序曲~決意~
ザァァ………………
聞こえるのは波の音…。
心地よい、眠りに誘うような静かで規則的なその音……。
いつまでも聞いていたい。
いつまでも…ここにいたい…。
赤く腫れた開けるのも一苦労するような泣き腫らした目蓋を開ける。
暗く、漆黒の海の色が一面に広がる。。
遠く、遠くまで届きそうなくらい近い星空と、空にくっついたような深い海の色。
目が上手く開かないためか、どこからどこまでが空で海なのかわかんない。
ザァァ………………
暗く、冷たく、何処までも深い。
時折吹く風が腫れた目に染みる。
少女は波打ち際に立っていた。
2つに結った長い自慢の青銀の髪が風に揺れる。
銀の星空に光るような髪と、同じく涙に光る紅色の瞳。
海をただ見つめるまだ幼さの残る顔にはまた一筋、雫の跡が走る。
どんなに拭っても流れ落ちてくる涙。
また腫れちゃうな…独り言を風にのせると固く握りしめていた手のひらを開く。
手には1つの小箱。
子守唄を奏でるといわれるオルゴール。
「…フィル…姉…。私。行くよ?」
『お願い……。あなたは白の世界へ…』
目を閉じると、悲愴な光景が映し出される。
女性は赤く濡れた手を少女に差し出し、そう消えそうな声で語り掛けていた。
手には…小さな小箱。
震える手で小箱を受け取ると女性は満足そうに笑った。
『幸せに…。』
顔を上げ、少女は目を開ける。
胸の中に思い出をしまいこみ、少女の顔は大人びた表情に変わる。海をまっすぐに見据え大きく息を吐いた。
気が済んだように躊躇なく海を背にすると力強く歩き出した。
海に全てを預けてきたように。
振り返ることなく真っ直ぐに前を見て、暗い砂浜に足をとられることもなく一歩、一歩踏みしめて。
もう涙は流さない。そう決めたから。
小箱をポケットにしまうと、心に誓うように、自分を奮い立たせるように呟いた。
「必ず行くから。白の世界に。」