第4話 カフェーのマスターも死にそう
カフェー・ピポポタマスのマスターは、
小太りの男だ。
私は彼についても調べ尽くしている。
彼は七瀬大輔。
初老の彼は妻を先の関東大震災で失くしており、
娘の二人と共にここ夕霧市に越してきた。
亡き妻の夢だった喫茶店を開業し、
親子三人で切り盛りしている。
今では国鉄の駅前と言う立地もあり、
待ち合わせ場所として大人気だ。
私は探偵二階堂として朝帰りし、
モーニングを断った。
そして、夕方に夕飯をいただきに来ている。
そもそも二階堂は料理はしない。
コーヒーを煎れるお湯を沸かすだけだ。
なので、彼は朝夕の二食をこの喫茶店で食べる。
「朝帰りとは。
本当にお疲れ様でした。」
マスターはそう言って二階堂を労う。
私は二階堂の格好をしただけだが、
怪盗として丸二日活動した挙げ句、
探偵二階堂に成りすまして今に至る。
あの事務所で変装を解くわけにもいかず、
ろくに眠れていない。
是非労ってもらいたい。
「今日は四葉ちゃん、どうかしたの?」
不機嫌そうに私の隣で食事をする四葉。
それを見て私に耳打ちするのは、
長女の七瀬ハツ。
利発な看板娘だ。
男勝りだが優しい姉御肌の彼女は、
とても女性客に人気がある。
「昨日は深夜に事件があったので、
彼女はお留守番をお願いしていました。」
「なるほど。
それでへそを曲げてしまったのね。」
本当は私がノーフェイスだから、
四葉の機嫌が悪いのだが。
私は二階堂の顔で困ったように笑う。
「プリンをサービスするよ。」
「ありがとうございます、キネさん。」
彼女は次女の七瀬キネ。
彼女は主にキッチンで料理を振る舞っている。
表に出る機会が少ないが、訪れる男性客に人気だ。
ハツとは異なり、
おっとりした物腰だが料理の腕はピカいち。
どうやら、三人には私の変装はバレていないらしい。
手早く食事を済ませて、私は四葉を連れて事務所へ戻った。
「獣よ。
その態度、なんとかしろ。
三人にバレてしまうだろう?」
「黙れ、ノーフェイス。
私がなにも言わなかっただけ感謝しろ。」
事務所には入るや否やこれである。
私は顔をいつものノーフェイスに変えて、
四葉をたしなめる。
「二階堂のためだろう?」
「糞が。」
まったく、コイツは。
本当に嫌いだ。
さっきこっそり共犯者に連絡した。
死体は問題なく回収したそうだ。
医療チームには既に診せており、死亡は確定。
蘇生は不可能だと言うことだ。
「とにかく、取り繕う努力はしろ。
今から私はここを離れる。」
「次の犯罪の準備か?」
「違う。
帰って休むに決まっているだろう。」
「その間、事務所はどうする?」
「夜に連絡してくるようなボンクラは、
三橋くらいなものだ。」
私がそう言った途端に、電話が鳴り出した。
私は舌打ちして二階堂の変装に戻る。
「こちら、二階堂探偵事務所。」
「二階堂君!
連日申し訳ないが、助けてほしい!」
このボンクラ警官どもめ。
道端でおい、こら、と威張り散らしているくせに、
てんで使えない奴らだ。
コイツらは給料の税金をなんだと思っているのか。
「三橋警部、落ち着いてください。」
二階堂の対応を心がけながら、
私は話を聞く。
「殺人事件だ!
それも、普通の人殺しではない!
君の力が必要なのだ!」
「かしこまりました。
すぐに向かいますので、住所を。」
私はボンクラの言う住所をメモにとった。
「そこなら、車で三十分もあれば。」
「わかった。
現場は可能な限り保存しておく。
急いできてくれ!」
私は受話器を置いた。
「ボンクラどもめ。
ありったけの貯金を全部納税して死ね。」
「先生はそんなことは言わない。」
四葉に睨まれたが、
私ももうヘトヘトなのだ。
「着いてくるか?」
「当たり前だ。
先生の評判を落とすようなことをしないか、
しっかり見張ってやる。」
私は四葉と事務所をでて、
DATに乗り込んだ。
助手席に四葉が乗り込んだ。
「偽探偵の初仕事だ。
まったくもって、面倒だ。」
「先生はそんなことは言わない。
お前こそ取り繕え、ノーフェイス。」
本当に嫌いだ、コイツ。
メモの住所へ向かって車を走らせる。
時刻は夜。
帰路に着く人で道は賑わっている。
私は舌打ちして脇道を使う。
少し早く現場に到着できた。
「先生は、車でも舌打ちはしないぞ。」
「している。
お前は二階堂を美化しすぎだ。
ほら、行くぞ。
今度は態度を取り繕えよ?」
盛大に舌打ちする四葉。
本当に大丈夫か、コイツ。
大きなため息を着いて、
私は車を降りた。
顔も態度も、
探偵二階堂として現場に向かう。




