表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/33

第29話 殺したのは誰か

 成り変わる。

一言でそう言っても、

良いことと悪いことがある。

 そもそも、見た目は双子で似ていたとしても、

癖や仕草、匂いは変わらない。

ノーフェイスのように変装を特技としていても、

匂いは変わらず四葉が気付くほどだ。

飼い犬等がいればバレるのは確実。


「そんな無理をしてでも、

先生はお前と成り変わった。

お前の偽物として。」


 四葉が話を続けるが、

その言葉が偽二階堂の耳に届いているか分からない。

偽二階堂は渋面をさらに絞ったみたいな顔で唸る。


「だってな、

手間もひまもかかるんだ。

成り変わりなんて大事をこなすのは。

 私のように助手としてお前の横にいれば、

それこそ百里さんたちみたいに兄弟探偵でも良かったんだよ。

むしろ、その方が先生の受ける利益が大きい。」


 自由を求めて、羨んで、と言う動機だけでは、

成り変わる選択はしない。

そんなことをする人間は、

そんな自分の負担が大きくなることはしない。


「お前の横でしたり顔でお前の手柄を横取りすればいいんだよ。

お前、先生に逆らえないとか言ってたしな。

傀儡、とか言うヤツだ。

どっかの王様とか政治家とかでもあるだろ?」


 四葉の推理がさえわたる。


「でも、先生はお前に成り変わった。

『お前の身代わりになるため』。」


 四葉の一言で、

爆ぜるように偽二階堂は声を上げた。


「ありえない!

ありえない! ありえない!

 あいつは!

私を奪った! 私の全てを!

存在も何もかも!」

「そうだとも。

お前を助けるために先生は、奪ったんだ。

お前のそれらは、多分、早々に教団にバレてたんだよ。

お前は泳がされていたんだ。」


 次の瞬間、四葉は虫を捕らえるように、

両手の平を上下から素早く合わせて何かを受け止めた。

その後に、周囲に銃声が響く。


「誰だ?!

警戒態勢!」


 三橋の即座の指示に従い、

警官隊は盾を構えて四葉たちを囲う。

 四葉は合わせた手を開くと、

中には血に濡れた弾丸があった。


「狙撃だ!

銃声が遅れてきたから、かなりの長距離だ!

 全員、盾をもて!

半分はここを守れ!

半分は散開して狙撃手をさがせ!」

「三橋警部。

着弾より銃声が遅い場合、

十キロ位くらい離れた所からの狙撃だと思われます。」


 四葉は弾丸を三橋の手に渡しながらそう言った。

弾丸の軌道は、確実に偽二階堂の眉間を狙っていた。


「四葉女史の手当てを!」

「三橋警部、落ち着いて。

手の皮がむけただけですよ。

こんなもので私は死ねません。

 それより、偽物。

見ただろ?

これもどれも、

お前行動は教団に筒抜けだった。

今、お前を始末しそこねて慌ててるだろうな。」


 愕然とする偽二階堂に、

あっけらかんと言い放つ四葉。


「あの方向には、鉄塔がある。

警官ども、行け。」


 ノーフェイスはそう言うと、

三橋の手の弾丸を拾って見つめる。


「海外製だな。

実に珍しい。

確か、五十嵐のとこで扱ってたものだ。

違うか?」


 ノーフェイスはそう言って五十嵐の顔を覗き込んだ。


「知らない!

そんな指示はしていない!」

「なら、もう教団はお前の手を離れたんだな。

厄介なことをしてくれたもんだ。」


 ノーフェイスの言葉を聞いた三橋の顔が歪む。


「まさか……。」

「おぉ。

ポンコツ警官でも、察したか。

 そうだ。

既にあの教団は五十嵐の手を離れて、

この銃弾の生産国と手を組んだんだろう。」


 言葉を失う五十嵐と忌々しげに唸る三橋。

四葉は自分のハンカチを二つに引き裂いて、

両手に巻いて話し出す。


「推理を続けよう。

ノーフェイス、

その辺にいる執事さんに警戒をしてくれるよう伝えろ。」

「言わんくても、既にしてるだろう。

アレは有能だ。」


 ノーフェイスは手の平を上にして手を前に差し出した。

その手の平の上には葉巻があった。

すると、いつの間にか火の付いた状態の葉巻にすり変わった。

ノーフェイスは、それをくわえて笑う。


「ほら見ろ、有能だ。」

「いつの間に五十嵐の懐から葉巻なんてすりやがったんだ。

お前、普段吸わんだろ?

葉巻の匂いなんて、お前からしないぞ。」

「今は吸いたい気分だからな。

良いではないか。

少なくとも吸い終えるまで俺は逃げんよ。

続けたまえ、『探偵君』。」


 四葉はノーフェイスのその一言で笑う。


「では、続けよう。

偽物は特に話を聞くように。」


 放心する五十嵐と、周囲に指示を出す三橋。

偽二階堂はうつむいて何も言わなくなった。


「お前は結局、先生の意図に気付かなかった。

いや、お前を守るためだと直接言われたとて、

信じようとしなかった。

違うか?」


 偽二階堂は何も言わない。

身じろぎすらしない。

それでも、四葉は話を続ける。


「そして、お前は教団と手を組んだ。

お前が自ら教団に打診したつもりだったんだろうが、

全部教団に誘導されていたんだろうな。」

「……待て。

じゃ、何か?

アイツは、私を助けるために成り変わった。

 そうだと仮定して、四葉。

教団を摘発してお前を助けた後も成り変わっていたのは何故だ?」


 偽二階堂は呟くような小さな声で言う。


「単純に、先生は私を助けた時に気付いたんだよ。

あれでは、教団を完全に潰せなかった。

 事実、コイツらは今もこうして凶行を繰り返してるしな。

完全に教団を叩き潰せたら、

先生は多分お前に全てを返す予定だった。

 推測だが、確実に先生は死ぬつもりだった。

刷り込みだか、洗脳だかわからんが。

偽物のお前は先生に逆らえないから。

先生が死ぬまでお前は安心できないから。

最後に先生は、自ら命を絶つつもりだったんだろう。」


 四葉はため息混じりに言う。


「だが、お前はその前に先生を殺した。

先生は、どこかでお前の企みに気付いたのかもしれないが。

お前は教団と手を組み、

先生を裏切って殺した。」


 神妙な面持ちで、四葉はノーフェイスを見る。


「偽物、お前ノーフェイスのことを知ってたんだろ?

怪盗事件を大きくするのに、一役買ってたんだろ?

 じゃぁ、知ってるか?

先生、ノーフェイスの依頼が来たら楽しそうにするだ。

嬉しそうにするんだ。

まるで、友達に会いに行くように。

『だから、私はノーフェイスが大嫌いだった』。」


 ノーフェイスが眉間にシワを寄せるが、

四葉は構わず続ける。


「ド変態だが、先生並みに頭が良い。

行動力もあって、

身体能力も高い。

 しかも、盛大に暴れて、

名乗りすら派手に上げて。

はた迷惑なことこの上ない、

超弩級の変態犯罪者だが。

 先生はノーフェイス、

お前の犯行を楽しみにしていた。

私が活動写真を見に行くように。

ノーフェイスの犯行予告があったと聞いた途端に、

ウキウキ浮かれて現場に向かうんだ。」


 偽二階堂は四葉を見上げた。

四葉は顔をくしゃくしゃにして話続ける。


 「先生はノーフェイス、

お前に憧れていたんだろうなぁ。

誰かのためでなく、

自分のためにその才能を遺憾なく発揮して。

手段も選ばず、

正々堂々と予告までして財貨を盗む。

 多分先生は、本当は怪盗になりたかったんだ。

探偵じゃない。

偽物、

先生はお前になんて成り変わりたくなかったんだよ。」


 四葉は涙を流して続ける。


「先生は死んだ。

ノーフェイス、

お前を追いかけてて死んだ。

 多分、先生は自ら死を選んだ。

お前との推理合戦。

お前との逃走劇。

それらは先生の、探偵の仕事でもあるが。

やっぱり楽しかったんだよ。

 このまま、このときが続けばと思うくらい。

きっと楽しかったんだよ、先生は。

 守りたかった人の裏切りも企みも、全てを悟り。

先生は、それらを受け入れて。

先生は、自分が一番楽しいと思える瞬間に死んだ。」


 四葉は声を震わせながら、

偽二階堂を見つめる。


「死ぬことで今までの成り変わりが、

全部徒労に終わっても!

全部無駄だったとしても!

『それでも大丈夫だ』と!

納得して死んだんだよ! 先生は!」


 誰かに対してではない。

四葉は己に向かって叫ぶ。


「私が! 探偵となり、お前を! 

偽物を止めることも!

先生は予想していた!

 今こうして! 

私が! お前を追い詰めることも!

だから、死んだ!

安心して! 一番楽しい瞬間に!

先生は、自ら死んだ!」


 四葉は赤ん坊の泣き声のように叫ぶ。


「それより何より!

『私』が! いたから!

助手の! 私がいたせいで!

先生は死ぬしかなかった!

 お前が!

偽物が事務所に戻ってきたら、

先生じゃないと私はわかるから……。

 だから、先生を殺したのは、

『私でもある』!」


 変装しようがどうしようが、

四葉はノーフェイスの時のように見抜いてしまう。

偽二階堂の戻る場所は、もうあの事務所になかった。

 例え教団を壊滅させて、

先生が死んだとしても二階堂明は戻れない。

 四葉の嗚咽混じりの推理を裏付けるものはもうない。

死人にくちなし。

状況証拠と証言だけのものだ。

 だが、だから、

四葉は自分で推理しなければならなかった。

助手としてそばに立ち。

次の探偵として託された限り。

ノーフェイスの変装じゃダメだった。

四葉は四葉の意思で、探偵として、

推理しなければならなかった。


「なんだよ。

なんなんだよ。」


 偽二階堂はそう呟いて、涙を流した。

希望的観測も多く含まれるが、

状況証拠で出せる最大で最良の『推理』だった。

 四葉のそれを聞いたノーフェイスは、

頭を抱えて。

でも、笑う。

 二人の探偵のためにも、

怪盗は不適に笑う必要があると思ったから。

だから、ノーフェイスは笑う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ