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剣士とビッチと美少女七人(エトセトラ)  作者: 恵/.
0の章 ~再会と出会いの王都~
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そして王都に、魔神が現れる

「あれは……?」

「あー……またか」

 大通りに出て。騒ぎの中心を目にして、青年は首を傾げ、少女は呆れたように顔を顰めた。……大通りの中央に、人だかりが出来ている。といっても、中心にいる数人を、近くにいた者達が見守っているようだが。野次馬根性を出しているのは然程多くなく、中心部の様子もある程度は分かった。

「何が起こったんだ?」

「多分、あれよ。……ここ最近、王様が若い女の子を何人も娶ってるのよ。それも、美人で有名な子ばっかり。それで揉めてるんじゃないかしら? この前なんて、婚約者がいる子を強引に城まで連れて行ったらしいし」

「それは……また何ともな話だな」

 見れば、騒ぎの中心にいるのは複数の兵士だった。その傍らには少女が一人と、彼女の母親と思しき女性だ。恐らく、急な勅命に困惑し、少女と母親が抵抗しているのだろう。それを兵士が無理矢理連れて行こうとして、この騒ぎとなっているのだ。

「その王様とやらはどこにいるんだ?」

「そりゃあ、お城でしょ? ぶっちゃけ、王様は最近下々の者には顔を見せて下さらないし、部下に美少女を調べさせて片っ端から連れてってるみたい。……なんで私に声が掛からないのかは不思議だけど」

 お前が美少女なわけない、と青年は思ったが、もっと優先することがあったので口には出さない。こんなところで口論するほど馬鹿ではないのだ。

「となると、あれを止めても一時凌ぎにすらならない可能性もあるのか……」

「止めるって、あれを? ……本気なの? 確かに胸糞悪いけど、兵士に逆らったらもれなく牢獄行きよ?」

 青年の台詞に、少女は信じられないという表情でそう言った。……違法行為に手を染めている彼女ですら、兵士の弱みを握る形で告発を防いでいるのだ。正面から逆らうほど愚かではない。

「お前みたいなビッチでも、あれは胸糞悪いんだな。お前なら喜んで娶られそうだと思ったんだが」

 それを意外に思った青年は、少女に対して、皮肉交じりにそう言った。

「私は、ちゃんと対価がもらえるからビッチやってるだけよ。お金なり、楽しさなり、それで得られるものがあるからって割り切ってる。―――けど、あの子達は違うでしょ? そりゃ、王様の側室なんて玉の輿だけど、本人が望んでないものは対価じゃないし、そんなんで好きでも好みでもない男に抱かれるなんてただの苦痛よ。女を物扱いする男は全員死ぬべきだわ」

「……そうか。ならば、余計に見逃せんな」

 返ってきた少女の言葉に、青年は頷くと、一人で人だかりのほうへと歩いていく。そんな彼を、少女は止めるでも追い掛けるでもなく、ただ見守っていた。



「お願いします……! この子は来月、結婚するんです……! どうかご容赦ください……!」

 母親の悲痛な叫び声が、青年の元まで聞こえてくる。だが、兵士はその声には耳を傾けることなく、娘の腕を掴んで連れて行こうとしていた。

「お願いです……! どうか、どうかご容赦を……!」

「だそうだぜ。勘弁してやんなよ」

 そんな母娘と兵士たちの間に、青年が割って入った。

「何だお前は!?」

「邪魔立てする気か!?」

 突然現れた闖入者に、兵士たちが声を上げた。だが、青年はいたって冷静な様子で、兵士を眺めている。

「王様ってのも、案外ゴミだな。側室の調達はもう少し穏便にやるべきじゃないのか? 彼氏持ちまで寝取るのは、最早狂気でしかないぜ」

「貴様、王を侮辱するか!?」

「あんたらも、仕事とはいえよくやるよな。そんなに王様がいいのかよ?」

「貴様! いい加減にしないと、ひっ捕らえるぞ!」

「ほぅ……それは是非ともやってみて欲しいものだな」

 更には、兵士たちを挑発していく。すると、兵士たちは腰に刺した武器―――銃剣を抜いて、青年へと向けた。

「……最後の慈悲だ。今すぐ発言を取り消してこの場から立ち去るのならば見逃してやる。でなければ、貴様は不敬罪で連行するまで」

「なんとも慈悲深い兵士様だな。だが、その慈悲深さは、発揮するところを間違えてるぜ」

「……いいだろう。牢屋がお望みとあらば、そうするまで」

 兵士は完全に青年に乗せられて、銃剣を彼に向けていた。さっきの母娘も逃げ出しているのだが、それにも気づかない始末だ。

「おいおい、そいつは魔製機構内臓の特殊武装だろ? そんなもん向けていいのかよ?」

「……」

「もう対話する気はないってか? まあいい。俺もお喋りは好きじゃないからな」

 兵士たちが向けている銃剣は、魔製機構を取り付けた武器だ。―――魔製機構の本来の用途は、魔法の使用にある。ここオガーニ王国では、一般人も含め、ほぼ全ての人間が魔法を扱う。尤も、普通は精々照明用の蝋燭を点けたり、料理や洗濯に利用する程度だ。しかし、それを戦闘用に特化させたのが、あの銃剣である。この武装があったからこそ、オガーニは近隣諸国を侵略し、大陸全土を制覇できたのだ。

「ボルカショット!」

 兵士の一人―――先程まで青年と話していた兵士が、魔製機構を起動。魔法が発動し、銃剣から火球を放った。

「―――」

 それを、青年は躱そうともしない。ただ、ローブの中に手を入れるだけだ。そして、火球が青年の体に触れ―――

「……!?」

 その直後、火球が霧散した。炎の塊が砕け散り、その中から無傷の青年が姿を見せた。

「それで終わりか? 一応先攻は譲ったんだ、次はこっちから行かせて貰うぜ」

 そして青年は、ローブの中から何かを取り出した。それは細長く、傷だらけで、くすんでいた。材質は木であり、洗練されたその形状は、異国の武器―――太刀を思わせた。

「ぼ、木刀、だと……?」

「そんなもので、一体何を―――」

「何って、決まってんだろ?」

 青年はその得物―――木刀を前に突き出して、不敵な笑みを浮かべると、兵士たちへと駆け出した。

「……!?」

 その動きは、滑らかというか粘っこいというか―――いや、適切に表現するならば「ぬるり」という風だった。疾走しているはずなのに、腕と体の動きが一致していないため、異様に見えるのだ。

「まずは―――」

「がっ……!」

「ぐっ……!」

「二人だな」

 そんな不気味な動きで、青年は兵士を二人屠った。脇腹へと木刀を突き刺し、先頭の兵士たちを薙ぎ払ったのだ。

「なっ―――」

 木刀は貫通こそしていないが、腹を裂いたのか、紅の鮮血を宙へと舞わせる。その光景に、兵士たちは呆然としてしまった。

「ボケッとしてると―――」

「がはっ……!」

「ぐふっ……!」

「全員やられるぜ?」

 無論、青年はその隙を見逃さない。更に二人、兵士の腹に木刀を突き入れた。

「くっ……ボルカショット!」

 さすがに兵士たちも我に返って、再び攻撃魔法を放つ。だが、青年はそれを平然と受け止めた。

「な、何故魔法が……?」

「無駄だ。俺に魔法は効かない。―――おい、あんた」

「な、なんだ……!?」

 困惑する兵士たちを見て、青年はその一人―――先程まで彼と話していた、恐らくは隊長だろう兵士に声を掛けた。

「あんたらじゃあ、俺は倒せない。何せ―――」

 青年は兵士たちに背を向けて、血に濡れた木刀を振るいながら、こう告げるのだった。

「俺は魔神だ」

 と。

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