第27話 死活問題
打つ手がなくなったのか、
偽物の二階堂がたじろぐ。
「三流探偵、もう手詰まりか?
そんなことで、
天才怪盗の俺と対峙しようとしていたのか?
愚かすぎて笑う気も失せるな。」
「偽物は、偽物。
どれだけ先生の真似をしても、
その程度だ。
先生の助手だった私が先生を継ぐんだ。
お前には牢屋がお似合いだ、偽物。」
気を取り直した四葉とノーフェイスに詰め寄られ、
唇を噛む偽二階堂。
「うるさい!
お前ら、何もわかっていない!
何も知りもしないで!
私が偽物!?
ふざけるな!」
とうとう声も取り繕わず、
大声で叫ぶ偽二階堂。
「私が二階堂だ!
私の事務所だ!
私が探偵だ!
後からのこのこやって来た偽物こそ、
あの男だ!
今度は奪わせない!
今度こそ取り戻す!
私は! 私を! 取り戻す!」
偽二階堂はそう叫んで懐からなにかを取り出した。
それは小型の無線機だ。
「やれ!」
偽二階堂は無線機に向かってそう叫んだ。
すると、猛スピードで空からなにか近づいてくる。
ヘリコプターだ。
「梯子を寄越せ!
早く!」
ヘリコプターにはノーフェイスの格好をした男がいて、
それが縄ばしごを下ろした。
「させるものか!」
四葉が偽二階堂へ向かって駆け出したが、
ヘリコプターから銃弾が降ってきた。
ヘリにもう一人ノーフェイスの格好をした男がいて、
それが銃をこちらに向けて構えている。
「俺の偽物まで用意していたのか!
不愉快きわまりない!」
ノーフェイスは四葉に駆け寄って、
マントを外した。
「四葉!
俺を投げろ!
あのヘリへ投げろ!」
「どうなっても知らんぞ、変態怪盗!」
「そうだ!
手加減はいらんぞ!
思いきり投げろ!」
ノーフェイスがその場でジャンプすると、
四葉がすかさずその下に潜り込み、
全身のリミッターを外した。
「吹き飛べぇ!」
そう叫んで四葉はノーフェイスの足の裏を手で捉え、
ヘリへ向かって突き上げた。
砲弾のように飛ばされたノーフェイスは、ヘリへ向かってなにかを投げる。
自分の身体と二階堂の死体をくくっていたロープだ。
投げ縄の要領で先を縛って玉になっていたロープが、
見事にヘリの機体に巻き付いた。
そして、ノーフェイスの身体はヘリにぶら下がり、
振り子のように大きく振れる。
その勢いでヘリが姿勢を崩す。
「もう一丁!」
そう言って四葉は落ちていた石をヘリへ投げつけた。
弾丸の速度で投げつけられた石はヘリの運転席のガラスを木っ端微塵に砕いて、
運転手を強打する。
完全に姿勢を制御できなくなったヘリ。
ノーフェイスはロープを手放して地面へ落ちる。
「一日に二度も落ちるのは、堪えるな!」
そう言いつつも、
ノーフェイスは五点接地して地面を転がり衝撃を分散させる。
それでも、かなりの衝撃だ。
ノーフェイスは肩で息をして、その場に座り込んだ。
「ほれ!
乗って見せろ、三流探偵!」
ヘリは、海へ向かって墜ちていった。
四人には爆音と水しぶきだけ確認できた。
恐らくヘリは墜落したようだ。
しかし、偽二階堂は諦めない。
偽二階堂は崖とは反対側へ向かって駆け出した。
だが、ノーフェイスも四葉も追いかける素振りがない。
蓮が慌てて叫ぶ。
「逃げる!
逃げるって、偽物!」
「蓮さん。
大丈夫ですよ、あっちは。」
「そうそう。
『崖から離れようとした者は捕らえる』んだよな。」
疾走する偽二階堂の目の前に、
コマ落ちした活動写真のように突然人が現れる。
一人じゃない。
五人の女給が両手に小銃を持って立っていた。
「警告いたします。
それ以上こちらへ近寄ってこられた場合、
発砲いたします。」
一斉に銃を構える女給たち。
その姿は見事の一言。
しかし、偽二階堂は止まらない。
「それくらい想定どおりだ!」
そう言って懐から何かを取り出した。
刹那の瞬間、閃光が辺りを包み何も見えなくなる。
どうやら偽二階堂は閃光玉のようなものを取り出したようだ。
それと同時に偽二階堂はその場から飛び退いて、
進行方向を変えた。
だが。
「は?」
偽二階堂の両肩、両腿、両膝がほぼ同時に撃ち抜かれた。
「目が見えない程度で、
ご主人様の敵を見逃すとでも?」
冷ややかな女給の声が響く。
偽二階堂は防弾チョッキを着ていた。
だが、手足は剥き出しだった。
彼女は走っていた勢いそのまま地面に突っ込む。
女給たちは硝煙立ち上る銃を構えて、
淡々と口を開く。
「そのままでも失血で約十五分。
動くなら一秒もなく、死亡していただきます。」
そこに、四葉たちが歩いて近寄ってきた。
「ありがとうございます、女給さん。」
「いいえ。
四葉様、後はお任せいたしても?」
「えぇ。
他に逃げるような者がいたら、
この人と同じように捕らえて下さい。」
女給たちは深々とお辞儀をし、
また消え去る。
四葉は、地面に倒れた偽二階堂を仰向けに転がした。
「おい、偽物。
お前の話はノーフェイスから聞いた。
それでも、お前は偽物だ。」
四葉を睨み付ける偽二階堂。
四葉は話を続ける。
「手当てしてほしいか?」
「うるさい!
私が!
私こそが探偵、二階堂明だ!
私が! 私だけが!」
四葉は偽二階堂の顔すれすれを思いきり踏みつける。
鉄の塊が地面に落ちたような音がした。
偽二階堂もさすがに冷や汗を流し、黙りこくる。
「私は死にたいのか?
と聞いている。」
ノーフェイスが二人のそばに歩み寄る。
「四葉、その辺にしておけ。
どうせ、
コイツを生かしても録なことがないのは目に見えてる。
私が殺そう。」
「ノーフェイス。
少し黙ってろ。
私がコイツに話があるんだ。
勝手に死んでもらうわけにはいかない。」
四葉は偽二階堂の目をまっすぐ見て言う。
「お前は、本当に探偵、二階堂明なら、
何故事務所に一度も来なかった?
私があそこに来てから、一度もお前は来なかった。
それ以前に、
『私を助けてくれたのはお前じゃなかった』。」
四葉は冷酷に続ける。
「お前は、先生の様に現場に出たことはあるか?
命の危険もある。
情報が錯綜し、人が壊れて狂って。
混沌とした所だ。
先生はその中でも、
冷静に情報を集めて推理していた。
犯人にすら寄り添い、心を砕いた。
お前に相談することもあったのかもしれないが、
先生が推理していたことは間違いない。」
四葉の脳裏に浮かぶのは、
何時も誰かのために働く先生の、二階堂の姿だ。
「お前が本当に探偵なら、
答えて見せろ。
私があそこに、あの研究室に入れられて、
実験台にされたことを知りながら、
あの教団に協力することの意味を。
合理的か?
それとも、好都合か?
お前が何を考えていたのか知らないが、
私は知っている。」
四葉は横にいるノーフェイスの顔をチラリと見てから、
偽二階堂に視線を落とす。
「探偵は『誰かのために』、
『誰かの依頼を受けて』活動する。
『自分のために』、『自分の力を』。
しかも、
『他人の心身、財産を害する行動も厭わず』するのは、
犯罪者だ。
……お前は、少なくともこの事件を通して見れば、
探偵ではない。
ほら、そこで見ている怪盗ノーフェイスと同じ。
犯罪者だ。」
ノーフェイスは複雑な顔をして、
四葉の言葉を引き継いだ。
「俺は怪盗、ノーフェイス。
犯罪者だ。
胸を張ってそう言う。
でも、お前は自分を探偵だと言う。
なら、俺はそれを全力で否定しよう。
お前みたいなヤツは、
私の好敵手リストにすら載らん。
やり口はエレガントとは言えないが、
お前のしでかしたことは間違いなく犯罪だ。
俺が保証しよう。
お前が否定しても、な。」
偽二階堂は顔を怒りで赤く歪め、
鬼のような顔で叫ぶ。
「黙れ!
私は! 私は私を取り戻す!」




