鉱山都市と奇妙な一致
◇
……バスに乗り込んで。
「何度乗っても、やっぱりいいわよねー♪」
バスが動き出し、エーテルは声を弾ませながらそう言った。どうやら彼女は、この乗り物が大層気に入ったようだ。
「だが、こう何度も乗ってると、歩いて旅するのがしんどくなりそうなんだが」
「確かに……私も体力には自信がないほうなので、出来るだけ歩く癖をつけたほうがいいでしょうか?」
グラの言葉に、ハイドラがそんな風に反応する。確かに、彼女はスチレに来る途中でも体力切れでバテていたからな。
「そうよねー。何事も体力が一番重要だし。夜とか」
「夜……?」
「スルホンにはまだ早い」
毎度お馴染エーテルの下ネタに、スルホンはきょとんしている。……出来ることならばずっとこのままでいて欲しいと思うのは、男のエゴなのだろうか?
「というわけでぇ……グラたん、ここでヤる?」
「蹴るぞ」
「いやぁん、マジレスしないで頂戴よ」
「俺、そろそろお前を無条件でぶん殴る権利を得ても許されると思うんだが」
その流れでエーテルにからかわれて、グラは怒りを堪えながらそう呟く。
「SMプレイがお望み? 私、ちょっとマゾの気あるけど、あんまり痛くしないでね?」
「よし分かった、思う存分ぶん殴ってやるからな」
「あっ、ちょ……! い、痛い……! 痛いってばぁ……!」
「あ、あの、えっと……」
「スルホンちゃん、気にしなくていいですよ」
そしてそのままじゃれ合う二人に、スルホンはオロオロしている。だがハイドラは至って冷静に、彼女を宥めていた。……まあ、いつものことだからな。もう慣れてしまったのだろう。
「あっ、あぁっ……! なんか最近、殴られるのも良くなって気がするぅ……!」
「気色悪いわっ!」
「お二人とも、他の方々のご迷惑にならないようにしてくださいね」
「え、え……?」
グラの暴力に身悶え始めたエーテルと、若干引き気味なグラ。しかしハイドラは軽く流していて、それがスルホンをますます困惑させた。
◇
……数時間後。
「とうちゃ~く!」
そうして、バスはアシッドに着いた。バスの中からエーテルが飛び出してくる。
「お前、元気だな……」
対して、グラは疲れ切っていた。……結局、あの後もエーテルは調子づいたままで、グラは疲弊せざるを得なかったのだ。だというのに、殴られていたエーテルは生き生きとしている。これが体力の差なのか。それとも気力の問題か。
「グラ様、大丈夫ですか?」
「ああ……少し気分が悪いが、エーテルが馬鹿だからだろうな」
「ちょっと、それは失礼過ぎない!?」
グラの言葉に、エーテルが憤慨する。……しかし、彼女のハイテンションに付き合って疲弊したのだから、あながち間違いとも言えないな。
「それにしても―――ここがアシッドか」
じゃれついてくるエーテルを押し退けつつ、グラはそんな感想を漏らした。……岩肌が剥き出しになった山に囲まれ、全体的に緑が少ない風景。道は最低限の舗装こそされているものの、自然由来の大きな凹凸が残ったままだ。グラの気分が悪いのも、これのせいでバスが揺れたからだろうか。そして、町を囲む塀は元々あった岩を流用しているのか、継ぎ目の一つもなく、入り口の部分が開いているだけだった。塀の向こうには、段のついた山が聳え立っている。あれが鉱山なのだろうか?
「えっと、ここは町の東側で、特に緑が少ないです。西側のほうはもっと草木が生い茂っていますけど、何故かこっち側は植物が育たなくて」
「ふぅん? 地面に埋まってる属性石の影響かしら?」
スルホンの説明に、エーテルはそう呟いた。属性石は魔法の根源なのだから、その存在が周囲の環境に影響を与えているというのは、よく言われていることである。まして、その産出地ともなればその影響は甚大だ。
「では、行きましょうか、グラ様」
「ああ、ハイドラ」
それはそれとして。彼らは、鉱山都市アシッドへと足を踏み入れた。
◇
「ここがアシッドか……」
無事に入場手続きを終えて。グラは町を見て、そんな声を上げた。……町は鉱山の中、削られた岩肌の中にあった。石製の建物が並んだ通りでは、いくつもの荷車が行き来している。荷台にあるのは、赤や金、銀色の鉱石で、恐らくは採掘した属性石なのだろう。
「確か、アシッドの東側は太陽属性、月属性、星属性の属性石が採れたはずですね」
「は、はい……西側の鉱脈は陸属性、海属性、空属性の属性石が採掘されます。それぞれの鉱脈が町の北東、北西、東、西、南東、南西の六つに分かれていて、それぞれ星属性、陸属性、月属性、海属性、太陽属性、空属性という風になってます。東側が上位属性で、西側が下位属性です」
「ここは町の北東側だから、星属性の属性石が採れるのね」
女子たちは、アシッドで採れる属性石について話していた。……オガーニ王国の中央に位置するアシッドは、六種類の鉱脈が重なる場所でもあった。他の場所でも採れないことはないのだが、アシッドが一番豊富で、しかも全種類の属性石が産出するので、必然的にここが属性石の産地、魔法文化の要の一つとなったのだ。
「私の実家は北東地区ですから、すぐ近くです。……行きましょう」
「ああ」
スルホンの先導に従い、彼らはアシッドの町を進んでいく。……アシッドの町は民家の他、採掘した属性石の保管庫と加工場、或いは採掘に使う道具を扱う鍛冶屋、その他食堂や服屋などの日常生活に必要な店が立ち並ぶ。だが、中にはペットショップのような、動物を複数扱う店もあった。
「あの鳥はなんでしょうか? 特に数が多いようですが」
ハイドラが注目したのは、ペットショップに並べられた鳥籠だ。店先に並べられた鳥籠には、黄色い小鳥が収められていた。
「えっと、あれは―――」
「あれはカナリアだな」
「あれはカナリアね」
説明しようとしたスルホンの声を遮るように、グラとエーテルの声が重なった。
「鉱山の中に連れていくんだろ? 毒ガスが漂ってないか確かめるために」
「そうそう、属性石の鉱脈って変なガスとか漏れ出してくることがあるから、カナリアを連れて行って、異変がないか確かめるのよね」
「お二人とも、よくご存じですね」
グラたちの説明に、ハイドラは感心したように声を上げた。
「……昔、なんかの本で読んだんだろうさ」
「……私もよ。何の本かは忘れたけど、多分野鳥図鑑とかじゃないかしら?」
ハイドラの言葉に、二人はそう答える。そうして彼らは、スルホンの実家へと向かうのだった。




