役者は大根おでんも大根
◇
……数日後。
「……よし、これで完了よ」
そうして、エーテルたちはカートリッジを完成させた。試作品を作り、製品化して量産し、並行して特許の申請も行った。更にはハイドラの人脈も使って宣伝も可能な限り行った。満を持して、新型カートリッジの発売となったのだ。
「カートリッジはしこたま作ったし、動作確認も済んでるし、事前の宣伝もばっちり。後は売り捌くだけよ」
「そんなにうまくいけばいいがな」
気合い満タンのエーテルに水を差すグラだが、正直なところ、今回はうまくいくと思っていた。……邪魔が入りさえしなければ。
「それで、俺はどうすればいい? 客引きか会計でもすればいいのか?」
「そうねぇ、接客はハイドラのほうが向いてるだろうし、グラたんはレジ打ちのほうがいいかも。ハイドラは接客、スルホンとポリスさんは奥で休んでて。ここは私が引き受けるから」
そしてエーテルは売り場でも仕切っていく。ハイドラは華がある分、売り子には向いているだろう。連日作業し続けたポリスたちを休ませるというのも妥当な判断だ。しかし、彼女自身も彼らと同じくらいの作業量があったのだが、それを物ともせず売り場に入る辺り、さすがだとしか言いようがない。
「本当なら、それくらいは自分でやるべきなんだろうけど……さすがに歳には勝てないねぇ。ここはお任せするよ」
エーテルの配慮に、ポリスは素直に休憩することにしたようだ。年配だから仕方ないだろうな。
「あ、あの……わ、私は平気ですから、て、手伝います」
しかしスルホンは、まだ働けるからとそう申し出てきた。頑張るのはいいが、連日働き通しなのは彼女も同じなのだから、無理しないほうがいいと思うのだが。
「そう? じゃあ、お願いするけど、絶対に無理だけはしないでよね。暇を持て余して元気なグラたんを扱き使えばいいから」
「は、はい……」
「一言余計だ」
そうして、カートリッジの販売体制が整ったのだった。
◇
「はい、点灯・着火セットはこちらになります」
「並んで並んでー! 慌てなくても大丈夫だからねー!」
販売を開始して。工房には大勢の客が押し掛けていた。前代未聞の複合カートリッジを求めて、予想以上に人が集まったようだ。販売するのは「点灯・着火セット」と「加熱・乾燥・加湿セット」の二種類で、実用性も高いため、その辺りも人気に拍車を掛けているようだ。
「次の方どうぞー」
グラも会計を難なくこなしている。レジスターは機械式で、魔法式ではないので、グラにも容易に扱える。
「あの、えっと、その……」
「点灯・着火セットのスペックシートは右だ。加熱・乾燥・加湿セットは左な」
「あ、は、はい……!」
スルホンも手伝っているが、疲労があるせいなのか、やたらとミスをする。商品の取り違えなど、グラが指摘しなければ気づかなかっただろう。
「あんまり辛いならもう休んでいいんだぞ?」
「い、いえ、大丈夫です……!」
そんな彼女を気遣うグラだが、それでもスルホンは仕事を続けようとする。……正直な話、グラにとっては邪魔にすらなっているのだが、それでも彼女は健気に頑張るのだった。
「ったく……倒れるんじゃないぞ」
そんな彼女を尊重するように、グラは溜息交じりにそう言うのだった。
◇
……そうして、無事に販売が終了し。
「思った以上の反響ね! 用意してたカートリッジが全部売れるとは思ってなかったわ!」
すっからかんになった在庫を見て、エーテルは興奮気味にそう言った。当日分は即完売し、翌日以降に残していた在庫を出したのだがそれも速攻でなくなり、あっという間に完売したのだ。ついでのように他の製品も売れ、今日一日の売り上げはかなりのものになっていた。
「一人でやったわけじゃないし、色々苦労したけど、真っ当な仕事でこんなに稼げるなんて……今までのお勤めはなんだったのかしら?」
「今後は真面目に働くんだな」
「ま、あれはあれで楽しいから続けるつもりだけどね。第一、今回のは大分特殊な場合だし」
これでエーテルもまともな労働意欲に目覚めるかと思ったが、更生には至らなかったようだな。残念だ。
「みんな、助かったよ。ここまでしてもらって、大したお礼もできないなんて……」
戻っていたポリスは、歯痒そうにそう漏らす。……準備では一番働いていたのだから、そこまで気負うことないと思うのだが。
「そんなことないわよ。私だって、自分のアイディアが工業都市でも通用するって分かったんだし」
「ポリス様には何度もお世話になりましたから、これくらい当然です」
「そもそも俺は特に何もしてないからな」
そんな彼に、エーテルたちはそう返した。ともあれ、これで借金のほうは大丈夫だろうな。
「邪魔するぜ」
すると、工房に新たな来客が。―――サングラスと黒スーツの男たち、キシール金融の面々だ。
「随分と盛況だったみたいじゃねぇか。ちゃんと金は稼げたか?」
「あ、ああ……どうにかね。ほら、これで足りるだろう?」
リーダー格の男に、ポリスは売り上げが入った封筒を渡した。それで残りの借金は完済できるはずだ。
「ふん……! こんなはした金で済まそうってか?」
しかし、男は封筒の中を見て、そんなことを言い出した。
「生憎だが、うちの金利はついこの間上がったばっかりなんだよ。新しい金利は日当たり百パー、この八倍だ」
「は、八倍……!?」
「う、嘘でしょ……!」
「そ、そんな……!」
男の言葉に、ポリスたちは驚きのあまり腰を抜かしそうになった。……この金利は法外なんてレベルではない。倍率から考えて、引き上げたのは三日前だろうが、突然どうしたのだろうか。
「あんたじゃあ、この額を返すのは無理だろ? けど安心しな、いい方法があるぜ。この借金を一瞬で片づける方法がなぁ」
そんな彼らに、男は気持ちの悪い笑みを浮かべながらそう続ける。
「あんたの弟子を寄越しな。そしたら全部チャラにしてやるよ」
「ス、スルホンを、だって……!」
男の要求は、なんとスルホンだった。借金を盾に彼女を手に入れようというのだ。
「そ、そんな……!」
「どうする? 借金は日に日に倍々に増えていくぜ? ここで俺たちのところに来れば、師匠を助けられるんだがなぁ?」
突然指名されて戸惑うスルホンに、男は嫌らしい顔で近づいていく。
「止めな」
「あぁん?」
「あっ……」
怯える彼女の前に、グラが割り込んだ。スルホンを庇うように、男の前へと立ち塞がる。




