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剣士とビッチと美少女七人(エトセトラ)  作者: 恵/.
0の章 ~再会と出会いの王都~
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お喋り国王陛下


「……ここか」

 エーテルが地下に戻った頃、グラは居住区画に足を踏み入れていた。……ここは、国王が住まう場所。執務室などはなく、あるのは王の私室だけだ。故に警備も厳重だが、何故か人はあまりおらず、索敵魔法による警備網が中心になっている。兵士の中に反逆者がいる可能性でも恐れているのか。

「魔神に魔法は無意味だっていうのに、この徹底ぶり……王様は余程、人間が信用できないらしいな」

 或いは、魔神に索敵魔法が効かないということ自体、王は知らないのかもしれない。ともあれ、グラは居住区画への侵入を果たしたのだ。そのまま、王の元へと向かう。部屋数は多くないし、すぐ見つかるだろう。



 ……その頃、王の私室では。


「ふぅ……そろそろ、今日の結果が判明する頃合か」

 ワイングラス片手に、窓から町を見下ろす男がいた。バスローブ姿の彼は、疲れ切ったような表情でグラスを傾ける。

「しかし、今日もまた外れなのだろう……いつになれば、奴の話は実現するのか」

 彼は国王。このオガーニを統べるラクトニオ・エン・オガーニその人である。髪だけでなく、蓄えたその髭にまで白髪が混じり始めているが、彼はまだ四十になったばかりである。それだけ、国王という仕事は気苦労が絶えないのだろう。

「真の建国伝説を知ることといい、信用は出来なくとも一口乗るくらいならばと思ったのだが……このままでは、民からの反発が大きすぎる。成就する前に、クーデターが起きるのではないか?」

 国王が少女を連れ込んでいるのは、一応の理由があった。……ある日、王の元に一人の男が尋ねてきた。そいつは王国建国伝説に関連した、とある「兵器」について話を持ち掛けてきた。王はそれに乗り、協力をしているのだ。

「真の建国伝説は王族にのみ伝わるにも関わらず、奴はそれを詳細に知っていた。故に、あの話も絵空事ではないだろうに……」

 王国建国伝説は、この国に伝わる尤も有名な伝承だ。その名の通り、オガーニ王国建国の流れを記したものだ。……その昔、大陸の中央に魔神の国があった。魔神の王は暴虐の限りを尽くし、大陸の人々を苦しめた。そんなとき、とある小国の王が立ち上がった。大陸中に存在する六体の精霊に協力を求め、まずは魔神の花嫁を確保。その後、花嫁から魔法の知識を得て、魔神の王を討ち倒し、世界に平和を齎した。その国こそ、後のオガーニ王国である。これが、世に広まっている王国建国伝説である。

「魔神の花嫁、か……」

 だが、王族に伝わる伝説は少々異なる。……魔神の王は暴君ではなかったが、魔法の知識と技術を秘匿していた。それを妬ましく思った当時の国王は、六精霊を唆して、魔神の花嫁を穢させた。それによって堕落した花嫁は、魔法の知識と技術を漏らしてしまう。魔法の力を得た王国軍は、花嫁を配下に置き、魔神の国を攻めた。魔神の王は強大だったが、他でもない花嫁の手によって魔神の王は滅ぼされ、国も壊滅した。魔神の国を乗っ取った後は、他の国も倒しては併合していき、やがて大陸全土を統一した。最後に、不要になった魔神の花嫁を始末し、オガーニ王国の安泰は約束されたのだった。因みに、この話に出てくる魔神の王は魔法が使えず、また魔法が通じないことが、魔法の使えない者達を魔神と呼ぶ由縁である。

「そんな折に、まさか魔神が現れるとはな……」

 男が持ち掛けてきた話とは、その魔神の花嫁を再現するというものだ。魔法が効かない魔神を殺し、大陸全土の統一にも貢献した魔神の花嫁を得られれば、オガーニの軍事力は飛躍的に向上する。そう言われて、王はその儀式に協力しているのだ。

「呼んだか?」

「……!?」

 そんな風に独り言を漏らす王の前へと、彼は現れた。部屋の入り口から入ってきたのは、グラだった。

「なんか面白い話が聞こえたんだが、詳しく話してもらおうじゃないか」

「き、貴様、まさか……!」

 突然侵入してきた青年に、国王は咄嗟に兵士を呼ぼうとした。大声を張り上げれば巡回の兵士は気づくだろうし、警報機のスイッチもすぐ傍にある。異変を知らせるくらいは造作もない。

「おっと。妙な真似はしないで欲しいんだがな」

「っ……!」

 だが、グラの行動も早かった。広い部屋を一瞬で駆け抜けると、王の首元に木刀を突きつける。

「まあ、命までは取らないさ。ちゃんとこっちの言うことを聞けば、だがな」

「……要求は何だ?」

 グラの言葉に、即座に屈した国王。……こういう場合、下手に抵抗したり逆らえば、自分の命が危なくなる。従順にしているほうが危険が少ないのだ。

「さっき言っただろ? 今の話、もっと詳しく話せ」

 対して、グラの要求は王の独り言についてだ。真の建国伝説と、王に話を持ち掛けた男。どちらも、グラにとっては重要な内容だった。

「わ、分かった……」

 そうして王は、そのことについて話し始めた。真の建国伝説や、その男について、更には儀式の内容も口にする。……この儀式は、魔神ととても近い血筋の―――特に、兄弟関係にあるのが望ましい―――少女を媒体に行う。その体を、六精霊の加護を受けた男に穢させることで、儀式の準備が整う。六精霊は大陸の各地に君臨した大いなる存在で、その血は各地の人間が受け継いでいる。そんな人間に女性を穢させることで、伝説の再現をするのだ。

「……なるほど。そういうことか」

 だが、問題は外れた場合だった。王の妾という名目で連れてきて、他の男に穢させた以上、そのまま捨て置くわけにはいかない。故に、違法な人身売買組織に売り払って、証拠隠滅を図ってきたのだ。

「それで、その男ってのは、どこの誰なんだよ?」

「し、知らん……そいつはキレートと名乗っていたが」

「キレート……まあ、名前が分かっただけでもマシか」

 黒幕の名前を知れたため、グラはそれをとりあえずの成果とする。名前が分かったからといって何かできるわけでもないが、何もないよりはいいだろう。

「それで、そいつはどこにいるんだ?」

「分からん、いつも向こうからやって来るが、大抵は手下だけで済ますからな……」

 居場所も分からず、これ以上出来ることもない。本当に知らないか確かめてもいいのだが、時間を無駄にするのは得策ではない。となれば、次の行動は一つだ。

「……まあ、これ以上お前から聞いても無意味だろうな。用済みだ」

「ひぃっ……!」

 グラが木刀を握る手に力を込め直すと、王が悲鳴を漏らす。木刀が喉元に突き刺さり―――

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