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剣士とビッチと美少女七人(エトセトラ)  作者: 恵/.
1の章 ~月乙女と陰の商業都市~
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秘密とは、ばらすためのもの

  ◇



 ……やがて二人は、集合場所の噴水までやって来た。


「エーテルはまだやって来てないか……」

「そのようですね」

 噴水前の広場に来たものの、エーテルはまだ来ていない様子。……というか、まだ買い物に夢中なんじゃないか?

「仕方ない、暫く待つか」

「はい」

 そして二人は、広場のベンチに腰掛ける。……どうやら、ハイドラは元の調子に戻ったようだな。グラと一緒にいて気が紛れたのか。

「……グラ様。一つ、お尋ねしても宜しいですか?」

「何だ?」

 すると、ふとハイドラがそんなことを口にした。グラの許しを得て、ハイドラは質問する。

「グラ様は、どうしてエーテル様のお気持ちに、お応えにならないのですか?」

「……あいつが何か吹き込んだのか?」

 彼女の問いに、グラはそんな感想を抱いた。……そういえば、昨晩ハイドラはエーテルと一緒に寝ていた。その直前まで、雑談をしていたのは想像に難くない。であれば、彼女がハイドラに余計なことを言ったのは明らかだった。

「エーテル様が仰るには……グラ様は、エーテル様の告白を受けても、首を縦に振らないと。エーテル様、グラ様に蔑ろにされていると、とても寂しがってらっしゃいました」

「……」

 ハイドラの話に、グラは頭を抱えたくなった。……エーテルがグラを誘惑しているのは、告白とは違うものだ。本人にあるのは肉欲であって、恋愛感情ではない。それを知っているからこそ、グラも乗り気でないのだ。無論、彼女がグラの妹に似ているのも大きな理由ではあるのだが、それとは別にだ。

「やはり、グラ様は、生き別れた妹君のことが忘れられないのですか?」

「……それも、エーテルから聞いたのか?」

「はい」

 そして、その妹のことがハイドラの口から出てきて、グラは辟易するしかなかった。……どうやらエーテルは、グラの身の上についても話していたらしい。この調子だと、彼が魔神であることも口走っていないか、不安で仕方ない。

「……言っておくが、あいつはそこまでまともな奴じゃない。だから、あまりあいつの言うことは真に受けるな」

「はい……?」

 これ以上、エーテルに外堀を埋められたくなくて、グラはハイドラにそう言った。……というか、前にも似たようなことを言ったはずなのだが、まるで効果がない。困ったものだ。

「ともかく、俺はエーテルと恋仲になるつもりはない。あいつも、ただ俺をおちょくって遊んでいるだけだ。本気じゃない」

「そうなのですか? ―――それなら、安心しました」

 グラの宣言に、ハイドラは何故かそう微笑むのだった。



  ◇



 ……それから数十分後。


「はろ~」

「やっと来たか……」

 噴水広場にエーテルがやって来た。手には小さな紙袋をいくつも抱えているので、今まで買い物をしていたのだろう。

「エーテル様、急にいなくなられて、心配しました……ご無事で何よりです」

「あはは、ごめんごめん。可愛いアクセとか、ギアの部品とか、色々売っててついつい買い込んじゃったのよね~」

「ったく、勝手な行動すると置いていくぞ」

 笑いながらそう言うエーテルだったが、ふとグラたちを見つめ出した。

「どうした?」

「……グラたんとハイドラ、なんか距離が近くなってない?」

「そ、そうでしょうか……?」

 エーテルに指摘されて、互いを見合うグラとハイドラ。……言われてみれば、グラとハイドラの間には拳一つほどの隙間しかない。つい昨日知り合った仲にしては、確かに近すぎるだろう。

「怪しい……。まさか、グラたん―――ハイドラとヤったの!?」

「何でそうなる……?」

「まあ、それもそうよね。グラたんがそこまで早漏だったら、さすがに幻滅してるわ」

「そういうことを言いたいんじゃない」

 言いながらも、エーテルはまだ納得していない様子。……まあ、実際は別に何もなかったのだが。とはいえ、彼女はそれを知る由もないので、仕方ないか。

「お言葉ですが、エーテル様。グラ様と私の距離が近いと、何か不都合でもあるのでしょうか?」

 と、ハイドラがそんなことを言い出した。……実際正論なのだが、今までの彼女とは違い、妙に強気な態度だった。

「な、ない、けど……」

「ですから、私とグラ様の距離が近くても、何の問題もございません」

「むぅ……ハイドラ、なんか、キャラ変わってない?」

「気のせいです」

 エーテルとハイドラ。両者の間に、何か火花のようなものが見えた気がした。……なんか、修羅場になってないか? エーテルはハイドラを巻き込もう的なことを言っていたのだが、自分だけ蚊帳の外なのが気に食わないのか。

「まあ、それはこの際追求しないけど―――さっき、面白い話聞いたんだけど、聞きたい?」

 だが、エーテルが放ったその一言で、その空気も霧散するのだった。



「で? どういう話なんだよ?」

 場所を近くのカフェに移して。グラはエーテルから話の詳細を聞き出そうとしていた。

「んとね、アクセ漁ったときに、近くのカップルが話してたんだけど」

 エーテルは注文した抹茶ラテ(セルロの名物らしい)を口に運びながら、説明を始めた。

「例の誘拐事件についてなんだけど。誘拐されてるの、主に観光客らしいのよ」

「観光客、ですか?」

 エーテルの言葉に、ハイドラは驚いたような顔をした。……セルロは商業都市であり、国中の様々な物が集まる。故に、観光客も多い。その数は、時期によっては王都よりもずっと多くなる。だが、彼らが被害を受けているとは知らなかったようだ。

「そ。あんまり騒がれていないみたいんだけど、数自体は結構多いみたいよ。それに、兵士たちもまともに捜査していないみたいだし」

「本当なのか?」

「そのカップルはあくまで噂っぽいって感じで話してたけど、少なくとも観光客が行方不明になってるのは確かみたいよ。そんな内容の張り紙もいくつか見たから」

「気づきませんでした……」

 エーテルの報告に、ハイドラはショックを受けているようだ。事件そのものもそうだが、頻繁に市場を見て回っているのに全く気づかなかったことが、それをより強くしている。

「まあ、噂って言っても、そこまで広まっていないみたいだし。張り紙も一部の商人が自主的にしてるだけだから、そこまで広範囲じゃないしね」

「それでも―――私はエタール家の人間です。セルロの市場を預かる者として、町を担う者として、町の異変に気づけなかったなど、許されることではありません」

 慰めるようにそう言うエーテルだが、ハイドラから自責の念は消えない。自分の家と役割に誇りを持っているからこそ、なのだろう。

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