可愛いあの子は誰のもの?
初投稿です。
ちゃんと、伝わればいいな…
「…それで、なんのお話でしたかしら?」
アイリスは惚けたように首を傾げ、対峙する相手に本当に思い付かないのだと暗に告げる。
ただし、その口元は面白そうに少しだけ口角が上がっていた。
「アイリス。惚けても無駄だ。君にだって何の話か見当がついているだろう?」
揶揄うようなアイリスに対し、レオンは声に剣呑な響きを乗せる。
相手の態度に我慢ならないとばかりに、エメラルドグリーンの瞳がスっと眇められた。
「あら、惚けてなどおりませんわ。私は将来レオン様を側でお支えする立場。我がサフィア公爵の名にかけて嘘など申しませんもの」
口元に愉悦を浮かべたまま綺麗なクリムゾンレッドの瞳が見開かれ、心外だとばかりに胸元へ右手が添えられる。
その大袈裟な仕草でさえ、幼少期からの教育により洗練された物に見えた。
「それでは、何故マリアが私の側から離れた?周りの物に問えば、アイリスと一緒に居たと証言があったぞ」
憮然とした表情を浮かべ、ベルベットの重厚な椅子からゆっくりと立ち上がる。
そのまま威圧感を感じさせるように、執務机の向こうに立つ相手の元へ歩を進めていく。
当のアイリスは、見慣れている生徒会室の執務机に視線を落とし、迫り来る相手に興味が無い事を示すように繊細な装飾を目で追っていた。
段々と視界の端からレオンの足が入ってくると、自身のすぐ側で止まった。足元から順に視線を移し、最終的に未だ納得していないと告げる瞳とぶつかった。
「マリアの事でしたら、彼女から私の元へと来たのですわ。…レオン様の元より居心地が良いのではなくて?」
自身の髪色と同じ黒いレースの扇を広げ、口元を隠しながらクスクスと揶揄うように笑えば、レオンの表情は一層厳しいものへと変わり頬が紅潮していく。
「嘘を言うな、アイリス!彼女には王宮の一室が与えられ、何不自由ない生活をさせている。夜だって、第一王子である僕自ら一緒に添い寝しているんだぞ」
自分ではなく相手が選ばれたのかもしれない不安が巡り、レオンは目眩がしそうな程の激情を逃がすようにバンッと右手で執務机を叩けば、置いてある書類の束が軽く震えた。
左手で目元を覆って俯けば、マリアが自分を呼ぶ可愛いらしい声が聞こえた気さえした。
「殿下、そういう所ですわ。普段は良き王太子として執務をなさっていらっしゃるのに、ことマリアに関して感情が重すぎるのです。マリアは暫く我が家で預かりますので、感情を制御出来ましたら迎えに来られませ。陛下からの許可も既に頂いております」
広げていた扇を閉じ、片手の平へパシッと小気味よい音を響かせると、溜息を付きながらもう決定事項なのだとレオンへ告げる。
突然のアイリスからの宣言にバッと顔を上げ、ウロウロと視線を彷徨わせながら反論の言葉を探すも、既に父である国王からの許可が降りているのであれば覆すことが出来ない。
レオンに今出来ることは、ただ無言で項垂れることだけだった。
「…分かった。マリアを頼む…」
項垂れたまま苦しそうに一言告げれば、アイリスの表情が満足気なものへ変わる。
「承知致しましたわ。…ねぇレオ?マリアのような猫は構いすぎると逃げてしまうけど、女性は構わなさすぎると逃げてしまいますわよ」
綺麗なカーテシーで了承の意を示し、まだ項垂れたままの己の婚約者の耳元へ、そっと口元を寄せて愉しげに囁く。
驚いたように勢いよく顔を上げる、レオンの表情を気に留める事なく生徒会室を出た。
今頃、自分のベッドで寝ているだろうフワフワの白い子猫-マリア-を思い浮かべ、国王に許可をもぎ取ってでも引き取れたのは幸いだったと、スキップしそうな気持ちを抑えつつ自宅へと向かった。
マリアは白い子猫でした♫
レオンもアイリスも、この子猫が可愛くて仕方ありません。それなのに、いつもいつもレオンとばかりいるので、アイリスは暴挙に出ました(笑)




