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剣士とビッチと美少女七人(エトセトラ)  作者: 恵/.
0の章 ~再会と出会いの王都~
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王都グリコール・宿屋にて


「はーい、宿泊一名様ね。……にしてもお兄さん、結構イケメンね。どう? 若い女の子との甘い一夜を過ごしてみない?」

「……邪魔したな」

「あー嘘嘘! 嘘だから! 冗談だから! お願いだから帰らないで!」

 王都グリコール、その一角にある宿屋にて。宿泊手続きをしていた青年が、受付の少女が放った言葉に、宿から出て行こうとする。少女は慌てて彼を引き留め、どうにか手続きを再開した。

「もぅ、お客さんってば、冗談が通じないんだから……」

 どうにか青年を引き留めて、少女はそんなことを呟いた。……この国では普通な茶髪を、ツインテールに纏めた少女だ。活発で気さくな性格や立ち振る舞い通り、初対面の男相手でも物怖じや気後れなどせず、ありのままの自分を曝け出していた。顔立ちは整っているほうだが、かと言って別に美少女というわけでもない。身長は高くもなく低くもなく、体つきは細身で起伏に乏しい。服装は地味でもなく派手でもなく、良くも悪くも中庸で、どこにでもいそうな普通の女の子といった感じだ。

「あれは冗談のつもりだったのか? 性質の悪い娼館にでも迷い込んだのかと思ったぞ」

 少女にせがまれた青年だったが、早くもこの宿を選んだことについて後悔している様子。まあ、後で多額の料金を取られたら敵わないからな。……青年のほうは、背が高く、少女の言うようにそこそこの美形であった。纏ったローブから覗くその体は筋肉質で、しかし大柄というわけでもなく、強いて言うなら全身を引き絞るような鍛え方をしていた。ローブは薄ら汚れていて、布地も粗末なことから、少なくとも金持ちではない様子。宿に来ているのだから、王都への観光客だろうか?

「あ、お客さんもしかして懐が寂しいの? お兄さん、私の好みだから特別にタダでもいいわよ? 勿論、宿泊代じゃなくて、あっちのほうだけど」

「……やっぱ別の宿を探すか」

「ちょ、ほんとに止めてお願いだから! 折角来たお客をみすみす逃したってなったら、宿屋の看板娘の名折れなんだから!」

 しかし、少女は別に冗談でもなかったようで。青年はまたも宿を出て行こうとするが、やはり少女に引き留められた。

「だったら妙な商売なんてするなよ。大体、もぐりでそういうことするのは違法じゃないのか?」

「んー? 一応私、もう十八だし。それに、兵士の人たちもたまに利用してるから、下手に捕まえると自分たちの立場が危うくなるのよ」

「……仕事上手な奴」

 彼女は、自分がしている行為が少なからず咎められることを知っている。だからこそ、この町で警察権を握っている兵士たちも顧客とし、摘発を逃れているのだ。……まあ、十八なら正式な許可を取れば違法でもなんでもないので、そこまで大事にもならないだろうが。精々、罰金代わりに莫大な税金を取られるだけだろう。

「安心して。私、別に押し売りはしないから。残念って言えば残念だけど、遊び相手くらい、いくらでもいるし。あ、固定のお客さんはもっといるけどね。お金持ちの小父様とか」

「……こんなクソビッチに任せて、この宿は大丈夫なんだろうか?」

「これでも、最近は私のお陰で売り上げ伸びてるのよ? 彼女持ちの人には短時間のプランもあるし」

「それ、連れ込み宿だろ。それもまずくないか?」

「だからそれも、役所の偉い人とか、兵士さんとかも利用してるから、大丈夫よ」

 既に不安しかない青年だったが、ここに来て余計に出て行きたくなった。余計なオプション料金を取られることはないにしても、隣の部屋からその手の声が聞こえてくるのは精神衛生上良くない。とはいえ、普通の宿泊料金はお手頃だし、何より場末の宿であれば、彼が望む条件を満たしている可能性も―――

「じゃあお客さん、ギアを出して頂戴な」

「……邪魔したな」

「え? ちょ、ちょっと……! 今度はどうしたって言うのよ……!?」

 だが、その見通しは甘かった。当てが外れた青年は、またも宿を出て行く。少女はその後を追いかけ、宿の外までやって来た。

「ちょ、お客さん……! 今度は何……!? 別にお兄さんが寝静まってからちょっと夜這い掛けようとか思ってないから……! っていうかもうしないから……!」

「しようと思ってのか……? まあ、それは関係ない」

 三度引き留められ、青年は嘆息しながらそう答えた。

「関係ないって……あ、もしかしてお客さん」

「気づかれたか……ああ、そうだ。俺はギアを持っていない」

 ギア―――魔製機構マジックギアと呼ばれるその機器は―――本来の用途は別にあるのだが―――この国では身分証として機能する。一部を除く国民全員に配布され、その個体識別番号と、刻印された名前がそのまま身分証となっている。宿泊の際、そのギアを提示し、個体識別番号と名前を控えるのは、この国の宿では一般的な行為だった。

「持ってないって……この国でギアを持ってないなんてあり得ないでしょ? あ、もしかして落としたの?」

「まあ、そんなところだ」

「それは困ったわね……この町の宿は全部、ギアがないと泊まれないわよ? 町から出るのにもギアがいるし。お客さん、外から来た人でしょ? 詰め所に届けは出したの?」

 身分証でありパスポートであり生活必需品である機器を失くした青年に、少女はそう尋ねる。町に滞在するのにビザのようなものは要らないが、ギアがないと宿泊も出来ず元の町にも帰れない。そのため、旅行先でギアを落とした場合は兵士のいる詰め所に届け出て、捜索してもらうなり、身分確認が取れ次第再交付してもらうなりしなければならないのだ。

「……行ったが、それらしいものは見つかっていないらしいし、再交付にも数日掛かると言われたんだ。だから先に宿泊場所を確保しようと思ったんだが」

「あー、なるほどねぇ」

 事情を聞いて、少女は納得したように頷く。……王都から他の町までは距離があり、場所によっては通信手段が限られている。そのため、身分確認には時間が掛かるのだ。それも、場合によっては数日数ヶ月単位というのも珍しくない。

「じゃあ、それなら―――」

「……ん?」

 そして少女が何かを言おうとしたが、青年はふと別の場所―――宿がある通りから出たところにある大通りに目を向けた。

「どうかしたの?」

「……なんか、向こうが騒がしい」

「大通り? そりゃ、人の多いところだから、それなりに騒がしいだろうけど……そんなに?」

 青年に言われて少女も目を向けるが、ここからでは特に大きな音が聞こえてくるということもなく、見える範囲でも異常はない。だが、それでも青年は何かを感じ取ったようだ。

「ちょっと見てくる」

「あ、ちょっと……!」

 少女が止める間もなく、青年は大通りのほうへと歩いていく。そんな青年の後を、少女は慌てて追い掛けたのだった。

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