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異界を斬る  作者:
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「サクラダ殿、見えて参りました。あれがアースティルです」

 嬉しそうにゼイノルドが指差す先に大きな城壁が見える。

 城の石垣のように見えるそれは人の背丈と比べて倍程の高さがあり、ゼイノルドの話によるとこの城壁が街をぐるりと取り囲んでいるらしい。

「いやぁ、やっと帰ってきました。無事に戻ってこられたのもサクラダ殿のお蔭です」

 桜田が護衛を引き受けてから二日、漸くアースティルに戻ってきたゼイノルドは改めて桜田に礼を述べる。

「いえ、私の方こそこれからお世話になりますので」

「いえいえ、サクラダ殿は命の恩人です。それくらいは当たり前です」

 アースティルが見えてから笑顔の絶えないゼイノルドは、詳しい話は街に入ってからにしましょうと馬車を走らせた。



「ゼイノルドさん、お帰りなさい」

 顔見知りなのか、槍を携えた若い門番が笑顔で迎えた。

「あぁ、ただいま。今回は大変だったよ」

 馬車から降りたゼイノルドは首から下げた身分証を取り出しながら答える。

「こちらの方は?」

 ゼイノルドの身分証を確認した門番が、隣の桜田を一瞥して問い掛けた。

「私の命の恩人だよ」

 ゼイノルドは盗賊に襲われた時のあらましを説明する。

「そりゃ災難でしたね、まったく馬鹿な奴らだ。護衛依頼を放棄して逃げ出すなんて、冒険者協会も黙ってないでしょう」

「真面目そうな奴らだったんだけどね。私もまだまだ修行が足らないよ」

「冒険者協会の紹介なら仕方ありませんよ、まさか逃げ出すなんて誰も思いませんから」

 自嘲するような笑みを浮かべたゼイノルドを門番が慰める。

「まぁ責任は冒険者協会に取って貰うけどね。逃げ出した奴らの処分は冒険者協会に任せるよ」

「冒険者協会も面子がありますからね、タイラジット中に手配を掛けるでしょうし捕まるのは時間の問題ですよ。もっとも、逃げ出した奴らが魔に魅入られなければの話ですけど」

 まったくだと頷いたゼイノルドは、思い出したように声を上げる。

「そうそう、仮証を出してくれ。これから冒険者協会に行ってサクラダ殿の冒険者登録をして貰わないといけないんだ」

「冒険者じゃなかったんですね」

 ゼイノルドの話からある程度高位の冒険者だと思っていた桜田が、これから冒険者登録をするのだと聞いて驚いた門番は、ゼイノルドから仮証の発行費(金貨一枚)を受け取ると桜田に向き直る。

「えっと、サクラダさんでいいんだね。この辺じゃ見かけない格好だが……。まぁいいさ、姓はあるかい?」

「姓が桜田です、名は半兵衛と申します」

 桜田は門番に頭を下げる。

「ハンベー・サクラダね。変わった姓だが異国の貴族様かい? あぁ失礼、ゼイノルドさんの恩人に余計な詮索はしないよ」

 ちょっと待っててくれと笑顔を残して門番は詰所へ戻る。

 桜田は門番を見送りながら、見た目通り名前の呼び方は南蛮人と同じなのだなと一人納得していた。



「此処が冒険者協会です」

 仮証を受け取った桜田は、停車場に馬車を停めたゼイノルドに連れられて冒険者協会に来ていた。

「こちらの方の登録を頼む、推薦人は私だ」

 物珍しげに辺りを見回していた桜田を余所に、ゼイノルドは受付に銀貨を数枚置くと自身の身分証を見せながら要件を告げる。

「ゼイノルドさん。推薦人、登録料共に確認しました。冒険者の新規登録ですね。それでは登録希望の方はこちらに左手を乗せてください」

 受付嬢は奥から一枚の石板を取り出すと桜田に左手を乗せるように促した。

「お名前をお願いします」

「桜田半兵衛です」

「はい結構です。では冒険者登録証を発行しますので少々お待ちください」

 これから何が始まるのかと期待していた桜田は、聊か拍子抜けした表情で呆気に取られていた。

「魔力を登録しているのです、神の御業ですよ。神殿で特別な祝福を受けた物だそうです」

 呆気に取られた桜田の隣でゼイノルドが笑っている。

「魔法が使える者は勿論ですが、使えない者も皆魔力は持っています。其々の魔力の特徴を登録して身分証を作るんですよ」

 だから偽造は不可能なんですと言いながら、ゼイノルドは自分の身分証を取り出して見せる。

「私の物は商工業協会の登録証ですが原理は同じです。もっとも、冒険者とはランクの付け方が違いますけどね」

「ランク?」

 桜田が首を傾げた所で受付嬢から声が掛かる。

「サクラダさん、お待たせ致しました」

 振り向くと受付台に鈍く光る鉛色の冒険者証が置かれていた。

「では、私はあちらで今回の件を報告して参ります」

 そう言ってゼイノルドは別の受付へ向かった。


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