犠牲者 峯岸拓真(19)
早朝六時を回った頃・・
「あー!やっと終わったかー」
客も全員帰り俺はソファーにもたれ掛かった。
ネクタイを外しながら周りを見渡した。
・・・あれ? 拓真がいない・・・
いつも仕事が終わったら、一番にとびついてくる奴なのに・・
近くで片付けをしている新人に声をかけ聞いてみた。
「おいっ、拓真は?」
「あっ、拓真さんならVIPルームで寝てますよ」
「そうか・・疲れてんのか。」
「あっ、俺・・起こしてきます!」
「いいよ、俺が起こすから。」
俺は新人の言ったとおり店のVIPルームへ
拓真を起こしに行った。
拓真は一番大きいソファーに横になり
微笑みながら静かに目を閉じていた。
「拓真ー、帰るぞー」
相当疲れてるのか、寝息一つ立てずピクリともしなかった。
「拓真ーーー帰るぞー」
拓真の耳元に近づき大きな声で呼んでも何の反応もなかった。
何かおかしい・・・
そう思った俺は、拓真を揺すった。
予感は的中し、拓真はソファーから落ちても
何の反応も示さずに微笑んだままだった。
「おい!拓真!拓真!拓真!!」
そう何度呼んでも揺すっても拓真は目を覚まさなかった・・・
「おい、どうした?」
俺の大きい声にSHINさんが中を覗き込んできた。
SHINさんは拓真を見て血相を変えてすぐさま拓真を
抱きかかえ呼吸しているかを確認した。
SHINさんは大きい声で
「おい!誰か、救急車を呼べ!!」
と叫んで拓真の頬を叩き起こそうとした。
俺は現実を受け止められず、抱きかかえられた拓真を呆然と見つめていた。
来た救急隊員によって拓真は救急車に乗せられた。
SHINさんの車で俺とSHINさんは救急車の後について
一緒に病院へと向かった。
病院に到着し、すぐ医者に呼ばれ俺とSHINさんは説明を受けた。
「・・・残念です。」
「は?なに言ってんだ?拓真が死ぬわけねぇだろ?」
「落ち着け!」
「ふざけんな!あいつは死なねぇーよ!」
叫び狂う俺をSHINさんは無理やり外へ追い出した。
後でSHINさんに聞いた・・・
拓真はアルコールの過剰摂取によって死亡したと・・
翌日から拓真の葬儀、葬式が行われた。
拓真には親戚も家族もいない。
俺とSHINさんが費用を出し合い寂しがりやの拓真の為に
知っている限りの拓真の友達全員に声をかけ呼び集めた。
拓真には数えきれないくらいの友達がいたんだな。
みんな泣いていた・・・・・
拓真はいい奴だからな・・
あたりまえだよな・・
羨ましいよ・・
お前にはこんなに沢山の友達がいたんだな・・
俺には・・本当に大切な友達は、お前しかいないのに・・
俺、これからどうすればいいんだ?
なぁ、拓真・・・なんで死ぬんだ・・・
なぁ、なんで拓真なんだ・・・?
拓真じゃなくてもよかっただろ・・・?
俺が代わりに死ぬから、頼むから・・
拓真を生き返らせてくれよ・・
俺の願いは虚しなしくも叶うことなく時間だけが過ぎて行った。
犠牲者1 峯岸拓真(19) 終。