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剣士とビッチと美少女七人(エトセトラ)  作者: 恵/.
1の章 ~月乙女と陰の商業都市~
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逃げ足だけは早い奴


「……ふむ。月属性と海属性の魔法か。面白い魔法だが、そんなもので何をしようと―――」

「問答無用ですっ……!」

 キレートがハイドラの魔法を分析しているのだが、ハイドラは構わず魔法を放った。水の触手を一つ伸ばして、キレートを襲う。

「やれやれ、せっかちなお嬢様だ」

 だが、キレートは魔法の触手を横に飛んで回避した。目標を見失い、水の触手が地面に突き刺さった。

「まだですっ……!」

 けれども、ハイドラは攻撃の手を緩めない。二本目、三本目の触手も放っていく。

「そう殺気を放っていては、嫌でも分かってしまうな」

 しかしながら、それも全て回避されてしまう。……ハイドラの動きは、キレートに全て読まれてしまっている。ただでさえ隠形を察知できる相手なのだから、派手な攻撃系の魔法くらいは容易に躱してくるだろう。

「ま、まだですっ……!」

 それでも懲りずに、ハイドラは触手を放ち続ける。一度放った触手を維持せず再構成しながら、オロチの連射性能を生かした波状攻撃を繰り出していた。

「その腕はさすがだが、圧倒的に経験が足らないな」

 しかし、正しく雨霰のように降り注ぐ触手を、キレートは最小限の動きだけで回避し続ける。それによって、ハイドラの焦りが加速していった。早く仕留めなければ―――そんな焦燥の元、キレートを攻撃し続ける。

「はぁっ……!」

 触手の雨が降り注ぐ中、キレートへと迫る影があった。……グラがキレートへと駆け出していたのだ。ハイドラの攻撃をすり抜けつつ、確実にキレートとの距離を詰めていく。

「なるほど、いい手だ」

 キレートは現在、ハイドラの攻撃を回避することに集中していて、グラから距離を取るところまで気を遣うのは難しい。精々、グラから離れるようにして攻撃を躱すくらいだ。

「グラ様……!?」

「俺に構うなハイドラ……!」

 グラに気づくハイドラだが、グラは攻撃の手を緩めさせない。彼女が張る魔法の弾幕がなければ、キレートを追い詰められないのだ。

「で、ですが―――」

「おらっ……!」

 ハイドラが戸惑う間に、グラはキレートの元まで到達した。そしてそのまま、木刀による一撃を加える。

「……っ!」

 けれども、キレートはそれを間一髪回避した。そしてそのまま距離を取る。ハイドラの攻撃も止まってしまい、そこで両者は対峙する。

「……残念だったな。後一歩及ばなかった」

「そうでもないさ」

 グラの奇襲を防いで勝ち誇るキレートに、グラは不敵な笑みを浮かべる。

「ハイドラの攻撃を避けている間、お前は魔法を使えなかった。つまり、あの魔法も、回避行動も、余裕そうに見えて実際はかなりギリギリだったんだろ?」

 グラの言うように、不良たちはいつの間にか動きを止めている。スペルコマンドは制御が難しく、おまけに通常では考えられないほどの数を操っているため、そうなるのは至極当然だった。お陰で、キレートとグラの間を妨げる者はいなくなった。

「だから今、お前は魔法を使えない。こいつらを操ろうとすれば、俺に殴られて終わるからな」

「だがそちらは、こちらを攻撃することも出来ない。ハイドラ嬢と二人掛かりであれば出来るかもしれないが、果たしてハイドラ嬢が君を巻き込まず攻撃できるだろうか?」

 グラとキレートは、互いに動けなくなっていた。グラ一人で追い詰められず、ハイドラは加勢できる状況じゃない。しかし、キレートも実質的に魔法を封じられている。魔法を使いながらでは、さすがにグラの攻撃を躱しきれない。

「それはどうだろうな」

「……っ!?」

 だがその直後、キレートは何かに気づいて後ろへと下がる……が、一歩間に合わず、何かに右腕を弾かれた。そのせいで、握っていたギアを手放してしまう。それに伴い、不良たちも一斉に倒れ始めた。

「ちっ……仕留め損なったわね」

「十分だ」

 舌打ちしながら姿を見せるのはエーテル。そんな彼女を追い越すように、グラはキレートへと突進する。……が、キレートは更に後退し、距離を大きく離してしまった。

「くっ……!」

 けれども、キレートは悔しそうに呻き声を上げた。……ギアを手放してしまえば、魔法を発動させることが出来なくなる。それだけで、彼の優位は完全に消えたのだ。

「なるほど、ハイドラ嬢の魔法に紛れて、隠形を発動させていたか……」

 エーテルが使った手は簡単だ。キレートは彼女の魔法から発せられる気配を読める。しかしながら、その気配は魔法属性に依存するのだ。故に、オロチの発動に際し、エーテルは自身も隠形を発動させることで誤魔化したのだ。オロチも隠形も同じ月属性魔法で、かつオロチの規模が大きかったために出来たことだ。

「オロチは海属性、隠形は星属性も入ってるから完全なカモフラージュになるとは思ってなかったけど、案外あっさり引っ掛かってくれたわね」

「ふむ……確かに星属性の気配もあったが、まさかそのような手に出るとはな」

 オロチのことを事前に知っていて、かつ自身も魔法の気配を感じられるエーテルだからこそ、ハイドラが魔法を使ったときにこの作戦を思いついたのだ。

「まさかグラたんがちゃんと合わせてくれるとは思ってなかったけどね」

「お前の姿が見えなかったからな。どうせ、ハイドラの攻撃に巻き込まれないように、俺の近くにいるだろうと踏んでただけだ」

 更には、グラも彼女の意図を察して、奇襲に協力していたのだ。自分が魔神でハイドラの攻撃を受けないことを利用し、エーテルを安全にキレートの元へと送り届けた。

「……くくっ、はははっ! なるほどなるほど、そういうことか……!」

 すると、キレートは急に大声を上げて笑い出した。気が触れたのだろうか?

「お前たちが、待ち焦がれた「つがい」だったか……これはとんだ収穫だったなぁ!」

「何だこいつ……?」

「頭おかしくなったんじゃない?」

 キレートの奇行に、グラたちも困惑している。やがてキレートは笑いを止めた。そして、グラたちに背を向ける。

「……どうやら、この町でやることもなくなったようだな」

「逃げる気か……?」

「ふむ、そうとも言うな」

「逃がすわけないでしょ……!」

 そして逃亡を図ろうとするキレート。だが、グラたちが易々とそれを許すはずもない。

「一つだけ約束しよう。私はもう、この町で何かをするつもりはない。ついでに、貴族令嬢を拉致していたのはネレート伯爵家、ホルム侯爵家の意向であるということも証言しておく」

「そんな言葉で許されると思うな……!」

 キレートに向かってグラが突進するが、キレートは即座に躱して、距離を大きく開けてしまった。

「では、また会おう。―――魔神とその仲間たちよ」

「くっ……逃がしたか」

 キレートは大きく跳躍すると、倉庫上部についていた窓から外へ出て行った。今から追いかけても、まず追いつけまい。

「ま、仕方ないわね」

 ようやく見つけた黒幕に逃げられ、エーテルは肩を竦めるしかなかった。

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