氷河の拳 ―THE LOST GENERATION―
これは、経済が崩壊し、慈悲が失われた西暦 204X 年の日本を舞台にした、哀しみと怒りの物語である…。
西暦 204X 年。
世界は核の炎には包まれ……なかった……だが!!
長きにわたる経済停滞、少子高齢化、そして政府の無策は、静かに、しかし確実にこの国を蝕み、秩序は崩壊した。
かつての繁栄の象徴、トーキョー・ネオ・スラム。
年金制度は破綻し、医療は特権階級だけのものとなった。
街には、かつて「就職氷河期世代」と呼ばれた老人たちが溢れかえっていた。
彼らは家を失い、家族を失い、ただ生きるために泥水をすすり、明日をも知れぬ日々を送っていた。
暴力が支配するこの荒野で、彼らは「棄民」と呼ばれ、蔑まれていたのである!
廃墟と化した新宿の高層ビル街。かつてのオフィスビルは、窓ガラスが割れ、薄汚れたシートで覆われている。その谷間で、ボロ布をまとった痩せこけた老人たちが、配給の「合成芋粥」に群がっている。だが、その老人たちの眼光は鋭く、生き抜いてきた者特有の無駄な筋肉が浮き出ている。
巨大なバイクのエンジン音と、棘付きの肩パッドをつけたモヒカン達が現れる。彼らは新興富裕層に雇われた「年金狩り隊」だ。
モヒカン A「ヒャッハー! 今日もゴミどもが湧いてやがるぜ! おいジジイ共、ここを通りたきゃ『呼吸税』を払いな!」
老人 A(かつて真面目な非正規社員だった男)「ま、待ってくれ…昨日は『歩行税』を払ったばかりじゃないか…。これ以上取られたら、ワシらは餓死するしか…」
モヒカンの隊長(巨漢の男)「知ったことかァ! 払えねえ奴は、姥捨てマウンテン(最終処分場)行きだ! 社会のお荷物どもがァ!」
ドグシャァッ!!!
モヒカンの隊長の巨大な拳が、老人 A の顔面を捉える。老人 A は数メートル吹き飛び、瓦礫に激突する。
老人 A「ぐ…ぷっ…(吐血)。くやしい…真面目に生きてきたのに…なぜ…」
老人 A の手から、色あせた一枚の写真が落ちる。夢と希望に溢れていた子供の時の家族写真だ。
モヒカンの隊長「ケッ、汚ねえ写真だ。おい、こいつらを全員トラックに乗せろ! バイオ燃料の原料にしてやるぜぇ!」
老人たち「ひいぃっ! お助けをォ!」
(シーン:その時、砂嵐の向こうから、一人の男が静かに歩いてくる。ボロボロのトレンチコートに、岩のように鍛え上げられた肉体。その目には、深い哀しみが宿っている。男の名は、ケンジ。)
コツン、コツン…
モヒカン B「あぁん? なんだぁテメェは? 新手のホームレスか?」
ケンジ「………」
モヒカン B「無視かよォ! 死にてぇようだな!」
(モヒカン B が巨大なバールを振りかざす!)
ブォン!
(シーン:ケンジの姿がかき消える。次の瞬間、モヒカン B の背後に立っている。)
ケンジ「…貴様らには、聞こえないのか」
モヒカン B「あ? なにを…」
ケンジ「この時代の荒波に揉まれ、理不尽に耐え、それでも歯を食いしばって生きてきた者たちの…魂の叫びが!」
モヒカン B「なっ!? い、いつの間に…体が動かねえ!? あ…あべしっ!!」
(モヒカン B の体が内部から破裂し、ねじ切れる!)
モヒカンの隊長「き、貴様! 何をしたァ!?」
ケンジ「(コートを脱ぎ捨て、鋼鉄のような筋肉が露わになる)俺の名はケンジ。失われた30年を生き延びた、ただの『派遣』だ」
モヒカンの隊長「ハケンだとォ!? ふざけるな! 俺様は『シルバー人材派遣機構』の第3エリア統括部長、ゴウダ様だぞ! 貴様のような底辺が逆らっていい相手じゃねえ!」
ドォォォン!
(ゴウダが巨大な肉体を震わせ、突進してくる。)
ゴウダ「この老害どもを処理するのが、俺たち現役世代の正義なんだよォォ! 喰らえ! 圧迫面接タックル!!」
(シーン:ケンジは動じない。静かに構えを取る。その背後に、無数の氷河期世代の怨念がオーラとなって浮かび上がる。)
ケンジ「…正義? 貴様らが語る正義は、弱者を踏みにじるための詭弁に過ぎん。その腐りきった性根、俺が修正する!」
アタタタタタタタタタタタッ!!!!
ホォォォォワッターァッ!!!!
(シーン:目にも止まらぬ速さの百裂拳が、ゴウダの秘孔を正確に突き抜ける!)
ケンジ「(静かに着地し、背を向ける)…貴様はもう、雇われていない。」
ゴウダ「な、なんだと…? 体が…熱い…! まさか、俺の退職金が…ゼロになる幻覚が…見え…ちくしょォォォォ!! 我が人生に、一片の貯蓄なしィィィ!!!!」
ひでぶっ!!!
ゴウダの体が、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
(シーン:静けさが戻った廃墟。老人たちが、信じられないといった表情でケンジを見つめている。)
老人 A「あ、あんたは…もしや、伝説の…?」
ケンジ「(落ちていた写真を拾い上げ、砂を払って老人に渡す)…礼は要らん。俺もまた、この時代を彷徨う同胞の一人に過ぎない」
老人 A「おお…なんという哀しい目をしているのじゃ…」
(シーン:夕日が、崩れかけたトーキョー・タワーを赤く染める。ケンジは一人、荒野へと歩き出す。)
(ナレーション)
男の背中には、時代の重荷が背負われていた。
彼が戦うのは、悪党だけではない。この国を覆う、絶望という名のシステムそのものなのだ。
行け、ケンジ!
闘え、ケンジ!
すべての氷河期世代に、安息の日が訪れるその時まで!
(第1話・完 ― 続……かない)
この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。




