楽に稼げる方法とは?
「これはまた、困ったことになったわね……」
話が一区切りして、エーテルはそう呟いた。念願のスチレまでやって来たというのに、聞かされたのは借金苦の現実だ。気が滅入るなんてものじゃない。
「一応、返済の当てがないわけではないんだけど……それも条件が厳しいんだ」
「どういうことですか?」
借金返済の方法はあるらしいのだが、それは容易でないとポリスは言う。
「連中は、借金を帳消しにする代わりに、セラフィドの製作を依頼してきたんだ」
「セ、セラフィドですって……!?」
ポリスが挙げた名前に、エーテルは飛び上がりそうなほど驚いた。……聞いた感じだとギア製品なのだろうが、一体どういうことなのか?
「なんだよ、そのセラフィドってのは?」
「この世で一番特別なカートリッジ―――と言えばいいかしら。使用者に関わらず高い出力と特異な性質を示す魔法で、作るのが禁止されているカートリッジよ。それを作らせるなんて……」
製作禁止のカートリッジを、借金と引き換えに作らせようとするキシール金融。その意図は不明だが、少なくともろくな理由ではないだろう。
「そいつは作るのが難しいのか?」
「いいえ、セラフィドそのものは簡単に作れます。カートリッジを作る際に、禁止事項を行うだけですから」
「禁止事項?」
「そ。「一、全てのスロットには属性石を嵌めなければならない」、「二、全てのパスはその両側をスロット、入気口、出気口のいずれかに接続しなければならない」、「三、それぞれ同数の陸、海、空、太陽、月、星の六種類の属性石を全て用いてはならない」っていう三大規則よ。そしてその全てに違反したのがセラフィド。一つか二つでもそう呼ばれることも多いけど、三つ違反したものが特にそう呼ばれているわ」
カートリッジの製作にはいくつかのルールがあり、それに違反すれば罰せられる。それに違反したものをセラフィドと呼ぶのだ。故に、普通のカートリッジを作る技術さえあれば、製作は比較的容易である。
「それの何が問題なんだ?」
「セラフィドは一度起動すれば周囲を巻き込んで暴走する危険なものなの。だからこそ製作禁止されているのに……」
セラフィドは高い出力を発生させるものの、それを制御できる人間はいないと言われている。それ故に、作ることが禁じられている。他にも、性能が安定しなかったり、使用者に危険が及んだりするのもあるが。
「なら、そいつらが作ればいいだろ? なんで態々借金を盾にしてまで作らせるんだよ?」
「恐らくですが……魔製機構関連法の都合でしょう。禁止事項を破った場合、罰せられるのは製作者で、使用者ではありませんから」
「もしくは、ポリスさんがセラフィドを作ったって触れて回ることで、貶めようとしてるのかも。っていうか、自分たちで使うつもりならこっそり作ればいいだけだから、そっちのほうが可能性が高そうよね」
キシール金融がセラフィドを作らせようとするのは、ポリスを貶めようとしているからか。そう判断するエーテル。実際、ただセラフィドを欲するだけならばアングラで作ればいいのだ。それをしないということは、やはりそういうことなのか。無論、単純に技術者不足ということもあるかもしれないが。
「どうすればいいんだろう……セラフィドを作るなんてもっての外だし、かといって借金を返すのは難しい。いっそ、夜逃げでもするかな」
「そんなことしても、あいつらは地の果てまで追い掛けてくるわよ」
「ならいっそ、ぶっ潰すか」
「ひぃっ……!」
なす術のないポリス。そんな彼を見て、グラは実力行使を提案する。だが、その物騒な言葉にスルホンが怯えてしまっている。
「グラたん、スルホンが怖がってるわよ。……まあ実際、告発もできないし、そうしたいところなんだろうけど―――そもそも最初に借りたのが原因なんだし、踏み倒すのってどうなのかしら?」
「そうです。例え相手が非道であろうと、せめて元本だけでも返さなくては」
グラの提案に、女性陣は反対した。……確かに、もし仮にキシール金融を告発できたとしても、法律の都合上、返済義務がなくなるのは利息だけだ。どの道返済を免れることはできない。そもそも、王国中で幅を利かせている組織がそう簡単に揺らぐとは思えないしな。
「じゃあどうする? 真面目に金稼ぐのか?」
「それしかないわよね……さすがに一日二日で稼ぐのは難しいけど」
残る選択肢は地道に稼いで返済する方法。だが、それが出来ていればそもそも苦労しないという話だ。
「一番手っ取り早いのはいつものあれだけど……さすがに私一人では追いつかないし、ハイドラやスルホンに協力させるわけにいかないし」
「まずそこから離れろ」
「真っ当な方法だと、あれね。安価な部品で高性能な製品を作って、多利多売でがっぽり稼ぐっていう手があるわね。幸い、ここには腕のいい職人がいることだし、作るものを絞れば難しくないわ」
エーテルの提案は、大量の製品を安く作って捌くというもの。利益を追求するなら、確かにそれが一番だろう。出来るかはともかくとして。
「でも、さすがにそれでは……あいつらがそんなに長く待ってくれるとは思えないし」
「うふふっ、そこで私にいい案があるんだけど、どう?」
そして、彼女にも名案があった。真っ当に手早く稼げる、とっておきのアイディアが。
「日常魔法って、使うたびにカートリッジを取り換えないといけないじゃない? でも、一つのカートリッジに複数の魔法が入ってれば、その辺も手間も解消されるでしょ?」
「確かにそうですが……デュアルキャストカートリッジは実現困難と言われています。そう簡単には―――」
エーテルの提案に、ハイドラは難色を示した。一つのカートリッジに複数の魔法を組み込むデュアルキャストカートリッジは、理論的には可能であるものの、実用化が困難と言われている。理由は簡単で、切り替え用の魔法の回路が大きくなりすぎて、使用する魔法の回路がカートリッジに収まりきらないのだ。そのため、通常のギアではなく、ギアを用いた製品にのみ利用されている。
「そう思うでしょ? でも、カートリッジを二段組みにして、一段目に切り替え用の回路を組み込むことで、二段目の魔法を切り替えできるの。攻撃系の魔法だと回路のスペースが足りないけど、日常魔法なら魔法石が少ないから、割と出来るのよ」
「そんな方法が……!?」
エーテルのアイディアに、ポリスも驚いている。……普通、回路を二段組みにしようとは思わない。何せ、そんなことをすれば入気口と出気口の位置がずれやすくなるからだ。しかし、スペース的な問題は生じにくいため、そこさえ解決できるなら現実的な方法ではあった。
「ほんとは自分で特許取ってぼろ儲けするつもりだったんだけど、そういう事情なら仕方ないわ、譲ってあげる」
「そんな……そこまでしてもらうだなんて」
「気にしないで。私じゃあ特許取るのも難しいし。それよりはちゃんと有効利用してもらいたいじゃない」
自分の発明を差し出して、エーテルは借金返済計画を始動するのだった。




