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剣士とビッチと美少女七人(エトセトラ)  作者: 恵/.
1の章 ~月乙女と陰の商業都市~
29/132

ミッションスタート


  ◇



 ……翌日。


「じゃあ、後はお願いね」

「ああ……気をつけろよ」

「分かってるって。そっちこそ、ドジ踏まないように」

 エーテルはグラにそう言って、エタール邸から出て行く。―――ただし、その姿はいつもと違う。髪は金色、服はフリルがあしらわれた白のドレスと、ハイドラと同じ格好をしていた。

「あの……エーテル様は大丈夫なのでしょうか?」

 そして、グラの隣にいるハイドラは、茶髪のツインテールとなっていた。服も、エーテルのものと同じ―――というか、彼女の服そのものだ。……つまり、彼女たちは入れ替わっているのだった。これが、エーテルの作戦だった。自分がハイドラの代わりに囮となって、誘拐犯を誘き出すのだ。因みに、髪型はウィッグで変えている。

「大丈夫だろ。というか、大丈夫なように俺がついていくんだ」

 エーテルの作戦はこうだ。まず、ハイドラに変装したエーテルが誘拐犯の注意を引く。そして人通りの少ない場所に態と入り、自分を攫わせることで、後ろからついて来たグラに誘拐犯の拠点を確かめさせるのだ。その後、彼がエーテルを救出しつつ、誘拐犯を確保する。獲物を餌で釣るという、原始的だが効果的な方法だ。誘拐の実行犯はどうせその辺の不良だろうし、黒幕を見つけるにはこれが一番効率がいい。

「で、ですが……私のために、エーテル様を危険な目に遭わせて、私自身は安全な場所で待機など―――」

「ハイドラ」

 しかし、ハイドラはこの作戦に納得がいっていない。何せ、自分のためにエーテルが囮になるのだ。彼女は最後まで反対していたのだが、エーテルにごり押しされて仕方なく折れたのだから。

「お前を危険に晒しても、何の解決にもならないだろ。あいつが体を張ってる意味がない。―――もう行くぞ。このままだと見失う」

 けれども、グラはハイドラをそう諭して、エーテルを追いかけようと門のほうへ歩いていく。予め時間を置いて出ることになっていたが、あまり間が空きすぎると追跡できなくなる。

「―――グラ様。私も行きます」

 だが、ハイドラは承服しなかった。グラを追い掛けて、彼にそう宣言する。

「エタールの名を持つ者として、自分のために他者を犠牲になど出来ません。せめて、エーテル様の救出には私も参加します」

「……ったく。押し問答している時間はなさそうだな」

 彼女の意志が強いと悟り、グラは早々に折れた。ハイドラを説得しようとして時間を無駄にし、エーテルを見失うのだけは避けたいと思ったのだろう。幸い、彼女はエーテルの変装をしているから、こちらが目をつけられる心配もない(というか、本人としては最初からそのつもりでエーテルの変装をしたのだろう)。問題なのは、向こうに乗り込んでからだ。

「だが、危険な真似だけはするなよ。ただでさえ、庇いきれそうにないんだ」

「問題ありません。今朝、お父様から新しいカートリッジを頂きましたから、自分の身くらいは守れます。足手纏いにはなりません」

 故にグラが注意を促すが、ハイドラは自信満々にそう答える。

「そうか……行くぞ。そろそろ追い掛けないと本格的に見失う」

「はいっ!」

 そうして、二人はエタール邸から出て行った。



  ◇



「……さてと。ちゃんと釣られて頂戴よ」

 ハイドラに化けたエーテルは、市場を散策していた。今はまだ人が少ない時間帯だが、それ故にグラも見失いにくく、誘拐犯も見つけやすいだろう。

「もうすぐね……」

 予め、入る裏道は決めてあった。その前に捕まる可能性を考えて、グラには尾行をさせているが、結局はそのポイントで見張っていれば目的は達成できる。故に、彼が見失った場合はそこまで直接向かうはずなので、エーテルとしてもそれまでに攫われるような真似は避けたかった。まあ、事前にルートを決めてあったので、そんなことはそうそうないだろうし、何かあればグラのほうも気づくだろうが。

「……ここね」

 そして、目的の場所にやって来た。市場を出たところにある市街地で、レストラン街へと続く道―――最初にハイドラと出会った通りであり、今から入るのもそのときの裏道だ。

「……」

 エーテルは一瞬だけ後方を確認する。そこには予定通りにグラの姿があった。だが、その隣には自分と同じ格好の少女―――ハイドラがいた。

「グラたん……」

 どうしてハイドラを? という疑問は、すぐに解ける。彼女の性格を考えて、素直に大人しくしてはいられない。自分のために誰かを危険な目に遭わせて、自分だけ安全な場所にいるのは耐えられないはずだ。だから、土壇場でついて来たのだろう。そもそも、彼女は待機するのだから自分と同じ格好をする必要がないのに、何故か変装していたのだから、その時点で察するべきだった。

「……仕方ないわね」

 となれば、今から戻って問答するわけにはいかない。このまま作戦を決行することにした。裏道へと足を踏み入れ、そのまま進んでいく。

「おっと、待てよ」

「……!」

 裏通りを進んでいくと、突然誰かがエーテルを押さえつけてきた。腕を掴まれ、口も塞がれてしまう。

「ようやく捕まえたぜ……」

「この前は手間取らせやがったからな」

 すると、次々と男たちが姿を現す。……彼らは、先日ハイドラを攫おうとしていた不良たちだ。彼らがまた現れるかもしれない、というのも、ここを選んだ理由だった。

「今日は一人かよ? まあ、前みたいな邪魔が入らないうちに、さっさと退散するか」

「……」

 そしてロープで腕を縛られ、口にも猿轡をされてしまった。……この程度であれば抵抗も出来たが、そんなことをしては作戦の意味がない。それに、万が一にもウィッグが外れて、正体がばれるのもまずいので、エーテルは大人しくしていた。

「さ、来い」

 そうして、男たちに無理矢理歩かされていくエーテルだった。



「……うまくいったか」

 その頃、グラはエーテルの様子を眺めていた。首尾よく作戦を進められ、後は追跡するだけである。

「行くぞ」

「は、はい……!」

 そして、エーテルを追いかけるグラとハイドラ。……ただし、普通に地上を歩くのではなく、建物の上を飛んでいるのだが。

「どうした?」

「い、いえ、その……重く、ないでしょうか?」

 裏道は入り組んでいて、気づかれずに尾行するのが難しい。そのため彼らは、裏道手前の建物に入り、その屋上からエーテルを見ていたのだ。これも、事前の打ち合わせ通りである。そしてグラは、ハイドラを抱えて―――要するにお姫様抱っこしながら、隣の建物へと飛び移っているのだ。

「いや、大したことはない」

「そ、そうですか……」

 そのせいで、ハイドラは恐縮そうにしながらも、顔を赤らめていた。それはグラも分かっていたが、自分まで恥ずかしがっていたら作戦に支障が出るからと、無心を貫いた。ハイドラの体温とか、体の柔らかさとか、そんなことは意識の外に追いやる。

「しっかり掴まっていろよ」

「は、はい……!」

 そうして、グラはエーテルの追跡を続けた。

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