表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣士とビッチと美少女七人(エトセトラ)  作者: 恵/.
7の章 ~太陽乙女と欺瞞の金融都市~
126/132

格好つけるのが男の生き甲斐

「グラ……ハイドラ……」

「ん?」

 その頃、オクサは。キレートの魔法によって前後不覚になっていた彼女は、ハイドラの叫び声を聞いて、正気を取り戻しつつあった。

「おぉ……。うおぉ……!」

「なっ……!?」

 そして、幻惑の魔法を気合だけで打ち破った。これには、さすがのキレートも驚きを隠せない。

「よくもやってくれたな……あたしの仲間を、傷つけやがって」

 正気を取り戻したオクサは、キレートに向かって突撃する。

「くっ……!」

「遅い……!」

 今から攻撃用の魔法に切り替えようとするキレートだったが、無論そんな時間はなく。オクサの警棒がキレートの腹に直撃した。

「ぐっ……」

「おらぁっ……!」

 更に追撃し、彼のギアを叩き落とす。そして、そのギアを蹴り飛ばして魔法を封じた。

「わりぃが、仲間のピンチなんだ。邪魔はしないでもらうぜ」

「がっ……!」

 更にもう一撃腹に叩き込み、キレートの意識を完全に刈り取った。

「あ、あれ……私、一体どうしてたの?」

「大丈夫か?」

「う、うん……」

 キレートが倒されたことで、カルバも正気に戻ったようだった。困惑しながら、オクサへと駆け寄る。

「けど、向こうはやばそうだぜ……行くぞ」

「わ、分かった」

 二人はグラの元へと向かう。移動の途中、負傷したグラをハイドラが手当てし、アルデがエーテルと対峙している様子が見て取れた。

「大丈夫か……!?」

「オクサ様、カルバ様……!」

 グラの元に駆けつけると、ハイドラが顔を上げる。彼女は血塗れになりながら、グラの傷を癒そうとしていた。

「酷い怪我……」

「治癒魔法を掛けているのですが、やはり弾かれてしまって……」

 グラの治療は、やはり難航しているようだった。魔法は効き目が薄い上に、通常の応急手当ではなんともならないほどに傷が深刻なのだ。

「わ、私も手伝う……! ヒールのカートリッジなら持ってるし……!」

「なら、あたしはアルデに加勢すればいいか?」

「お願いします……できれば、アルデにも協力してもらいたいので、オクサ様お一人で持ち堪えて欲しいのですが」

「お安い御用だぜ!」

 カルバはグラの傍らに跪いて治癒魔法を発動し、オクサはアルデの元へと向かうのだった。



「プロミネンス……!」

「その魔法、見飽きたんだけど」

 アルデが放った魔法を、エーテルは片手で払い除けた。幾多もの炎を一掃して、エーテルは平然としている。

「どういうことですの……? この消え方、魔神の特性とは違いますわ」

「魔神を殺す花嫁が、たかが人間の魔法で傷つくなんてありえないでしょ? ―――私を害したいのなら、これくらいはやりなさい!」

 そう言って、エーテルは魔法を放った。それはアルデと同じプロミネンスだったが、規模が桁違いだった。

「なっ……!」

 プロミネンスはボルカショットを連射する魔法。だが、彼女が放ったものは、一発一発が巨大であった。当然、温度も通常より高いだろう。直撃すれば大火傷では済まないはずだ。全身丸焦げか、少なくとも命が助かるとは思えない。

「ストーンウォール……!」

 だが、アルデは無事だった。突然地面が隆起して、魔法を遮ったのだ。

「アルデ……!」

「オクサ様……! 助かりましたわ……!」

 アルデの元にオクサがやって来る。先程の魔法はオクサのものだ。

「ここはあたしに任せて、グラの治療に参加してくれ」

「分かりましたわ」

「させないよ?」

 離脱しようとするアルデを、エーテルは魔法で攻撃する。特大のプロミネンスが彼女に襲い掛かった。

「ストーンウォール……!」

 だがそれも、オクサの魔法によって防がれる。時間を稼ぐなら、彼女の魔法はとてつもなく有用だ。

「今度はあたしが相手だぜ、エーテル」

「その名前で……私を呼ぶな!」

 オクサに名前を呼ばれて、エーテルは激昂しながら魔法を繰り出すのだった。



「ハイドラ、グラ様はどうなっていますの……!?」

「アルデ……それが」

 グラの元にやって来たアルデに、ハイドラは深刻そうな表情で視線を落とす。……実際、状況は刻一刻を争っていた。二人掛かりの治癒魔法によって傷は塞がり始めていたものの、出血のペースに追いつかないのだ。

「私も参加しますわ……グラ様、どうか持ち堪えてくださいませ」

 アルデもグラの傍に跪いて、カートリッジを手早く交換すると、治癒魔法を発動した。

「グラ様……」

「グラ君……」

「全力を尽くしますわよ……!」

 三人掛かりの治癒魔法により、その効果がようやく目に見えて現れ始めた。出血が収まっていき、グラの容態も安定してくる。

「もう少し……もう少しです」

「ええ……もう一踏ん張りですわ」

「グラ君……お願い、死なないで!」

 少女たちの願いに応えるように、グラの傷は塞がっていく。そうして、ようやく彼は持ち直すのだった。

「ふぅ……これで一安心でしょうか」

「ええ。……ですが、まだ油断できませんわ。何せ、あれだけの出血ですもの」

「うん……貧血、くらいで済んだらいいけど」

 治療に成功して安堵する彼女たちだが、それでもまだ予断は許されない。先程まで大量出血し、命が危うかったのだ。暫くは安静にしなければならないだろう。

「……ぅ」

「グラ様?」

「ハイドラ……アルデとカルバもいるな」

 すると、グラが目を覚ました。いや、正確には今まで意識はあったものの、朦朧としていてまともに反応できなかったのだ。

「グラ様……痛みはありませんか?」

「ああ。大丈夫だ」

「あっ、駄目だよ! まだ安静にしてないと」

 アルデにそう答えて、グラは体を起こそうとする。そんな彼を、カルバが押さえつけた。先程まで生死を彷徨うほどの重傷だったのだから、心配するのも当然だった。

「カルバ……手を離してくれ。俺はエーテルを止めなきゃならない」

「駄目ですわ。グラ様は先程まで重傷を負っていらっしゃったのですのよ? どうかご自愛ください」

「だが、エーテルを止めないと……オクサやスルホンをこのままにはできないだろ」

 アルデの制止にも、グラは首を横に振った。……確かに、今はオクサがエーテルを食い止めているが、それも限界があるだろう。それに、このままではスルホンを救出できない。

「……なんとかして、オクサ様を離脱させますわ。そして、一度退いて体勢を立て直しますの。少なくとも、このまま無策で突っ込むよりはマシですわ」

「駄目だ……一度でもあいつの前から逃げ出したら、俺はあいつを助けられない。あいつの心を取り戻すことなんて、出来ない」

「そんなことは―――」

「分かるんだよ、兄貴だからな」

 グラに無理をさせまいと言葉を尽くすアルデだったが、彼を止めるには至らなかった。それだけ、彼の決意は固い。

「アルデ、グラ様は止めても無駄です」

「ハイドラ! グラ様のことが心配ではないのですか!?」

「勿論心配です。ですが―――ここで逃げてしまうようなグラ様を、私は好きになれませんから」

「……! そ、それは……」

 ハイドラに言われて、アルデはたじろいた。……確かに、ここぞというときに前へ進めない男は情けないだろう。アルデもそれが分かるだけに、言い返すことが出来なかった。

「なら、ハイドラの期待に応えてくるか」

「はい。行ってらっしゃいませ、グラ様」

 そして、グラは立ち上がる。エーテルを、取り戻すために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ