そして新たなる舞台へと
「あ、あの、皆さん……」
話し合うグラたちの前に、スルホンがやって来た。どうしたのだろうか?
「スルホンちゃん、どうしたんですか?」
「えっと、その……ポリスさんに言われて、皆さんを案内することになりました」
「……本当か?」
ハイドラに問われて、スルホンがそう答えた。どうやら、彼女がグラたちをアシッドへと案内することになったらしい。だが、何故ポリスがそんなことを……?
「は、はい……学校も丁度長期休業に入るので、ついでに帰省するように言われました」
「なるほどね」
しかし、その理由は至極簡単。学校が休みなので、これを口実に帰省させようということらしい。……彼女はここ数日ほど学校へ行っていない様子だったのだが、単純に休みだったからなのか。
「じゃあ、早速明日から頼んでいいか?」
「は、はい……!」
というわけで、スルホンを仲間に加え、彼らはアシッドへと向かうのだった。
◆
……少しだけ前。
「スルホン、どうしたんだい?」
「ポリスさん……」
町の案内を終え、工房に戻って来たスルホン。そんな彼女に、ポリスが声を掛けた。
「あの、えっと……」
スルホンは、ポリスに事情を話した。グラに聞かれたこと、そして彼の妹がアシッドにいるらしいということ。
「それで、その……グラお兄さんに、アシッドを案内したくて」
「それは、彼に頼まれたのかい?」
「い、いえ……で、でも、迷惑掛けたのに何も出来てなくて―――せめて、それくらいはしたいんです」
スチレを案内することで、グラは彼女の償いとした。だが、スルホンとしてはその程度では罪悪感が晴れない。であるならば、彼のために何かしたいとなるのは自然な流れだった。
「そうかい……なら、行って来ればいいんじゃないかな?」
そんな彼女の心情を察して、ポリスはそう言った。
「で、でも―――」
「学校は休業中だし、たまには里帰りしておいで。ご両親も寂しがってるだろうから、顔を見せてあげないと」
スルホンが行きやすいよう、口実を用意してやる。そうなれば、彼女は必然、行くしかない。最早気にすることなど何一つないのだから。
「わ、分かりました……」
「うん、行っておいで。ゆっくりしてくるといいよ」
そうしてポリスは、グラたちの元へ向かうスルホンを見送った。
「……結局、あの子はああなる運命なのかな」
そして一人になり。ポリスは、誰にともなく呟いた。ここから先は、完全に彼の独り言だ。
「折角アシッドから出てきたのに、またこんなことに……どうあっても、あの子は狙われるしかないのかな」
スルホンは、生まれ故郷のアシッドにいる頃から、何者かに狙われることが多かった。いずれも未遂ではあったが、心配した両親が彼女をスチレに寄越したのだ。幸い、スルホンはギアの技術を学びたがっていたので、そういう意味でも丁度良かったのだ。
「今までは何とかなってたけど、この分だと……少し、考え直したほうがいいのかな?」
そんな理由もあり、ポリスはスルホンを預かることとなったのだ。彼女の両親とは親交があったし、彼女自身も優秀だったので、弟子にするのは寧ろ歓迎だった。だが、スチレに来ても相変わらずその身を狙われ続けているのであれば、今後はどうするべきか考え直す必要が出てくるだろう。
「まあでも、今更追い返すわけにもいかないかな」
だとしても、彼女はもう既に彼の弟子だ。どこにいても同じというなら、スチレに残らせるのも悪くはない。問題なのは、ポリスに彼女を守れるかということなのだが。
「とりあえずは、故郷でゆっくりしてくれればいいかな」
そうやって、ポリスは独り言を終えるのだった。
◇
……翌日。
「じゃあ、行くか」
「ええ、グラたん」
「はい、グラ様」
「は、はい……グラお兄さん」
朝、グラたちは工房を出る。これからアシッドへと向かうのだ。
「みんな、気を付けるんだよ」
「はーい」
ポリスに見送られて、彼らは動き出した。向かう先は、スチレの南西側出口、アシッドへ向かうためのゲートだ。
「アシッドまではバスがあるんだっけ?」
「は、はい……アシッドまでは直通のバスが出ていて、今からならお昼までには到着するはずです」
「相変わらず凄いな……」
アシッドはスチレとも関連が強いので、直通のバス路線が敷かれている。お陰で移動は比較的楽だ。徒歩なら数日は掛かる距離だが、バスならば数時間で到着してしまうのだから。
「アシッドって、どんなところなんだ?」
「えっと、町全体が鉱山っていうか、鉱山の中に町があるって感じです。男の人たちは大半が鉱山で働いて、女の人たちはお店をやって、そうやってみんなで支えあって暮らしてます」
鉱山都市の名に違わず、町の主要産業―――というかアシッドでは属性石の採掘以外、まともな産業がない。必然、町の住民は、その大半が鉱山での作業に従事することとなるのだ。他の住民も、鉱員の生活をサポートすることで生計を立てるわけで、鉱山こそが町の生命線と呼んでも過言ではない。
「なるほど……俺の故郷もそんな感じだったな。皆、畑仕事に追われていた」
「そうなんですか。グラお兄さんの故郷って、どこにあるんですか?」
「……まあ、アシッドよりは南のほうだな」
「じゃあ、王都のほうですか?」
つい故郷のことを口走ってしまったグラだが、スルホンが予想外なほど食いついてきて困惑してしまう。……彼の故郷―――というか生まれ育ったのは、辺境の村だ。それを明かすということは、彼が魔神だとばらすことになる。
「あっれ~? スルホンったら、グラたんのことに興味津々じゃない?」
「え、あ、う、そ、そんなこと、ない、です……」
しかし、エーテルにからかわれて、スルホンは赤くなりながら引っ込んでしまった。
「……悪いな」
「いいのよ別に。どうしてもお礼したいなら、後でキスして♪」
「馬鹿言え」
今のは、グラを助けるために、エーテルがお節介を焼いたのだ。グラはそれを察して礼を言うのだった。
「……それにしても。グラたんの妹がアシッドにいるんだったら、グラたんの故郷ってアシッドなんじゃないの?」
「かもな。けれど、実際に行ってみないことには分からんさ。そうでなきゃ、そもそもこうやって国中を旅してない」
「そうよねぇ……ま、その辺は着いてからのお楽しみってことかしら」
「だな」
果たして、アシッドには妹がいるのか。期待と、一抹の不安を胸に、彼らはアシッド行のバスを目指した。




