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いとはいづこに

作者: 新谷 裕

 その青年は、退屈な日常を繰り返していた。

 高校を卒業したものの、特に人生において目標があるわけでもないので、とりあえずアルバイトを週に三日ほど入れた。何も予定が入っていない日は、ネットを見たりテレビを眺めたり、一日寝て過ごしたり。それが青年の日常だった。




 ある朝、外から聞こえる微かな音で青年は目を覚ました。何もない、いつもと変わらない休日。青年から発せられた大あくびがそれを示す。彼の人生の転機であり、非日常の始まりだった。

 午前九時。朝食を取りに台所へ向かうと、誰かが読んでいたのか、一冊の月刊雑誌が無造作に置かれていた。広げられていたページの上で「日常に潜む作家は誰だ!」という文字が躍っている。どうやら、一般の読者から投稿された小説をいくつか掲載する企画のようだ。優秀な作品は書籍化も約束されるという。

 普段なら、こんなもの無関係だ、と無視するところだが、この日の青年は違った。どういうわけか、彼の頭に一つの物語が浮かんだのだ。

 青年は、体を翻して自室に戻り、パソコンを立ち上げた。何年もこのパソコンを使っていたが、ワープロソフトを起動したのは初めてだ。朝食を食べるのも忘れて、一心不乱に文字を打ち込んだ。

(今、この瞬間に文字にしなければ終わる)

 何かに追われるように、青年は言葉を綴った。



 青年が次に時計を見たのは、午後四時のことだった。ついに昼食もとらずに、作品作りに没頭していたのだった。

 彼が書き上げたのは、短編小説。宇宙人の視点から、地球侵略作戦を実行する様子を日記形式で描いた、SF小説である。

 今までに、小説を書く機会など青年にはなかった。本を読むこと自体乏しかったのだ。だが、この時の彼は違っていた。本当に、自分が体験した出来事を日記に書いているだけのような、不思議な感覚に包まれていたのである。何故、そんな事が起こったのか、などということは青年には知る由もなかった。いささか疑問ではあったが、とにかく書き上げた作品を送ることにした。

 雑誌は少し前のものだったらしく、締め切りも一週間後にまで迫っていたため、青年は大まかに推敲をして、雑誌に書かれたメールアドレスにデータを送信した。



 数ヶ月後、例の雑誌の企画が始まった。一号に二作品ずつ、五ヶ月に渡るものだった。五ヶ月目に載るのは一作品、最優秀賞のみ。その作品が後に書籍化されるのである。

 青年は毎月雑誌を購入したが、ついに四ヶ月経っても彼の作品は掲載されなかった。そもそもここまで必死になる理由もわかっていないが、ごく普通に落胆した。最優秀賞かもしれないという微かな希望は、もはや消滅しかけていた。


 しかし、五ヶ月目、希望は実体化した。青年の作品が掲載されたのだ。その後、出版社から連絡が入り、表彰状を受け取り、担当者との打ち合わせを経て、とうとう彼の本が生み出された。

宇宙人が綴る地球侵略、というキャッチフレーズが話題となり、彼の本は異例の売り上げを記録した。彼の拙さの残る文章によって、よりリアルさを増していることが高評価に繋がったようである。そこからも本の人気は途絶えることなく、マスコミにも取り上げられるようになった。

 世間は、天才作家の誕生か、と騒ぎ立てたが、青年は、この先、執筆活動を続けることはほぼないだろう、とインタビューで答えた。この作品は偶然の産物だが、同時に必然でもあるのだ、と。

青年はその後、例の出版社に就職した。彼が小説を書き上げた日から、一年が経とうとしていた。彼の非日常は、静かに終わりを告げた。







非日常は、次なる非日常へバトンを繋ぐ。









「どうだ、具合は」


「良好です。いやあ、文書に残すとは賢いですね。口伝えではどうも記憶から薄れやすい」


「ああ」


「本部はこれを見越して、彼に託したのでしょうか」


「そんな大層なものじゃない、当て物みたいなものさ。糸を引っ張ったら彼がいた。だから彼の意識下に託した。ただそれだけの話だ」


「なるほど、では彼の働きは嬉しい誤算でしたね」


「ああ。おかげで、思いの外早く事が進みそうだ。この報告書を提出すれば、俺たちも肩の荷が下りるな」


「はい。星を出た何もない宇宙空間で、何ヶ月もの間、たった二人で重要人物を追い、逐一その人物の報告書を作成する。こんな大仕事を背負っている私たちもですが、見知らぬ星の未来を託されている彼も、つくづく不幸者ですよ」


「いや、案外幸せ者かもしれん。作戦が成功すればリャノ星の領土は増え、文明も発達し、人々の生活もより豊かになる。そんな最高な世界を作る手助けをしたのは俺たちだ。きっと崇められるだろう」


「そうですかね」


「きっとそうさ。さあ、さっさと報告書を提出して、宴会でも開こうじゃないか。俺たちの明るい未来を祝福しよう」









初めまして、新谷裕と申します。

「いとはいづこに」はお楽しみ頂けたでしょうか。

私は、部活動にて小説やイラストの創作をしております。

今作は、2015年2月に執筆したものです。

また追々、投稿していきたいと思います。

稚拙ではありますが、よろしくお願いいたします。

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