元気系改め人の話を聞かない系ヒロイン
◇
「ふぃー。やっぱカルバちゃんの料理は最高だな」
「さすがにこの量はきついけどな」
あれから、男たちはカルバの料理を全て平らげてしまった。六人前なのでグラたちより量が多いし、それに加えて彼らの料理も平らげたのは驚異的だった。
「ほらねー、グラ君。男の子はこれくらい食べないとー」
「いや、こんなのを標準にされても困るんだが……」
カルバの発言に、グラは顔を引き攣らせる。……男たちが平らげた料理は、軽く見積もって全部で二十人前近く。一人頭三人前だ。それを基準に考えたら、確かにグラは小食だろう。
「うぇっぷ……お、お腹が重たいです」
「これ、絶対後で後悔するパターンよね……体重計が怖いわ」
一方、ハイドラとエーテルは腹を抱えて青褪めていた。未だに食べ過ぎから回復していないのだ。
「カルバちゃん、ほんとに作りすぎは止めて……」
「えー? でも、いっぱい作ったら必死に食べてくれるでしょー? そういうの見てると、頑張って作った甲斐があるなぁ、って思うんだー」
「カルバちゃん……」
「いや、いい話風に言ってるけど、それただの陰湿な嫌がらせだろ」
カルバの言葉に感動するスルホンだが、グラは冷ややかな目でそう言った。……要するに、料理を食べようと四苦八苦している様子を見て喜ぶわけだからな。食べてる側からすれば嫌がらせ以外の何物でもないだろう。
「グラ君、そうやって女の子を傷つける発言はどうかと思うよー?」
「じゃあお前はちゃんと人の話を聞けよ」
「えー? ちゃんと聞いてるよー?」
「じゃあ料理作りすぎるな」
話をちゃんと聞いているというカルバに、グラは辟易しながら突っ込んだ。
「それはそうと、これからどうするのー?」
「ほれみたことか、人の話を聞かない……」
「あ、そうだー。出前があるから、一緒に来るー? ついでに鉱山の案内とかするよー」
グラの言葉を華麗にスルーして、カルバはそんな提案をする。
「今日も鉱員さんからの出前?」
「うんー。今日は新人さんが入ったみたいで、いつもより一人前多いのー」
そしてスルホンは、カルバのスルーを更にスルーした上でそう尋ねた。……やはり慣れているのだろうか?
「それじゃあ、れっつごーごー♪」
そんなわけで、カルバに連れられて、鉱山へと赴くこととなった。
◇
「それで、こっちが休憩室ねー。毎度ー」
カルバに案内されてやって来たのは、鉱山にある休憩所。山の側面に掘られた坑道、その傍に設置されたプレハブ小屋で、鉱員たちの休憩室となっている。
「おぉ、カルバちゃん。そうか、もうそんな時間かぁ」
休憩所内では鉱員が一人、書類整理をしていた。彼はカルバに気づくと、手を止めて彼女たちのほうへ振り向いた。
「まだみんな中にいるのー?」
「ああ、そうなんだ。っていうか、後ろの子たちは……?」
「あ、お客さんだよー。あと、スルホンちゃんが帰って来たのー」
「おっ、スルホンちゃんか」
ここにもスルホンの知り合いがいた。……ほんとに有名人だな。というか、単純にご近所付き合いが盛んなだけか。
「中まで届けたほうがいいー?」
「そうしてくれると助かるよ。あ、ちゃんとメットはするように。後ろの子たちの分もあるから」
「はーい」
カルバは人数分のヘルメットを手にすると、グラたちにそれを渡す。そして彼らは休憩室を出た。
「じゃあ、行こっかー」
「鉱山に入るのか?」
「うんー。大丈夫だと思うけど、一応気を付けてねー」
言いながら、カルバは坑道に入っていく。グラたちもそれに続いた。
「うぅ……凸凹の道がお腹に響きます」
「うっ、吐き気が……気を付けてたはずなんだけど、当たっちゃったかしら?」
「大丈夫ー? ま、歩いてたら腹ごなしになるし、平気だよー」
ハイドラやエーテルは未だに腹を抱えているのだが、カルバは軽い調子でそう流した。……坑道はある程度整備されているものの、過食の状態で歩けるほど整っているわけではない。彼女たちは辛そうだが、カルバに半ば強引に連れ出されたのだから、行くしかない。ご愁傷さまだ。
「鉱山の中はこうなっているんだな」
「そうだよー。他の地区だと露天掘りっていって、山の上から削ってくやり方もするんだけど、こっちだとこうやって穴掘るのが多いかなー」
坑道を歩きながら、感想を漏らすグラに、カルバがそう説明した。……坑道内は真っ暗で、壁面に取り付けられたいくつものランタンと、カルバが使う点灯の魔法だけが辺りを照らしている。
「最近は新しいギア製品のお陰で結構楽になったらしいよー。昔は手で掘ってて、魔法技術の要なのに魔法は灯りだけってなってたんだってー」
「なるほどな」
「他にも、毒ガスが発生した時の対処もしやすくなったってー。相変わらずカナリアは重宝してるけどー」
そうしてカルバは、グラに鉱山のことを話していった。元々お喋りなのか、グラに説明しているときの彼女は、料理を作っているとき以上に生き生きとしていたのだった。
「とうちゃーく」
そうして彼らは、採掘現場へと辿り着いた。採掘現場では様々な機械が稼働し、鉱員たちが採掘作業に勤しんでいた。
「おっ、カルバちゃんじゃないか!」
「おいおめーら、飯の時間だぞー!」
カルバの姿を見つけて、鉱員たちが集まって来た。
「はいはーい。みんなー、ご飯だよー」
そんな彼らに、カルバは持ってきた弁当を配っていく。採掘作業で体力を消耗していた鉱員たちは、弁当を受け取るなり壁際に座り込んで食事を開始していた。
「うぅ……ちょっと休憩するわ」
「わ、私も、限界です……」
「だ、大丈夫……?」
一方、エーテルたちは力尽きて、その場にへたり込んでしまった。そんな彼女たちをスルホンが介抱しようとしている。
「……ん?」
そんな中、異変に最初に気付いたのはグラだった。―――洞窟内に響き渡る小さな揺れ。それは地震か、それとも崩落の予兆か。とにかく、危険な状態であることは明白だった。
「な、なんだ……!?」
「地震か……!?」
「てめぇら落ち着け……!」
揺れはやがて大きくなり、鉱員たちにも動揺が広がった。現場主任らしき男が指示を飛ばすが、混乱しているのか誰も耳を貸さない。
「きゃっ……!」
「カルバ……!」
そんな状態で、グラは更なる異変を察した。……弁当を配り終え、ちょうど一人きりになっていたカルバ。彼女の足元の地面にひびが入り、今にも崩れようとしていたのだ。
「くっ……!」
最早逡巡している暇もなかった。グラは全力疾走でカルバに突撃する。
「きゃあぁーーー!」
「カルバちゃん……!」
「グラたん……!」
「グラ様……!」
しかし、それでも間に合わず。グラはカルバと共に、地面に空いた穴に落ちて行った。




