第28話 全てを知る者は死んでいる
四葉は努めて冷静に。
だが、目の前の光景にいくらかの違和感を感じながら、
話を続けた。
「落ち着け、偽物。
簡易な手当てはしてやる。」
四葉が辺りを見回すと、
追加の警官隊が三橋たちのいる辺りに向かって行った。
「銃声が止んだ。
あっちもケリが付いたみたいだ。
行くぞ。」
四葉はそう言いながら、
偽二階堂の襟を引っ付かんで鞄のように持ち上げた。
「ノーフェイス。
もう少し付き合え。」
「かわまんよ。
無理矢理乗せられた船とはいえ、
乗りかかった限りは顛末まで付き合おう。」
ノーフェイスと四葉が警官隊のいた辺りに向かって歩く。
歩幅は違うが、速度は同じ。
向きは同じでも、道は異なる。
「三橋警部!
無事ですか?」
四葉がそう叫びながら、
警官隊へ向かって手を振る。
「おぉ。
なんとかな。
追加の部隊が来る前にケリが付いた。
そっちの車の方のお陰だ。
礼を言う。」
「いいえ。
私はしがない探偵です。
警察の方にお礼をいただけるなんて、
身に余る。」
廃車と呼んで差し支えないほどボロボロの車のそばで、
地面にへたり込んだ柳明はそう言った。
すると、少し遠くから喧騒が近づいてきた。
「追加の部隊が来たみたいですね。
主犯を捉えました。
救急隊も来てくれたみたいですね。
死なないように手当てをしてもらいましょう。」
四葉は手際よく、
荷物のように偽二階堂を運んで手配をかける。
「手当てしながらで良い。
私の推理を聞け、偽物。」
偽二階堂は四葉ではなく、
ノーフェイスを睨んだ。
「おっと。
そっちの変態はなにもしてない。
変な勘繰りは止めて、私を見ろ。」
四葉はそう言って、
ノーフェイスと偽二階堂の間に入る。
「そもそも、
その怪盗無勢が二階堂を見捨てなかったのが、
全ての元凶だ。
四葉、お前が奮起するなんて、
予想外だった。
主体性のないお前は私の変装でどうにでもなる予定だった。」
「主体性がない、か。
確かに、以前の私はそうだった。
どっかの変態のせいで、
主体性のなんたるかを見せられた。
だから、私は私の意思で探偵になることにした。
感謝はしてない。
恨んでるが、
偽物のお前よりは見所のある変態だ。」
四葉の悪態は変わらないが、
ノーフェイスを一定程度評価している。
「さて、話を聞けよ。
お前は。
いや、私の推理だと『お前と先生は』、
すれ違って今まで来てしまった。」
偽二階堂は、眉間のシワを深める。
「意味がわからない。」
「そう言うだろうな、
偽物のお前は。」
四葉は残念そうに話し始めた。
「発端は、お前と先生が別れた所だ。
お前の話だと、
お前はお前たちの村から一人で逃げ出した。
でも、それでは帳尻が合わない。
そんなことで、
『先生がお前を追いかける理由』に足りない。」
四葉はそう言いきった。
「先生がいないから、
推測だがな。
先生がお前を追いかけるなら、
それはきっと『お前に危険が迫ってたから』だ。」
偽二階堂は四葉を睨む。
「そんなもの、
私の自由を羨んで……。」
「お前の言う通りだと、
お前と違って先生は村で大切にされてたみたいだが。
違うのか?」
偽二階堂は吐きかけた言葉を飲み込み、
思案顔で絞り出す。
「……あぁ。
かなり大切にされてた。」
「なら、何故逃げたお前を追う?
帳尻が合わないんだよ。
先生が、それでも自由がほしいなら、
『お前を探す意味がないんだ』。
村から逃げてしまえば、
終わる。それで良い。
だけど、
『先生はお前を探して訪ねた』。」
四葉は三橋に五十嵐を連れてくるようお願いをした。
三橋は快諾し、
手錠をされ憔悴しきった五十嵐を連れてきた。
「五十嵐。
お前には聞かなきゃならないことがある。」
四葉はその小さな拳を鳴らして、
五十嵐の前に立った。
五十嵐は悲鳴を上げて、平伏する。
「なんでも言う!
助けてくれ!」
「……この教団は、いつ頃作った?」
警官隊に引っ立てられている五十嵐の警備員たちを指差して、
四葉は言う。
「……大体、十八年前くらいだ。」
「一からお前が創設した訳じゃないな?」
「……あぁ。
とある村の地域信仰だった。
それに金を出す代わりに、口を出す契約だ。」
四葉は深く息を吸って、
ため息を付くように言う。
「その村は、伊豆のどこかの島の村か?」
「あぁ。知っていたのか?」
五十嵐はあっさり肯定した。
しかし、四葉の言葉に、
偽二階堂が激しく反応する。
「何故その村を?!」
「昔、先生に聞いたことがある。
先生の生まれ故郷について。
何もない島でした、って言ってたよ。
何にもなくないみたいだけど。」
四葉の言葉に、
ノーフェイスは頷いて笑う。
「見えてきた。
お前ら、昔から関係してたのか。
四葉、二階堂、偽物、五十嵐。」
四葉は苦笑いして補足する。
「推理だと言ったろ。
裏取りがまだだ。」
四葉は改めて、偽二階堂と五十嵐を眺めて話し出した。
「先生の故郷に五十嵐が出資して、
教団ができたのが十八年前。
教団の活動が活発になったのが、
十五年前。
そして、偽物が村から逃げたのが十年くらい前。
すると、先生が偽物を訪ねて来たのは、
少なくとも私を助けた時より前。
五、六年位前として。」
四葉は忌々しげに自分の身体を眺める。
「教団の活動目的は、
私のような『人を越えた存在を作ること』。
そして、五十嵐は『その超人を兵器にして売ること』。
それで言うなら、
先生と偽物は知力特化。
私が身体能力特化の超人として設計された。
双子が禁忌なのは、
その設計が狂うからだ。」
四葉は偽二階堂を眺めてそう言った。
ノーフェイスは顎を撫でつつ。
「なるほど、なるほど。
それなら、
田舎の村で双子の女児の方を男の身体に近づける手術、
なんてとんでもないことが出来た理由になる。
性転換や人体改造なんて、
机上の空論を実践した狂人集団が二つもいるなんて思えんしな。」
偽二階堂はノーフェイスを睨んだが、
ノーフェイスはどこ吹く風と言った調子だ。
「それだけじゃないぞ、変態。
日本中から子供をさらって来る。
そして、その子供を調べて、
穀物や花の様に『掛け合わせて』、
産まれた子供を実験台にする。
言葉にするのもおぞましい、
そんな所業は金と狂人が上手く掛け合わないとできない。」
四葉は唾を吐き捨てるように言った。
「推測だが。
五十嵐から資金提供があり、
作られた第一世代が先生とコイツ。
それがかなり上手く行ったんだ。
先生もコイツも頭が良い。
多分、研究者として育てようとしたんだろうな。
次の世代の研究が捗るように、
いろんな知識を詰め込んで。
だが、逃げ出した。
設計より二人の頭が良すぎたんだ。」
四葉は頭をかきながらつづける。
「先生も多分、
コイツが知らないだけでほぼ同時期にあの村から逃げてた。
そのときは二人別々に隠れてた。
そして、
先生は故郷の村がとんでもないことをしていたのに気付いた。」
四葉は五十嵐を睨む。
「村の風習じゃない。
金も人もある狂った反政府思想の宗教団体。
先生はお前の身を案じた。
自分の身の安全も、
何をおいてもお前をだ。」
「……何故言いきる?」
偽二階堂は四葉に問う。
四葉はそれを聞いて鼻で笑った。
「お前、天才なんだろ?
先生より頭が良いくせに、
そんなこともわからないのか?」
「……煽り方がどこかの怪盗じみてきたな。」
「言うな。
自覚はある。」
四葉は自分の額を軽く叩いて気を取り直す。
「誰でもわかるさ。
だって、
先生は、『わざわざお前になり変わっているんだから』。」
その一言で、
偽二階堂は辛酸を舐めた様に顔をしかめる。




