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第30話 殺し文句

■ノーフェイスサイド


 俺は吸い終えた葉巻を身体の脇に向ける。

そして、いつの間にかそこに控えている執事が持った灰皿に、

葉巻の火種を押し付けた。


「素晴らしい推理だな。

だが、

一つだけ失念しているぞ、探偵君。

いや、意図的に無視したな?」


 俺の一言で泣き顔の四葉は振り向いた。


「……わかってる。」


 震える声で搾り出した応えは、

さっきまでの『探偵』ではなく。

数日前事務所にいた『少女』だった。


「すぅ……。はぁ。

偽物。いや、二階堂明。

犯人はお前だ。

 先日の怪盗騒動に紛れて、

五十嵐と共謀し、

先生を工事現場の足場で下敷きにして殺した。

さらに、教団について調べていた千田さんも、

お前らが殺したな。」

「……え?!

待って!

ちょっと待ってください!

それじゃあ!」


 柳明が飛び上がって声を上げた。

やっぱり、

柳明もなかなかに見どころのあるヤツだ。


「そ、それじゃあ!

あの夜私と話をして、殺人事件を解決したときには!

二階堂さんは……!」

「そうです。

あの夜会で百里兄妹と会って話をして。

あの事件を解決したのは先生じゃありません。」


 神妙な顔の柳明と違い、

いかにも不服と言う顔で四葉は続ける。


「あの時、あの場で二階堂明としていたのは。

そこの変態怪盗です。

 洋館の娘さんの殺人事件と、

千田さんの殺害現場での推理も。」


 その場の全員が俺を見る。

俺は胸を張り、笑う。


「俺の変装だ。

『私だと気付けませんでしたかな?』」


 わざわざ最後の一言だけ二階堂の声で応える。

周囲が騒然となったが、

四葉だけは冷えた目で俺を見つめている。


「私は変態の変装に気付いてました。

あの夜、事務所へ帰ってきたのは先生じゃなかった。

その変態でした。

 それで、事情を聴いて一時休戦。

手を組んで先生を殺した犯人を探していました。」


 なるほど。

そう来たか。

四葉の話は本当の約束とは異なるが、

結果的には間違いではない。

俺は四葉のこの話に乗ることにした。


「天才で優秀な頭脳の持ち主は、

この世に雀の涙ほどしかいない。

 俺からすればいささか役不足だが、

良い配役だったろ?」

「まぁ、結局最後はその犯人に拉致されて死にかけた。

間抜け変態ですが。」

「殴るぞ、さすがに俺でも。」


 四葉は暴言を再開させた。

本当に腹が立つ。

 周囲をいちべつすると、

柳明が肩を落としていた。

その隣では口が開いて閉じられない、と言う感じの蓮。

三橋は唸りながら禿頭をかきむしっている。 


「そして、

この数日は私とコレで事件を解決させてしのいでいました。」

「手柄は横取りか。

横で突っ立てれば? 傀儡?

自分が実際やってたから分かったんだろ、四葉。」

「ノーフェイス。

お前、正体バレたけど、いいのか?」


 突然話をすり替えたので、俺は四葉の顔を覗き込んでにらむ。

四葉の顔はしれーっとした顔だった。

腹が立つ。


「そもそも、

俺に正体は、ない。

俺はノーフェイス。

怪盗だ。

これが、これこそが俺自身。

 大森零次が、仮の姿。

そもそも、大森の戸籍だって金で買ったしな。」

「……なんか、そんな気がしてた。

でも、それだと互いに交わしていた契約が破綻する。

どうする?」


 ここもさっき同様、

いくらか言い換えておくべきだな。


「あれか?

お前が俺を今回だけ見逃す、と言うのか?」

「さすがに、私以外にもバレた今。

おいそれと見逃せないからな。」

「なるほど、なるほど。

確かに。

 だが、その契約。

見返りに俺がお前に教団から逃げる手はずをつける、

と言うのも破綻している。」


 本当は四葉の死を偽装して別人として遠くへ逃がす、だが。

これくらいの言い換えは許されるだろう。


「あー。

そうだな。

お互い契約が破綻している。

 なら、こうしようか。」


 四葉は俺すら見えない速度で俺の両手に手枷をかけた。


「は?!」

「お前の部屋から飛んできてたみたいでな。

さっき拾った。

 今から十秒待ってやる。

十秒後にはお前を捕まえる。

手加減なし。全力だ。

 手枷は、あれだ。

新米探偵の私への就任祝いだ。」


 ふざけんなよ、四葉め。


「コイツ……!」

「はい、じゅーう!」


 風呂に浸かる子供のように数を数え出す四葉。

俺は舌打ちをして、

思い付いた中で一番の罵詈雑言をぶつけた。


「舐めるなよ!」


 不意を突かれて出遅れたが、

二秒で手枷をはずし、全速力で駆け出した。


「ろーく!」


 六秒。

四葉の身体能力なら、一足飛びで崖の外だ。

だから、俺は。


「そっち!

崖!」


 百里蓮がそう叫ぶ。

だが、俺は構うことなく走り続ける。


「さぁーん!」


 崖の下を覗くとヘリの破片やアジトの燃えかすが波に揺れている。

だが、ここは私のテリトリー。

崖の起伏も海の深さも熟知している。


「ほれ。捕まえた。」


 今度は俺の足に枷が付いた。

早すぎだ、馬鹿者。

しかし、。


「いや、逃げきった!」


 俺は枷が付いたまま崖から飛び降りた。

驚いた顔の四葉たちを見ながら、

俺は崖へと落ちていく。


「使用人ども! 仕事だ!」


 俺がそう叫び、うまく海に着水した。

ちゃんとフォームを守れば十数メートルなら、

苦もなく着水できる。

五点接地と同じだ。

 波間から顔を出すと、

さっき崖の上から覗き込んだときには居なかったボートがいる。

執事と女中だ。


「良い仕事だ!」

「ありがたきお言葉。」

「報酬は何が良い?

大抵のものは用意してやろう!」

「そうですね。

以降の『お遊び』に、

我々もお誘いただけましたら。」


 しれっと執事はそう言った。

俺はボートに乗り込みながら笑う。


「はっ!

良いだろう!

新たな共犯者として頼らせてもらうぞ!」


 ボートから崖を見上げた。

すると、四葉たちが俺を見下ろしている。


「そうだ!

言い忘れていた!

『さらばだ!

探偵君!』

ふはははは!」


 俺はそう言い残して、ボートに揺られて逃げきった。

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