第6話 この探偵は殺す①
四葉が私をつつく。
私にしか聞こえないくらいの小声で何か言う。
私は聞き取れなかったので、読唇術で補完した。
「……ちゃんと推理しろよ。」
私は腹話術の要領で、
顔を変えず口を開かず四葉にだけに聞こえるよう話す。
「当たり前だ。
こんな、手垢でベトベトのトリック。
私の天才な頭脳を使うまでもない。」
「顔が一切動かない……。
気持ちが悪い話し方だな。」
「うるさい。
黙って見てろ。」
そう、探偵二階堂の評判はイコール、
私ノーフェイスの評判と言っても過言ではない。
この程度の謎も解けないボンクラ探偵に追い詰められたなんて、
お天道様が許しても私が許さん。
「こちらです。」
三橋と私たちを連れて、警官が別室に案内した。
そこには頭を抱えている男性と、
嘆き悲しむ婦人。
そして、直立で待機しつつも涙を流す女中が二人。
もう一人いると聞いたが、見当たらない。
私はとりあえず犯人確保を優先した。
「失礼、女中の銃を撃った方は?」
私が三橋に問いかけた。
三橋は左の方だと指を指した。
背の低い方の女中か。
私は二階堂の体裁を保つために挨拶をする。
「はじめまして、
私は私立探偵の二階堂と申します。」
「待った!」
ドアを勢いよく開けて、誰かが私の挨拶をぶった斬った。
「この事件、
そもそも私が依頼を受けたものだ!」
袴姿の青年が、私を睨み付けて話す。
「警察の方々も、
何故私に情報をくださらない!?」
容疑者だからだよ。
警官め、説明しろ。
私は三橋に視線をふった。
「彼は探偵の十河殿。
ここの主人が呼んでいたそうでして。」
三橋に聞くより、本人に聞こう。
私は主人に声をかけた。
「失礼、ご主人。
詳しくお話を伺っても?」
頭を抱えていたご主人が顔を上げて話し出した。
「実は、娘の殺害予告が数日前にありました。
警察に相談しましたが、
起きていない事件には対応しきれない、と言われて。」
「三橋警部?」
「今対応した者を調べている。
警官らしからぬ対応なので、
見つけ次第懲戒の上、殺人幇助で捕まえる予定だ。」
なるほど。厳罰だ。
ただ、こういう場合は本人だけじゃなく、
管理職も罰を受けるのが筋だと思うが。
コイツ、本人に全部押し付けて逃げるつもりだ。
ボンクラながら、こういうことは一流だな。
「それで、
巷で話題の探偵である二階堂さん、
貴方に依頼をしたかったのですが。
昨日の怪盗騒ぎで依頼が間に合わず。
貴方に次ぐ腕前の探偵と名高い、
この十河探偵に依頼をいたしました。
話をするためにお呼びしたその時に、
こんなことが起きるなんて。」
私がその探偵を見やると、
怒り心頭と言った面持ちで私を見ている。
「お前の尻拭いの上に、容疑者扱いだ。
どうしてくれる?」
知らんがな。
私は二階堂じゃないし、
二階堂だとしても身体は一つしかないのだ。
二件の事件を掛け持ちはできない。
「大変申し訳ありませんが、
まず、自己紹介から。
はじめまして、
私は私立探偵二階堂と申します。」
「皮肉たっぷりにどうも。
私は探偵の十河と言う。」
四葉が私のそばで私を睨んでいるのがわかる。
二階堂もこれくらいの皮肉は言うぞ。
「ふん!
もういい!
私は犯人を見つけた!」
ほう。
正直、期待はできないが、
次の探偵役の選定の参考にさせてもらおう。
私は心の中でほくそ笑む。
「二階堂さん、
貴方が後から警察に呼ばれたことは承知している。
大変お気の毒だが、貴方に出番はない。」
是非、二階堂の役を取ってくれ。
私、ノーフェイスはそう願いつつも、
横でじわじわ殺気を放つ四葉を手を振ってなだめる。
「それはありがたいお話です。
私も、昨日の今日で正直ヘトヘトでして。
貴方が解決してくださるなら、
むしろ喜ばしい。」
皮肉も含めて笑顔で言った。
十河は鼻を鳴らして語りだす。
「あの時現場は、
娘さんのお部屋は本当にドアが閉まっていて開かなかった。
私とご主人と二人がかりでもびくともしなかった。
結局、女中さんのお陰で開いたが、
娘さんは既に……。」
現場にその時いたのならば、良い情報を得られる。
ただ、その時の混乱の最中でも、
冷静に執拗に情報を集められる胆力が必要不可欠だ。
正直、目の前の優男にそんなものが備わっているように見えない。
「しかし!
私は気がついた!
一発目の銃声についてだ!
あれは、娘さんのお部屋辺りで聞こえた。
一見、それが彼女の命を奪ったように思えたが、
それは違う!」
ほうほう。
なかなか、良い推理だ。
私は顔色を変えずに続きを聞く。
「実は、娘さんは銃声がするより以前に、
既に死んでいたんだ!」
新説だな。
聞くだけ聞こう。
「私が館を訪れるすこし前に、
既に娘さんは殺害されていた。
その犯行時刻をずらしてアリバイを作るため、
私が訪れた時に銃声を鳴らした。」
なるほど。
理屈はわかる。
「まず、娘さんの部屋を訪れた犯人が娘さんを殺害。
ドアを施錠し窓を内側から破って、
窓から外に出る。
そして、館に戻ってそ知らぬ顔で過ごし、
私がやってくる時間を見計らい空砲を娘さんの部屋のそばで発砲。
私とご主人に現場を目撃させた。
つまり、あの時私を玄関に迎えに来た女中さん。
貴女が犯人だ。」
コイツ、マジで言ってんの?
十河は格好を付けて女中の一人を指差している。
その推理、矛盾だらけだぞ?
思わず変装が解けそうになる。
周りを見ると、
三橋は感心して唸ってるし。
指を指された女中を睨む婦人と主人。
女中はあわてて否定している。
背の低い方の女中は、その女中から一歩離れた。
四葉、てめぇまで目を見開いて驚くなよ。
ど低能どもめっ。
お前ら全員、
手足切り落として三年私の私塾に軟禁してやろうやか!
四葉が私の服を引っ張る。
そして、小声で心配そうに言う。
「大丈夫か?
これでは先生が負けてしまうぞ。」
私はまた腹話術のように四葉に話す。
「お前ら、頭おかしいだろ。」
「は?」
「いいから、見てろ。」
私は襟をただして前に出た。




