まらない。
「グラたーん!」
「勝手に入ってくるなよ……」
そんな彼の元へ、エーテルがやって来た。……因みに、女子たちはスルホンの部屋に泊まることになっていた。尤も、彼女はそんなことお構いなしに夜這いしようとするのだろうが。
「あら? 随分と調子悪そうじゃない」
「さっきまでアホみたいに酒を飲まされてたんだよ。頭痛いんだから、あんまり騒ぐな」
「あらら、それは災難だったわね」
言いながら、エーテルはグラの隣に座った。グラが功労者として連れ回されていたことは彼女も知っていたので、こうなることは半ば想定通りではあったが。
「お前こそ、今まで何やってたんだ?」
「私? それはほら、夜のお勤めって奴よ」
「……相変わらずだな」
「因みにハイドラやスルホンも一緒だったわよ」
「なんだと……!?」
エーテルの答えに、グラは驚愕した。……夜のお勤め、というのは恐らく、彼女がよくやっている小遣い稼ぎのことだろうか。しかし、それにハイドラやスルホンまで参加していると聞かされれば、さすがに落ち着いていられない。
「お前一人ならともかく、ハイドラやスルホンまで巻き込んだって言うのか!?」
「グラた~ん? 何か勘違いしてるみたいだけど、夜のお勤めって、カルバの食堂のディナータイムを手伝ってただけだからね~?」
「それを先に言え……!」
しかし、それはただの早とちりだと知らされて、グラは脱力した。
「あははっ、グラたんのお馬鹿さんね~」
「お前、絶対態とだろ……」
笑うエーテルに、グラは非難の眼差しを向ける。彼女の態度から、今の発言が確信犯だと理解したのだ。
「くっ……今ので余計に気持ち悪くなった」
「大丈夫? 急に興奮するからよ」
「させたのは誰だよ……」
体調の優れないグラは、エーテルとのやり取りで一気に疲れ切ってしまった。酒酔いからくる吐き気も増し、頭痛も酷くなる。
「じゃあ……もっと興奮させてあげるわね」
「何を言って―――」
グラの疑問は、最後まで口に出せなかった。何故ならば、口を物理的に塞がれてしまったのだ。―――エーテルの唇によって。
「んっ……」
唇の隙間から流れ込んでくる、熱い吐息。その甘い匂いと共に、口内に侵入するのは、彼女の舌だろうか。舌が彼の口内を撫で回していき、流れ込んでくる唾液の味に脳が麻痺してくる。
「ぷはっ……! ふふっ、どう? 興奮したでしょ?」
「お前、何を……」
突然のことに、グラは二の句が継げないでいた。……普段の彼ならば、エーテルにここまでの接近を許すことはなかった。だが、酔っぱらっていたことで隙が生じていて、そのせいで彼女の暴挙を許してしまったのだ。
「どう? どうせなら、このまましちゃう? 今なら、お酒の勢いだって言い訳出来るわよ?」
そうやって微笑む彼女は、普段とは違い、妖艶な雰囲気を纏っていた。いつもならば下ネタこそ口にしても、色気とは無縁のエーテル。だが、彼女は王都にいた頃、何人もの男を相手にしてきたのだ。その本領を発揮したということだろうか。
「……ね? どうかしら、グラたん。私と気持ちいいこと、しない?」
耳元で囁かれて、グラは自分の理性が溶けていくのを自覚しながらも、それに抗えないのだった。




