表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/33

第7話 この探偵は殺す②

 私は拍手しながら十河に微笑みかけた。


「素晴らしい推理ですね。」

「ふん!

敗けを素直に認めるのだな?」

「その前に、

質問よろしいですかな?」


 私は二階堂の顔で微笑む。

十河は自信ありげに鼻を鳴らした。


「まず一つ目を。

凶器はなんだと思われますか?」

「凶器は銃だ。

あの惨劇を見たのなら、当たり前だろ?」


 十河は私を小馬鹿にした顔で言う。

なので、私は笑顔で追加する。


「では、

その貴方が聞いた『一発目の前に撃たれた銃声』は、

どうなりました?」

「それ……、は、……。

どうにかなる。」


 明らかに狼狽える十河。

もっとよく考えろ、ポンコツ探偵。


「なりません。

それはそれで、

もう一発銃声が鳴ってしかるべきです。

それがないのに銃が撃たれたなら、

『銃声がしない銃で撃たれた』ことになる。

 そんな凄い銃、

あったとしたら軍やどこかの国のスパイしか持てないはずです。

そこの女中の方はそう言った方でしたか?

三橋警部。」


 私はボンクラ警部の顔を覗き込んだ。

三橋はハゲ頭を撫で上げながら言う。


「……いや、彼女はこの辺の出身で、

軍にいた経歴も外国のスパイの可能もない。」

「ありがとうございます。

では、今一度お伺いします。

 十河さん、貴方の言う『一発目の銃声』は、

どうなりました?」


 十河は顔を赤くして私を睨む。

私は反論の余地を与えず続ける。


「更に。

貴方の推理では娘さんの殺害後、

犯人は窓から外へ出ます。

あの血塗れの部屋を、

血の海をまたいでドアの対面にある窓から、です。

 どうしても、血痕を踏むはずなのです。

警官の皆様はとても優秀でして、

私が先ほど現場を見ましたが血痕に足跡も何もありませんでした。

一体どうすればあの血の海を、

一つも踏まずに渡れるのでしょうか?」

「それは……、そのっ。」


 私はすこし大袈裟にかぶりを振る。

赤から青に変わる十河の顔を眺めていると、

突然彼が叫び出した。


「でっ! では!

貴方の推理を伺いたい!」


 裏返った叫び声。

私はすこし長めに溜めて、

小柄な方の女中の前に立つ。

 怯える彼女に微笑みかけて、

私は質問をした。


「貴女が、一番始めに現場に到着した方ですね?」

「は、ハイ。」

「その時、何かを叫んでいたとか?」

「あ、えっと。

お、お嬢様に、『ドアを開けて下さい』、と。」


 私は首だけご主人に向けて確認をする。


「ご主人、彼女の発言に間違いはありませんか?」

「あ、あぁ。

娘は、彼女は養子でしてな。

米国の友人の忘れ形見でした。

 彼女はまだ日本語を話すことができず、

その女中には通訳と介助を頼んでいました。

 あのときは私も錯乱して、

日本語で話しかけましたが何の反応もなく。

ドアも開きませんでした。」


 そら、見たことか。

これ程私の予想通り過ぎると、つまらない。


「確認ですが、

英語を話すことができるのはこの中で彼女だけでしょうか?」

「はい。

私も妻も話せません。」

「では、何となくで結構です。

私が今から言う一言と、

女中の彼女が言った一言が同じか確認してください。」


 背の低い女中が目を見開く。

私はそれを余所目に、言った。


「Don't open the door! Hold it shut!」


 私の声を聞いた背の低い女中が青ざめる。

主人が私の声を聞いて、うなずいた。


「えぇ、そんな感じでした。」

「……なるほど。」


 私の意図を読み取ったのだろう。

背の低い女中が震えだす。


「三橋警部、

ドアを撃ち抜いた銃を見せていただいても?」

「おぉ、すこし待っててくれ。」


 警官が持ってきたのは、

口径の大きな回転式銃だ。


「ご主人、ドアを撃ち抜いたこの銃は普段どこに?」

「その女中に持たせています。

 娘の護衛もかねて、

銃を取り扱いもできる女中を雇いました。」


 確定だな。

私は震える彼女の周りをゆっくり歩いて語り出す。


「今、私が話した英語は、

貴女の証言とは異なります。

私は、

『ドアを開けるな! しっかり押さえてろ!』、

と言いました。」


 私は震える彼女の後ろに立って話を続ける。


「私の推理は、こうです。

 まず、娘さんの隣の部屋で、

貴女は空砲を撃ちます。

そして、部屋を飛び出して隣の部屋にいる娘さんに、

さっきの言葉を叫びます。

 それを聞いた娘さんは、

部屋から出ないように施錠し、

ドアを手で押さえる。

 そこに、ご主人と十河さんが駆けつける。

ドアは開きません。

娘さんが押さえてますから。

 そして、貴女はご主人に日本語でこう言います。

『ドアを銃で撃ち抜いて開きましょう』。

『急いで娘さんを助けましょう』。」


 ご主人と十河は顔を見合わせて、

私の前にいる女中を見つめた。


「ご主人が許可をして、

貴女は部屋から銃を持ってき、ドアを撃ち抜く。

『ドアを押さえていた娘さんの頭ごと』。」


 本当に誰も分からなかったのか?

かなりの人数がいて。

こんなありきたりなトリックを分からないなんて。

私は大きなため息を我慢して続ける。


「ドアは開きます。

しかし、同時に娘さんは……。

 そうですね?

女中さん。」


 女中は私の目の前で膝から崩れ落ちた。


「……はい。

おっしゃる通りです、探偵さん。」


 女中が白状した。

周囲が騒然とする。

 なんて手応えも何もない。

つまらなすぎて、屁が出そうだ。

 私は二階堂の演技をしながら、

ありきたりな犯人の独白を聞き流す。

これがまた、痴話喧嘩の延長という、

更にありきたりな理由だ。

もう、聞きたくもない。

 私は彼女が警官に連行されるのを見送って、

三橋の上部だけの賛辞を聞き流し車に戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ