クール系おねいさん
「ここがバイオ……」
バイオに入った彼らを出迎えたのは、賑やかな繁華街だった。バイオの入り口付近は繁華街になっていて、かなり繁盛している。
「この辺は兵士よりも、武器商人や旅行者向けの店が多いな。この奥に行くと商店街、更に奥には武器屋が立ち並んでる。そしてその先―――町の南半分が軍事施設だな」
町を歩きながら、グラはエーテルたちに説明していた。とりあえず、適当な食堂に入り、昼食を済ませることにする。
「なんか、ここらのお店、どこもガッツリ系なところばっかね……」
「兵士たちも利用するからな。ここはそうでもないが……一応、な」
メニューを見ながらそう呟くエーテルに、グラは遠回しに注意を促した。……兵士がよく利用するということは、会話を兵士に聞かれる可能性がある。そもそもここは兵士のためにある町なので、色々と危ない発言をするエーテルには予め釘を刺しておかないといけないのだ。
「分かってるわよ。私だってそこまで馬鹿じゃないし。それより、早く注文しましょう。歩きすぎてお腹空いてきたわ」
彼の発言、その真意を察した上で、エーテルはそう返した。……訓練でエネルギーを使う兵士だけでなく、旅行者も利用するが故に、メニューもそれを意識したものになっているのだろうか。
「じゃあ、この辺の料理適当に注文しようぜ」
「そうですね。では、こちらのピザと―――」
ハイドラは料理を選ぶと、近くの店員を呼んで注文した。
◇
「さてと、行くか」
昼食後、彼らは目的地へと向かった。繁華街を出て、商店街を抜け、武器屋街まで向かう。
「それで、その人って誰なの?」
「ああ、武器商人のアセターって奴だ。まあ、どんな奴かは会ってみれば分かるさ」
その道すがら、エーテルに聞かれてグラはそう答えた。……彼が妹の捜索を依頼していたのは武器商人。故に、武器屋街へと向かっているのだろう。
「でも、グラたんが頼みごとをするくらいだから、それなりに仲が良いんでしょ? しかも、名前的に女の子っぽくない?」
「言われて見れば……確かにそうです」
「つーことは……要はあれか? そういうことか? ん?」
エーテルの発言に、ハイドラは戦慄し、オクサは面白そうに小指を立てた。……男女の機微には疎いオクサすら、そんな反応を示しているのだ。彼女たちには、グラとそのアセターという女性(?)が、余程親密に思えたらしい。
「言っておくが、俺とあいつはそういう関係じゃないからな。俺が偶然出くわした事件の関係者で、その縁で色々と手伝ってもらっただけだ」
「そうかしら? グラたんって女たらしだし、グラたんは何も思ってなくても、向こうは……ってこともありえるわよ?」
「おいこら、誰がたらしだ」
そんな彼女たちの考えを否定するグラだが、エーテルは真面目な顔でそう言った。……まあ、エーテルを(性的な意味で)魅了し、ハイドラ、そしてアシッドのカルバからも好意を寄せられているのだ。たらしと言われるのは心外なのだろうが、間違ってはいない。
「それで、その人のところにはまだ着かないの?」
「もうすぐそこだ。ほら」
グラが指差したのは、通りの一画にある武器屋だった。他の店よりも小さなそこには、「グルング武器商店」という看板が掛けられていた。
「入るぞ」
店に入ると、中には沢山の武器が並べてあった。壁にはギア内蔵型の銃やら鈍器やらがずらりと立て掛けられ、棚には軍事魔法のカートリッジが収められている。分かっていたことだが、ここが武器屋であることを否応なしに思い知らされる。
「アセター、いるか?」
「……おや、久々の客だと思ったら、あんただったのかい?」
グラの声に、店の奥から女性が出てきた。……短く切り揃えた赤毛が特徴的な、冷たい印象の女性だ。革製のつなぎを身につけ、そのスレンダーな体型を露にした彼女は、切れ目がちな瞳をグラに向けている。
「久しぶりだな、アセター」
「そうさね。けれども、また会おうとは言ったものの、こんなにすぐに会えるとは思ってなかったな」
アセターはやや古風な口調で、グラの言葉を肯定しつつ、驚きを口にした。
「そんで、そこのお嬢さんたちはあんたの連れかい?」
「ああ。旅の途中で知り合って、同行することになった」
「なるほどねぇ。まあいいや、とりあえず奥に入んな。その辺の話はこっちで聞かせてもらおうじゃないか」
そしてアセターは、店の奥を指差した。
「ちょっと待ってな」
店の奥にあるリビングに入ると、アセターはギアを取り出した。
「エアーウォール」
周りに聞こえないくらいの小声で魔法を発動させる。すると、この部屋を微風が包み込んだ。
「今のは……盗聴防止のエアーウォール?」
「ああ。ここは兵士のお膝元だからね。ましてやうちは武器屋、叛乱を起こされると面倒な人間さ。そうなれば、盗聴の可能性を常に意識して然るべきなわけでね」
そう言いながら、アセターはグラたちに椅子を勧めた。
「にしても……一人や二人ならともかく、三人か。あんたも随分とたらし込むようになったじゃないか」
「どうしてお前らは俺を女たらしにしたいんだよ……?」
椅子に着いて茶を出すと、アセターはグラをからかった。直前にもエーテルたちにたらし呼ばわりされていたので、グラは辟易としている。
「とりあえず、自己紹介しましょう。私はエーテル、よろしくね」
「私はハイドラです。よろしくお願いします」
「あたしはオクサ。よしろく」
「おやおや、これはご丁寧に。私はアセター、聞いての通り武器商人さ」
そんなグラに助け舟を出すように、少女たちは自己紹介を始めていた。あまり彼を虐めるつもりはないのか、アセターもそれに応える。
「なるほどなるほど……三人とも全然違うタイプだね。そっちの金髪はいいとこのお嬢様、セルロの貴族―――大方、エタール家辺りの出身だろ?」
「え……?」
「んで、そっちの短髪はトレハの農家」
「な、なんで分かったんだよ……?」
唐突なアセターの言葉に、ハイドラとオクサは困惑した。……初対面の人間に出身地を当てられれば、戸惑うのも当然である。
「ま、長年の勘って奴さ。このバイオには各地から兵士が集まってくるからねぇ。でもって、そのツインテールはアシッドの町娘って感じかい?」
「違うわ。私は王都出身よ」
「おや……」
得意げに話すアセターだったが、エーテルの出身地を外してしまう。
「珍しいな。あんた、客の出身地を的確に当ててただろ」
「そうさね……私もまだまだってことか」
外してしまったことが余程ショックなのか、アセターは悔しそうにそう言うのだった。




