第1話 一人の少年
ようこそ。気に入って頂けると嬉しいです。では、ごゆっくりどうぞ。
「だから、何度も言わせないでおくれ!うちには、もうあんたんところに分ける小麦粉も牛の乳も無いんだよっ。」
「無理を承知で言ってるのはわかってます。お願いします、少しでいいんです。お代はお支払いしますから。」
「そんなことを言うけどね、アーネストさんとこの見習いさん。何でも魔法省からの要請も、無視してるらしいじゃないか。まともに成果も上げれてないらしいし。…悪いけど、もう帰っておくれ。」
バタンと閉められた扉を暫く見つめていた、黒いマントを羽織っている小柄な少年は、小さくため息をついて人気のない路地をとぼとぼと歩き始めた。今朝早くから町を回っていた少年は、先程のような会話を幾度となく繰り返していた。
ここ、山脈地方にあるシュバリエでは、いつもならば雨期がきているこの時期にしては珍しく雨が降っていない。それは、農作物を商売にしているここいらの民にとっては大打撃で、毎日自分達の食料を確保するので精一杯だ。先程の家は、仕事にのめり込むと食べる事を忘れる師を理解してくれていた、数少ない人だった。
「…今日も干からびたそら豆のスープだな。」
そぼそりと呟いた少年は、山に続く砂利道に出ると、空っぽの鞄を肩に掛けて登り始めた。