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「こちらがサクラダさんの冒険者証になります。再発行は何処の支部でも出来ますが、金貨一枚が必要となりますので紛失にはご注意ください」
桜田は自分の名前が仮名で書かれた冒険者証を手に取り、しげしげと見つめる。
「まず、冒険者の言動は原則として自己責任となります。その為冒険者同士の諍い事であっても、基本的には訴えは騎士団へお願いします。ただし規約違反に関する内容であれば、冒険者協会に連絡をお願いします。事実確認の上、改めて当該冒険者には冒険者協会から処分が下されます。それから、冒険者協会敷地内での刃傷沙汰は厳禁です。最悪の場合は登録抹消も有り得ますのでご注意ください」
そう言って睨みを利かせる受付嬢に桜田は大きく頷いた。
「冒険者ランクは白帯から始まります。お手元の冒険者証にある白い帯がその証です。以後は青帯、黄帯、茶帯、黒帯、赤帯と続きます。茶帯までは冒険者証に貯められた魔素により昇格していきますので、その都度冒険者協会で確認して下さい」
そこまで言って桜田が理解している事を確認した受付嬢は話を続ける。
「黒帯昇格には冒険者協会の支部長階級以上の推薦が必要になります。これは指名依頼の受諾権限や緊急時における冒険者の招集権や指揮権等、協会内での権利・権限が大きくなる為です。そして最高位の赤帯に昇格するには幾つかの条件がありますが、最低でも二か所以上の深層迷宮踏破が必要です」
細かな条件はその時にと話を締め括った受付嬢は一枚の紙を桜田に手渡す。
「文字は読めますか?」
手渡された紙に並ぶ見慣れた文字に少々驚きながらも桜田は頷く。
「その他の注意事項はその用紙に書いてありますので確認しておいて下さい。ご質問はありますか?」
受付嬢の言葉に、ふむと考えた桜田は、では一つだけと口を開く。
「その赤帯とやらの冒険者にはどこに行けば会えるのでしょう」
「ここ百年以上、赤帯昇格者は出ておりません」
受付嬢は表情を変えずに告げた。
冒険者として活動する以上赤帯を目指してみるのも悪くはない。
黒帯を免許皆伝と考えれば、赤帯はその先の境地に辿りつくといったところか。
桜田自身、免許皆伝を得てはいたが、自分よりも強い武士はまだまだ居た。
“満ち足りれば先には進めぬ、求める先にその道はある”
皆伝は目的ではなくその先の道へ進むための手段であると言った師の言葉を思い出す。
世界中の迷宮を巡りながら、百年以上出ていないというその頂を夢見るのもまた一興。
桜田の剣士としての血が騒ぎ始めた。
「終わりましたか」
桜田が振り向くとそこにはゼイノルドが立っていた。
「おぉ、これでサクラダ殿も冒険者の仲間入りですな」
ゼイノルドは桜田が手にしていた冒険者証を見ると満面の笑みを浮かべて手を叩く。
「私の方は一足遅かったようです」
一転して陰りを帯びたゼイノルドは言葉を続ける。
「あの冒険者達はトラハドに戻ってすぐ迷宮に潜り、昨日冒険者証だけが見つかったそうです。もう逃げられないと自棄を起こしたんでしょう。まぁ、自業自得ですな」
大きなため息をついたゼイノルドは、桜田に向き直ると笑顔を見せる。
「では魔晶石を買い取って貰ったら参りましょうか」
ゼイノルドに連れて行かれた買取窓口と書かれた受付に魔晶石を差し出すと、五つの魔晶石は銀貨五十八枚で買い取られた。
差し出された銀貨をゼイノルドに押し付けられ、有り難く懐に納めた桜田はそのままゼイノルドについて冒険者協会を後にした。
「旦那様、お帰りなさいませ」
店前の石畳を掃いていた丁稚であろう小僧が箒を止めると元気よく頭を下げる。
「あぁ、ただいま。ギースは居るかい?」
「はい、呼んで参ります」
ゼイノルドの言葉が終わると共に小僧は箒を放り出して飛んで行った。
「あぁまた、すみません騒々しくて。もっと落ち着くようにいつも注意しているのですが」
苦笑いを浮かべて頭を下げたゼイノルドは、投げ出された箒を戸口の脇に立て掛ける。
「先年亡くなった番頭の子供でして、母親を早くに亡くして父親一人に育てられていたのですが……。父親が本当に良く尽くしてくれていたので、丁稚として引き取ったのです。今回の様な商談も、今までならその番頭に行って貰っていたのですよ」
惜しい男を亡くしましたとゼイノルドは小さく頭を振った。
「お帰りなさいませ旦那様」
その声に振り向いた先に若い男が立っていた。
「おぉギース、今戻ったよ。お客様をお連れしたから客間を用意しておいてくれ。後、停車場に馬車を預けてあるんだ。大したものは無いんだが、後で荷物を運んでおいてくれ」
「畏まりました」
ギースは頭を下げると店の奥へと消えた。
「お疲れでしょう、サクラダ殿。さぁどうぞ中へ」
桜田は、ゼイノルドに促されて店の中へと入って行った。