次なる町を目指して
◇
……昼頃。
「~~~♪」
王都を出て、街道に。エーテルは鼻歌交じりに、スキップしながら街道を歩いていた。
「ったく。どうにか出られたが、少しはしゃぎすぎだ」
「いいじゃない。外に出ればこっちのもんよ。何も心配要らないわ」
緊張感のないエーテルに、グラは溜息を漏らした。……町から出るための検問は無事に突破して、気が緩んでいる様子。エーテルが用意したギアがその手助けになったし、そういう意味でも気分がいいのだろう。
「街道には追い剥ぎも出るんだ。街道から外れない限りはそこまでの頻度じゃないが、それでも最低限の緊張を持ってだな……」
「追い剥ぎね……でも、そのときはちゃんと守ってくれるんでしょ?」
グラの言葉に、エーテルは屈託のない笑顔でそう問い掛けた。そう言われては、グラも言葉を返しづらい。
「最悪、私が体張って何とかするわよ。男なんて股開いておけば使い物にならないでしょ?」
「それは考えが甘いぞ。奴らは残虐で狡猾だ。対処するなら逃げに徹するか、力で制圧するかだな」
お気楽に言ってのけるエーテルに、グラは諭すようにそう言った。だが、エーテルは不満げだ。
「えー……こういうのって、捕まった美少女が悪党を腹上死させるのが定番でしょ?」
「どんな定番だよ……?」
「官能小説の」
「んなもんと現実を一緒にするな」
そんな馬鹿話をしながら、二人は街道を歩く。とりあえず東側の街道に出たが目的地は決まっていないので、そちらを相談することにした。
「で? 結局どこに行く? ここからだと、セルロかミトコにしか行けないぞ?」
「商業都市セルロか、金融都市ミトコ、ね……でも正直、私は工業都市スチレに行きたいのよね」
王都の東には金融都市ミトコ、北東には商業都市セルロがある。ミトコは銀行や造幣局があり、セルロは近隣の都市から仕入れた特産品を販売する市場が有名だ。そしてセルロの北部には工業都市スチレがあり、魔製機構の製造が盛んで、技術についても大陸一だ。だが、スチレは王都から直通している街道がない。そもそも距離がありすぎるため、需要がないのだが。
「スチレは遠くないか? 行くなら、セルロを経由したほうがいい」
「それもそうね……持ち合わせもそんなにないし、セルロ辺りで一稼ぎしたほうがいいかしら?」
「お前……そういうこと言うからだぞ」
「?」
エーテルの言葉に、グラは溜息を漏らすしかなかった。……まあ、目の前でそんなことを言われて気分がいいものではないだろう。まして、自分に執着している女に言われるのは尚更だ。その辺りのデリカシーが欠けているからこそ、ビッチ止まりなのだろう。
「それにしても、セルロまでは歩いて二日は掛かるのよね。途中に宿場町もあるけど、だる過ぎるわ」
「何だよ? 足腰には自信があるんじゃないのか?」
「グラたん、それセクハラ」
「……一発ぶん殴っていいか?」
セルロまでは徒歩で丸二日。街道は整備されているし、途中で泊まれる場所もある。ただし、追い剥ぎと遭遇する可能性を考えると、野宿はかなり厳しい。お金に余裕があれば馬車と用心棒を手配できるのだが、さすがにそれは無理だった。まあ、グラが用心棒みたいなものだが。
「まあ、気長に行けばいいわよね。この分なら日が暮れる前には宿場町まで辿り着くだろうし」
「ああ」
それから二人は、セルロへ向かって街道を進んでいくのだった。
◇
……夕方、無事宿場町に着いて。
「ふぅ……一日歩き通しで、足がパンパンだわ」
「まあ、慣れないことをしてたからな。無理ないか。徹夜明けだし」
宿場町の宿にて。夕食を終えたグラたちは部屋にチェックインした。
「グラた~ん、足揉んでぇ~」
「それくらい寝れば治る」
「んもぅ、何のために同じ部屋取ったと思ってるのよ?」
「シングル二部屋よりもツインのほうが安いからだが?」
ベッドの上に寝転がり足を晒すエーテルに、グラの態度は冷たかった。歩くのに慣れているとはいえ、彼も疲れているのだろう。
「セルロの前に一稼ぎしようかと思ったけど、こんなに足が痛いとさすがに無理ね」
「まだいうかこのクソビッチ」
グラの罵倒に、エーテルは首を竦めるようにして反論した。
「グラたんの田舎はお金がないから分からないかもだけど、庶民はお金を稼ぐのも大変なのよ? 貴族様と違って民衆から巻き上げたり、大きな商売をすることも出来ないんだから。今でこそお金なしでも楽しめるようになったけど、最初はやっぱりお金のためだったし、今でもその認識は変わらないわ」
「だから、男の前でそんなことを言うなっての。……お前、ほんとに俺に手を出す気があるのか?」
「んー? ヤルだけの関係でもいいんだけどね。グラたんからお金取る気にならないし。っていうか、こんな美少女がただでヤらせてあげるって言ってるのに、どうして嫌がるのよ?」
「……お前とは一生分かり合えないだろうな」
こうして今日一日彼女の言動を見続けて、グラはそう結論付けた。この価値観の違いは、生まれ育った環境の違いではなく、そもそも根本的にこういう人間なのだろう。
「それで、明日はどうするの? このままセルロに行くんだとしても、夕方には到着するわよ。折角の商業都市なのに、早々に寝ちゃうのも勿体無いし」
「それなら、商業都市の由来である市場を見に行けばいいんじゃないか? 人も多いだろうから疲れると思うが、観光なら悪くないだろ? 人が多い場所なら、妹の情報も得られるかもしれないし」
「そうねぇ……うん、それ頂き! セルロならスチレ産のギアもあるだろうし、他にも服とか化粧品とかも見たいわね」
グラの提案に、エーテルは脳内にお買い物リストを書き出していく。……セルロは東大陸の中心であり、王都からも(他の都市よりは)アクセスしやすいため、様々な物が集まる。セルロで揃わない物は、武器や海産物を除けば大陸のどこに行っても手に入らないとまで言われている。
「でも、買い物するにはやっぱりお金が要るのよね……やっぱり今からでも、適当な旅人でも捕まえて稼いでこようかしら?」
「多少なら俺が出してやるから、そういうことするのは止めてくれ」
「グラたん太っ腹っ!」
グラがそう言うと、エーテルは嬉しそうに飛び上がった。現金な奴だな。
「……でも、グラたんってお金はどうしてるの? 今までお金のないところで暮らしてたんでしょ?」
「悪党からかっぱらってきた」
「……グラたん。それ、私のこと悪く言えないわよ? っていうか、寧ろより酷いわ」
「悪党の金は悪事で稼いだんだから、俺が使うことで、綺麗な金となって世の中に還元されるんだよ」
「ものは言いようね」
とはいえ、グラの収入源も大概であった。……まあ、魔神なんて存在に倫理を説くのがそもそもの間違いなのか。そういう意味では、二人は結構お似合いなのかもしれない。




