責任を取らずに目を背けていくスタイル
「……ふぅ。咄嗟に倒しちゃったけど、どうしたらいいのかしら?」
周囲で伸びている男たちを見やって、エーテルは呟いた。……条件反射的に攻撃してしまったものの、そもそも彼らが誰なのかとか、その辺りの事情を全く考えずに屠ってしまった。冷静になってみると、結構まずいんじゃないだろうか?
「ま、いっか。こんなところにいるほうが悪いし」
だが、エーテルはそのことを軽く流してしまった。……実際、彼らは先程カルバを襲っていたのだから悪人なのだろうが、彼女はそんなこと知る由もない。それ故に、そんなノリで流せないはずなのだが―――さすが、というべきか。
「ハイドラー! スルホンー! 聞こえてるー?」
エーテルは頭上の穴に向かって声を上げ、ハイドラたちに呼び掛けた。
「エーテル様ー! ご無事ですかー!?」
「エーテルお姉さんー! 大丈夫ー!?」
穴からは、上にいるハイドラたちの声が聞こえて来た。声が届くことを確認して、エーテルは状況を説明することにした。
「こっちは大丈夫よー! ちょっとトラブルもあったけど、グラたんたちを探してくるから、そこで待っててー!」
「了解しましたー!」
「気を付けてー!」
「了解! ……さて、っと」
エーテルは点灯のカートリッジをギアにセットして、真っ暗な坑道を歩き始めた。グラたちがどらちのほうへ移動したのかは全く見当もつかないが、その辺は勘で何とかした。……その勘が見事に的中しているというのが、彼女の怖いところなのだが。
「……いい加減、落ち着いたか?」
「……うん」
一方のグラとカルバは。カルバがようやく落ち着いて、彼女は手を離して点灯を発動した。
「でも、どういうことなの?」
「どういう、とは?」
カルバの質問に、グラはそんな風に問い返した。無論、それがどういう意図の質問なのかは理解したうえで、だ。
「グラ君、もしかして……魔神なの?」
「……さすがにばれるか」
カルバに指摘されて、グラは肯定するかのようにそう呟いた。……魔神には魔法が効かない。グラがカルバに触れている間、彼女の魔法が消えていることから、彼が魔神だと考えるのは当然の帰結だった。
「じゃあ、本当に……?」
「ああ。―――俺は魔神だ」
そうなれば、認めざるを得ない。グラは自分の正体をカルバに明かしたのだった。
「あ、やっぱりそうなんだー」
しかし、カルバの態度は思った以上に軽かった。……魔神といえば、オガーニでは畏怖の対象なのだが、彼女のそれはその前提を忘れさせるものだった。
「じゃあ、グラ君ってあれだよねー。最近噂の、正義の魔神さんなんだよねー?」
「……エーテルも言っていたが、それ、そんなに広まってるのか?」
カルバに言われて、グラは照れくさそうにそう尋ねた。……無論、噂になるように行動していたのだが、正義の味方だと言われればむず痒いのだろう。
「うんー。バイオで連続殺人犯を捕まえたとかー、ミトコで汚職事件を解決したとかー。あ、もしかしてセルロの連続誘拐事件を解決したのもグラ君なのー? 事件解決の立役者は魔神だったって噂だけどー?」
「それもか……」
なんと、既にセルロでの一件も広まっていたらしい。あのときは魔神だと名乗っていないはずなのだが、何故ばれているのか。彼の正体を知っているフタレイ子爵はそんなこと漏らさないと思うのだが。
「アシッドって、魔神伝説の関係もあって、魔神に肯定的な人が多いんだよねー」
「魔神伝説?」
「うんー。王国建国伝説の亜種っていうか、俗説みたいな感じなんだけど、アシッドでは有名だよー?」
この場に留まる理由もないので、とりあえず移動しながら、魔神伝説とやらについて聞くことにした。
「昔、アシッドは魔神の国だったらしいんだー。魔神の国は魔神だらけだったんだけど、魔神そのものは普通の人間だったんだよー。でも、魔神の人たちは属性石を使った魔法を使えたのー。ただ唯一、魔神の王様だけは魔法を使えなかったんだー」
この辺りは、国王から聞いた真の建国伝説に酷似している。その点から考えても、魔神伝説とやらはかなり事実に近い内容なのだろう。
「王様は魔法が使えない代わりに、魔法が全く効かなかったんだー。だから、魔神の国では一番強かったのー。それで、王様は最強の魔法使いをお嫁さんにして、この地を支配したのー」
魔法を使う魔神の中で、魔法が効かないというのは最強の証だった。故に、その最強の存在が王の座についたのだった。
「でもね、魔法を羨ましく思った余所の人たちは、魔神の国を滅ぼそうとしたのー。魔神のお嫁さんを捕まえてー、洗脳してー、王様と戦わせたのー」
真の建国伝説では、魔神の花嫁は六精霊に凌辱されたとなっていた。……まあ、一般に広めるためのアレンジの範囲だろう。
「そうして王様は負けて、魔神の国は滅んだのー。でも、アシッドでは未だに魔神が信仰の対象で、特に採掘作業の際は安全祈願の象徴なのー」
「……俺がいながらこんなことになったってことは、俺じゃあご利益ないってわけか」
カルバの話に、グラは皮肉気味にそう呟いた。……確かに、魔神であるグラがついていながらこんなことになっているのだ。彼としても複雑な心境だろう。
「そんなことないよー。グラ君がいたから、あの変な人たちから逃げられたんだしー」
だが、カルバは屈託のない笑顔でそう言った。……実際、カルバだけでは、あの男たちからは逃げられなかっただろう。ご利益とか全く関係ないが。
「だから、グラ君はもっと自分に自信持っていいと思うよー? 私からしたら、グラ君は魔神とか関係なく、正義のヒーローなんだから」
「……そうか」
カルバに言われて、グラは照れくさそうに顔を背ける。
「……静かに」
「え……?」
が、グラはすぐに彼女の手を掴んだ。魔神の特性により点灯の魔法が効力を失い、辺りがまたも暗闇に包まれる。
「誰か来る」
「……っ!」
そう小さく囁くと、カルバは身を固くした。先程の男たちが追い付いてきたのだろうか。後ろのほうから光が届いているのは、誰かが点灯を使っているからだろう。近づいてくる人の気配に、グラたちは息を飲む。
「んー? ……あれ? もしかしてグラたん」
しかし、聞こえてきたのはそんな間延びした声だった。エーテルが彼らに追い付いてきたのだ。




