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才女でスタイルはいいのに顔が残念と謳われた侯爵令嬢の処世術とは

作者: 春待瑞花

 侯爵令嬢プリシラ・ダグラスは、才女でスタイルは抜群だが、顔は残念と噂されている。

 学園を次席で卒業し、王女殿下の侍女として常に側に控えていたが全く目立たなかった。


 母である侯爵夫人は、誰もが認める大変な美女であり、夫や弟も美男子であったため、ダグラス家の美貌は王国一と言われたが、ただし、その中にプリシラは含まれなかった。

 幼い頃のプリシラは鼻の穴が大きく、垂れ目で眉毛が太く、美しい侯爵夫人の横にいるとその野暮ったさがやけに際立ち、容姿を褒めるものはいなかった。13歳頃からは大きな縁の黒い眼鏡をかけ、厚い前髪で目元が覆われ常に下を向いていたためか、眼鏡をした地味な子として認知され、スタイルはいいのに顔は残念。けれど、王女殿下の引き立て役として最適だと陰で囁かれていた。


 侍女となって3年が経ったころ、プリシラの婚約者が決まった。公爵令息のイアンだ。

 イアンはその地位と能力、容姿、性格、すべてにおいて非の打ち所がなく、王国の令嬢達が婚約したい令息最上位に位置しており、容姿に自信のある令嬢達は自分が婚約者に選ばれるかもしれないと、夜会ではイアンに積極的に纏わりついていた。

 だが、21歳のイアンの婚約者として公示されたのは19歳のプリシラだった。

 確かに才女でスタイルはいいけど、あの顔じゃイアン様の横に並ぶのに相応しくないと、顔に自信のある令嬢達は憤った。


 公示後初の夜会にイアンがプリシラと参加すると聞いた令嬢達は、イアンの横に並ぶプリシラを嘲笑うつもりでその入場を待った。


 イアンがプリシラと共に入場した。

 イアンの横にいたのは、目の醒めるような美女だった。プリシラの母にそっくりな人物がそこにいた。

 会場中の誰もが驚いてプリシラを見つめていた。

 イアンとプリシラは微笑み合いながら会場を進み、夜会の主催者である公爵夫妻に挨拶を行った。


「ロズウェル卿、本日はお招きいただきありがとうございます。プリシラと婚約したのはつい最近ですが、以前からずっとプリシラをパートナーとして伴いたかったのです。やっと実現出来ました。その機会をいただけたこと、大変感謝申し上げます」

 満面の笑みでそう告げるイアンに

「イアン殿、婚約おめでとうございます。

 こ、こちらはダグラス家のご令嬢でしたかな」

 と言い、プリシラをみる。

「はい。ロズウェル公爵様、本日はお招きいただき感謝申し上げます。プリシラ・ダグラスでございます」

 と、プリシラは笑みを浮かべて答えた。

「プリシラ様もご婚約おめでとうございます。プリシラ様が本日はあまりにもお美しいので、主人はかける言葉を失ってしまったようですわ。ごめんなさい。

 イアン様もプリシラ様も、どうぞ夜会を楽しんでくださいね」

 公爵夫人が公爵の失態をすかさずフォローし、二人に微笑んだ。


 主催に挨拶を終えた二人は、給仕から飲み物を受け取り口をつけたが、他の者達が二人を見つめる視線を完全に無視してピッタリと寄り添い、見つめ合いながら会話をし、ダンスの輪に加わった。

 美男美女で、お揃いの完璧な装いをし、所作やダンスの腕前も一流の二人は、王族のような輝きを放っていた。プリシラを嘲笑うつもりだった令嬢達は、未だショックから立ち直れず呆然と二人を見つめていた。


 ダンスを終え、二人はバルコニーへ向かった。

「こうなる事は予想していましたが……これまで容姿を偽っていた事は皆様を騙していたという事でしょうから…… なんだか申し訳ないです」

「いや、あの姿が偽りの姿である事は少し考えたら分かるだろ。化粧で綺麗になれるなら、その逆も然りなんだから」

「ですが、綺麗になるためにするのがお化粧なので、あえて損ねるようにするお化粧は、普通は誰もしないですから」

「だが、俺はプリシラがあのままの素顔でも構わないぞ。プリシラの良さは顔の良さがなくても損なわれないからな。俺は君の全てが好きだ。愛おしい。化粧していない女神のような美しい顔も好きだが、化粧したちょっとタヌキに似てる顔も可愛い。仕事に真摯に取り組む姿勢や、家族を大切にするところ、周囲への気配りを絶やさず誰に対しても配慮出来る優しさ、先回り出来る頭の回転の良さ、他の者に惑わされない芯の強さ、プリシラのいいところ好きなところを挙げればキリがない。

 昔からずっと大好きだよ。愛してる」

「ふふっ、いつも褒めていただき嬉しいです。私も大好きですわ。3年間は侍女として働きたいとの我儘も叶えていただき本当にありがとうございます。お待たせしてごめんなさい。

 私もずっと以前から愛していますわ。幸せな家庭を築きましょうね」

「もちろんだ。誰よりも幸せにすると誓うよ」


 ――――――


 プリシラの母、マチルダは伯爵令嬢であった。祖父譲りの濃い眉毛が特徴であったが、幼い頃からとても美しい顔立ちをしていた。祖母は眉毛を整えれば誰よりも美しくなるのではと思い、12歳の学園入学前には眉毛を一般的な太さに整えた。案の定、誰もが認める完璧な美女が誕生した。

 学園に入学後は、その美貌を褒め称えられ、多くの令息から声をかけられたが、同時に令嬢達からは事あるごとに嫌がらせを受けた。令息達からの執拗な誘いにもうんざりしていた母は、婚約者候補の中でも一番真面目で誠実そうな父を婚約者に選び(母の横に並んでも見劣りしない美男子との絶対条件はありつつ)、卒業と同時に婚姻した。

 産まれた私は眉毛が濃いところも含めて母そっくりであった。母は、私の将来を憂えた。侯爵令嬢という地位で誰よりも美しければ、下位貴族だけではなく高位貴族から僻まれる可能性があり、娘が歳の近い王女の近くに並んだら、王女より目立ってしまう可能性があるということを。

 母は、娘が美しいとの事実を隠すことに決めた。お茶会に参加する5歳頃から、外出する際は太い眉毛をさらに太く、目はタレ目にし、鼻の穴が大きく見えるようにメイクを施した。家族や使用人は、母にそこまでしなくても、と苦言を呈したが、プリシラの賢さは幼い頃から際立っており、将来は侍女になる可能性もあること。もしそうなれば、王女様より美しく目立ってしまうと本来の活躍が出来ず、せっかくのプリシラの能力が評価されない可能性があること、美しく育てば、他国の貴族から婚約が打診され早くから離れて暮らさざるを得なくなる可能性があること、それら諸々を回避するため、メイクは娘の処世術として不可欠であることを強調し、外出時にはプリシラにメイクを施すようにメイドに指示した。

 学園入学前にはプリシラは、自分でメイクするようになり、毎日の日課としてタヌキのようなメイクを自分に施した。メイクによる色素沈着が心配であったが、眼鏡をかけるようになってからはプリシラの顔に注視する物は皆無となったため、普段はメイクせず長めの前髪で眼鏡を覆いながら下を向いて歩き、お茶会や夜会など公の場のみメイクして参加した。


 イアンの父はプリシラの父と仲が良く、家族を伴い、よくお互いの家を訪問していた。

 イアンはプリシラがメイクしている事に出会ってすぐ気づいた。

「なんで、そんな変な化粧をしているんだ?子供は化粧しなくていいんだぞ?」

「イアン様、このメイクはわたしが将来困らないようにしているのです。しょせいじゅつ?らしいです」

 幼い二人はよくわからないながらも、大人の言う通りにした方がいいのだろうと深く気にせず仲良く遊んだ。


 学園入学前、両家の家族が揃った場でイアンが言った。

「プリシラは、学園入学後もメイクを続けるのか?俺の婚約者になるのだから、素顔を晒してもいいのではないか?」

「イアン様、私は王女殿下の侍女となりたいのです。そのためには、目立つ事は避けたいのです。イアン様の婚約者になる事に何ら異存はありませんが、公表すると目立ってしまって侍女になる事が出来ないと思います。このまま、侍女となるまで私の素性とイアン様との関係を隠しておいていただきたいのです」

「たしかに… プリシラは、王女殿下が政務にあたる上で大変な戦力となるだろうなぁ。実際、その歳で他の令嬢方5人くらいを併せた能力をプリシラは持ってるしなぁ」

 と公爵が呟く。

「本当に。こうなる未来を予測して対策を立てていたマチルダは凄いですわ。本来の美しいプリシラのままであれば、その美しさと地位で令嬢達の僻みは相当なものでしたでしょうし、侍女になる事は決してないでしょうね。早々に他国の王族から婚約の打診も来てたと思うわ」

 公爵夫人がため息とともに話した。

「当家としては、二人の婚約の意思は固いようだし、婚姻の時期含めた婚約に関しての諸々は公爵家に従うが…… 」

「ええ。そうね。だけれど、プリシラの素顔の公表は婚約発表と同時がいいと思うわ」

 父と母が言う。

「プリシラの能力をうちで抱えてしまうのはもったいない。プリシラの望み通り、侍女となって働いた後で婚約の公表としよう。イアン、いいか?」

「プリシラと婚約出来るのであれば、私は父上方に従うのみです。婚約者はプリシラ以外には考えられませんから」

「本当に、イアンは昔からプリシラが大好きね。プリシラ、他に素敵な男性が現れても諦めてね」

 と公爵夫人が笑う。

「私こそ、イアン様以外の方なんて考えられません。お義母様、お義父様、末永くよろしくお願いいたしますわ」

 と、素顔の美しい顔でニッコリと微笑んだ。

「本当にお似合いの二人だこと」

 と大人達は微笑った。


 ――――――


 イアンとプリシラが婚姻してほどなく…

 二人の間に女の子が誕生した。

「あら… この子はイアン様譲りの綺麗な眉毛ですわね。どうしましょう?太くメイクしますか?」

「いや、公爵令嬢に対してあからさまに僻む者はいないだろう。侍女にもならないだろうし、この子は素顔のままでいいと思うよ」

 苦笑いを浮かべてイアンが穏やかに話す。

「ふふっ、そうですわね。きっと、すぐに王子達から求婚されますわね。王子妃教育に追われる未来がみえますわ。出来ればこの国の王子達のどなたかに嫁いで欲しいですが…… この美しい子を射止めるのはどなたかしらね」

「はぁ…… まだ産まれたばかりなのに、もう手元から離れる事を考えなくてはならないなんて、気分が滅入るぞ。今はまだこの子に愛情を与えるのは君と俺だけでいい」

「あら。それは無理ですわ。お祖父様、お祖母様方も私達と同じくらい愛情を与えますから。

 ふふっ、たくさんの愛情を受けて美しく育ってね」


 イアンとプリシラの間には、その後も美しい令嬢と令息が3人誕生し、周囲からの愛情を受けて輝かしく育っていった。どの子も才色兼備でさすがは公爵夫妻の子と賞賛され、その昔、プリシラが残念な顔と謳われた事実は闇の彼方に葬られたのであった。



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