表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣士とビッチと美少女七人(エトセトラ)  作者: 恵/.
1の章 ~月乙女と陰の商業都市~
27/132

それは舞台の裏側で


  ◇



「―――それでは、失礼致します」

 ホルム侯爵家にて。ハイドラは先程と同じく、結婚相手について宣言していた。そしてその宣言を終え、ハイドラはホルム邸を後にした。

「……ふむ。これは少々厄介なことになったな」

 一人呟くのは、残されたペンタルー・ホルム・セルロ侯爵。ハイドラの宣言を受けて、溜息混じりにそう漏らした。

「ハイドラ嬢の心がこちらに傾けばそれで良し、ネレート家のほうであればそれはそれで対処のしようがあるが……これは面倒だ」

 ハイドラの宣言は、実際のところ、あまり効力はない。貴族同士の縁談というのは家同士の取り決めであって、本人の意思は二の次だ。しかし、今回は違う。エタール家当主のフタレイ子爵は、娘のことを第一に考える男だ。故に、ネレート家もホルム家も、今回の縁談はかなり慎重になった。当の本人がただでさえ乗り気でないのだから、この調子では断られかねない。そのため、本人の意思を聞き、縁談そのものを存続させつつ、ライバルとなるネレート家を牽制しようとしたのだ。幸いにも、ハイドラは貴族としての責任を果たそうとしているため、乗り気でないとはいえ縁談を断ることはなかった。故に少々強引に聞き出そうとしたのだが、その結果がこれだ。

「こうなれば、最終手段に出る必要があるな……」

 しかし、彼女の宣言を受けたからといって、真面目に事件を捜査することなどありえない。となれば適当な犯人をでっち上げるのが基本なのだが、それはネレート家も考えることだろう。その場合、全く違う犯人が二人もいることになりかねない。それに、それで異変が収まらなければ、犯人と信じてもらえないだろう。……彼女をその気にさせる方法は他にもいくつかあるのだが、今まで以上に強引過ぎるし、彼女は大抵のことでは意志を曲げないだろう。今まではぐらかし続けていたように、彼女は自分の気持ちを表明するのが苦手だ。というよりは、貴族としての責任があるため、本心を曝け出せない。そんな彼女があの宣言をしたのだから、余程の覚悟があったのは想像に難くない。

「向こうも既に動いている頃か……急がねば」

 ペンタルー侯爵は、ある男と連絡を取ることにした。彼がネレート家からも依頼を受けているであろうことは明白と言っていいが、ダメ元で頼むしかない。一応、爵位はこちらのほうが上なので、こちらに従う可能性もある。

「ヴァレンタイン」

「はっ、お呼びでしょうか?」

 ペンタルー侯爵が呼びつけると、筆頭執事のヴァレンタインが即座に姿を現す。……本来、筆頭執事である彼は、主がいる部屋にノックせず入ることはない。しかしノックがないということは、そもそも最初からこの部屋にいたのだ。エーテルと同じく、隠形の魔法で主の傍に侍っていたのである。

「―――キレートと、連絡を取れ。用件は、分かるな?」

「はっ、直ちに」

 ヴァレンタインは恭しく一礼すると、部屋から出て行った。

「……全く、もっと早くこうするべきだったか」

 自分の慎重さを後悔するペンタルー侯爵。……だが、本来悔いるべきはそこではなく、今後より強い後悔をすることになることを、彼は露ほどにも思わなかった。



  ◇



 ……エタール邸にて。


「……はぁ」

 ハイドラの自室にて。この部屋の主は、着替えの途中で溜息を漏らしていた。

「どうしたのでしょうか……? あんなことをしてしまうだなんて」

 ハイドラが漏らしているのは、自分がした宣言についてだ。……二つの貴族に対して、彼女は条件を出したのだ。父に事前の相談もなく事後承諾になってしまったし、勝手にしでかしたことの重みは彼女自身を追い詰めていた。

「それに、私、エーテル様に……嫉妬を」

 そして、ハイドラの自己嫌悪を増幅させるものは他にもある。……ネレート家からホルム家へ向かう途中、グラとエーテルが口論しているのを見て、羨ましいと思ってしまった。それは、間違えようのない嫉妬の感情だったのだ。いや、それ以前から、彼女には少なからず嫉妬していたのだが、今日のは特に大きかったという話だ。

「いいえ、これくらい、最初から―――」

 だが、こんな黒い感情は最初から―――グラたちと出会ったときから抱いていたものだ。嫉妬など、それに比べれば寧ろ可愛いものだろう。

「―――最初から、あの方たちを利用しようとしていたのですから」

 それは打算だった。グラたちに助けられたこと自体は全く偶然だったが、そんな彼らを利用しようとしていたのは紛れもない事実だ。命の恩人と言ってもいい存在なのに、どうしてそんなことを思いついてしまったのか。そして、どうしてそれを実行してしまったのか。それこそ、自分の内に醜いものがあるという証明ではないか。我が身可愛さに他人を利用するという、彼女が特に忌み嫌っていた行為を、平然と行ってしまえたのだから。

「……ですが、今更止めるわけにもいきません」

 着替えを終え、ハイドラはドアの前に立つ。……グラたちは客室で待っている。部屋を出たらいつもの自分に戻って、二人の元へ向かわなければ。夕食までにはまだ時間があるし、それまでは二人を薔薇園に案内しよう。そう考えながら、ハイドラはドアを開けるのだった。



 ……その頃、別の場所では。


「……なるほど。彼女はそうきたか」

 ここはセルロの隅、大量の商品を保管する倉庫が立ち並んだ一画。その中でも古くて使われていない倉庫の中で、一人の男が笑っていた。手元にあるのは魔法式の通信機。仲間とのやり取りに使う簡易のものだが、これ自体が既に最新の装置だ。今ではまだ、工業都市スチレで試験運用されている程度のもので、セルロにあるはずがない。だが彼らは、その程度は容易に入手できる。

「となると、こちらも考えなくてはな。貴族様には悪いが、あれは渡せない」

 彼が受けたのは、二つの依頼。それはどちらも同じものだが、彼は自分たちの都合で、そのどちらも放り出すつもりだった。というか、それを遂行しようものならば、自分たちの存在意義がなくなってしまう。

「花嫁の確保も出来ていない今、月乙女を手放すなどありえない。せめて儀式が終わっていれば、それでも良かったのだが」

 さすがに、虱潰しは効率が悪い。だが、詳細に調べるのもそれはそれで骨が折れる。王都ではそれが原因で目をつけられたみたいだし、いい加減方法を変えるべきか。だが、目的の者たちは居場所を変えてしまったし、今のオガーニ王国ではその行き先を調べるのはほぼ不可能だ。となれば、当たる可能性に賭けてみるしかない。

「まあ、乙女が誰か分かっているだけマシだな」

 そう自分を納得させて、男は倉庫を出て行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ