表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界を斬る  作者:
4/35

4

「私も商人の端くれでございます。少なくともこのタイラジットにある国は全て存じておりますが、サクラダ殿のおっしゃる国には聞き覚えがありません」

 俄かには理解しがたい状況ではあったが、何とか現状を確認してアースティルまでの護衛を引き受けた桜田は、馬車に揺られながらゼイノルドに話を聞いていた。

 異国といっても、恐らくは坂本どころか勝でさえも知らないであろう地名に国名。

 これが神隠しというものかと訝しむ桜田だったが、よくよく考えれば元々が自分の知らない未知の世界に旅立つ目的で故郷(くに)を出てきたのだ。

 坂本との約束を果たせなかったのは心残りだが、母の想いは共にある。

 聞けば迷宮という名の魔物の巣窟に、魔法という名の妖術の類まであるという。

 桜田は未知の世界に思いを馳せる。

「どうやってサクラダ殿がこの大陸に来られたのかは分かりませんが、まずはアースティルで冒険者登録を致しましょう。なに心配はいりません、私が推薦致します。そうすれば身分は冒険者協会に保証され、この世界のどの国にも行けるようになります」

 国抜けをした上に異国である。身分証など有る筈のない桜田は、世界を見たいという旅の目的に共感してくれたゼイノルドの勧めに感謝する。

「それでゼイノルド殿、先程の盗賊なのですが……」

 桜田は先程見た不可思議な現象を思い出して眉を(しか)める。

「魔に魅入られ、闇に落ちた者の末路です」

 ゼイノルドは何でもない事のように話し始めた。

「本来、神は死後の平穏をお約束下さっています。我々は死後、遺体を荼毘に伏す事でその魂は浄化されて神の御許に参じる事を許されるのです。しかし犯罪を起こした者、それも人道に背き神の教えに背いた者は魔に魅入られ、神の加護を失ってしまいます。そうして闇に落ちた者は瞳が紅く染まり、己の欲望のままに動く魔物と同じ存在に成り果てます。そして死後、その身体は魔素となってその身を荼毘に伏す事を許されず、その魂は魔晶石となり現世に留め置かれるのです」

 一概には理解し難い話だったが既に自分の常識を覆されていた桜田は、この世界ではそういうものなのかと仄かに光る魔晶石を掌で転がしてみる。

「その魔晶石は冒険者協会で買い取ってくれます。色の濃さでその価値は違いますが、様々な魔道具の素材として使われていますので重宝されますよ。あまり色は濃くありませんが、それ五つで銀貨五十枚ぐらいにはなるでしょう。」

 そう言うと、貨幣価値の分からないであろう桜田にゼイノルドは笑顔で告げる。

「アースティルの平均的な宿屋であれば、銀貨五十枚で十日は泊まれますよ」

 勿論お礼はしっかりさせて頂きますと付け加える事も忘れない。

「元々魔晶石は魔物から取れる物なのです。魔物は迷宮に溜まった瘴気から生まれますが、迷宮の外に出る事はありません。地上では神のご加護により瘴気が薄められている為に生きていけないそうです。その為、タイラジットにある各地の迷宮には魔晶石を求めて冒険者が集まります。サクラダ殿も世界を回られるのでしたら、各地の迷宮を巡られると良いかも知れませんね」

 魔物というモノに興味もあったが、それで路銀を稼げるのも大きい。

 もう実家を頼る事は出来ないし伝手もない桜田は、取り敢えず迷宮巡りをしてみるのもいいかと考える。

「有難うございます。まずは近場の迷宮から巡ってみようと思います」

 桜田の言葉にゼイノルドは満足そうに頷いた。

「この近辺なら、トラハドに浅層の迷宮があります。なにサクラダ殿なら大丈夫です。すぐに踏破されるでしょう」

 聞けばトラハド周辺で冒険者になった者は、皆その迷宮から始めるらしい。迷宮の魔物がどれ程のモノか、腕試しには丁度良いかも知れない。

「まずはアースティルで準備を整えましょう。いや心配はいりません。全て私が手配させて頂きます」

 桜田は自分が迷宮に行く訳ではないのに、妙に乗り気なゼイノルドに若干気圧されつつも有り難い申し出に感謝した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ