第26話 最高潮の盛り上りで死にそう
□時を戻そう
苛烈に攻め立てる四葉と、
嫌らしいタイミングで殴りかかるノーフェイスの連携は見事の一言。
だが。
「ド変態ここに極まれりだな!
ねちねちねちねち、
しつこいったらありゃしないぞ。
変態怪盗!」
「まっすぐに進んで、
同じように殴るだけ。
ニワトリの方がいくらか頭が良いんじゃないか?
もっと工夫をしろよ、野獣めが!」
二人の口はお互いをけなし合う。
そんな彼らに翻弄されるのは、偽物の二階堂。
二人を忌々しげににらむが、
猛攻から逃げることで精一杯だ。
「ノーフェイス、そこの林に追いたてろ!
狭い方がやりやすい!」
「ド阿呆!
狭い方が逃げられるわ!
広いほうへ追いやれ!」
攻め手の二人連携がとれているようでとれていないため、
先が読みづらく偽二階堂がさらに苦戦を強いられる。
警官と五十嵐の警備員たちの銃撃戦も過激になってきた。
五十嵐の警備員はとうとう手榴弾を取り出して、
警官たちへ投げる。
三橋はその手榴弾をサーベルで打ち返し、
五十嵐の警備員が数人吹き飛んだ。
「千田も貴様らの仕業か!
絶対に許さんぞ!
友の仇!」
はげ上がった頭を真っ赤にした三橋と、
怒気を露にしている警官たち。
例の教団について調べていた千田が死んだのが今朝。
鮮度抜群の怒りを込めて、
五十嵐たちを追い詰める。
「十分もすれば、応援が来る!
誰一人として逃がすな!」
三橋が号令をかけると、
警官たちは声を張り上げて攻勢を強める。
そこに、車が突っ込んできた。
「遅れました! 四葉さん!」
百里兄妹の兄、柳明が運転席に。
妹の蓮が助手席に座るオートモ号が四葉に向かって走って行く。
この車はオープンカー。
蓮は鮮やかな動きで走る車の助手席から飛び下り、
四葉に駆け寄った。
「蓮さん!
その人は二階堂先生の偽物です!
ノーフェイスの変態はおいといて、
そっちを先に捕まえてください!」
「わかりました!」
公にはしていないが、蓮はカンフーの達人。
彼女は大暴れする四葉とノーフェイスの動きに難なく合わせて、
攻撃に加わった。
偽二階堂はさらに劣勢に追い詰められる。
柳明はそのまま車で五十嵐の警備員たちに突っ込んでいった。
「三橋警部!
助太刀いたします!」
「助かる!」
車を片手で操作しながら、
柳明も懐から銃を取り出して撃つ。
走行する車上だが、柳明は外さない。
五十嵐の警備員たちが、一気に劣性に陥る。
「な、なんなんだこれは!?
くそっ!
何が完璧な計画だ!
どうしてくれる!?」
口から唾を飛ばし、撒き散らしてわめく五十嵐。
顔を赤くしたり青くしたりとせわしない。
偽二階堂は声を絞り出した。
「ば、爆弾はもうひとつある!
もうひとつは、カフェー·ヒポポタマスにしかけた!」
その一言で四葉の動きが鈍る。
だが、それに反してノーフェイスの動きはよくなった。
「ハッハッハッ!
そう言うのは善人にする脅しだ!
俺にはなんの意味もないぞ!」
「四葉!
ノーフェイスを止めろ!
じゃないと、カフェーを爆破する!」
「そちらについては、私から。」
いつのまにか四葉のそばに立っていた執事服の男がそう言った。
彼は大森家の執事だ。
「先ほど、
我々どもでそちらカフェーの爆弾は処理させていただきました。
四葉様、ご存分に暴れてください。」
「え……?」
動きを止めて、言葉を失う一同。
四葉はノーフェイスを見た。
「いや、俺、知らんて!
怖っ!」
ノーフェイスはそう叫び、
両手を突き出し手のひらを左右に降る。
「我々どもの主、
大森様より四葉様には『全面的に協力をせよ』とのご指示を、
数日前よりいただいておりました。
身辺調査など『下準備』を既に終えておりましたので。
爆弾の隠し場所、
『カフェーのキッチンの下水口の蓋』についても、
既に存じておりました。
現在、カフェーの建物、
および店主様とそのご家族は無事でございます。」
執事はそう言って、ノーフェイスにウインクした。
ノーフェイスこと、大森がこの前渡した指示書には、
確かに彼の言う通りの文言を書き込んでいる。
ノーフェイスの想定では、
なにかしらで屋敷を訪れた四葉の軽い助けになれば程度。
だが、彼らは全身全霊で四葉を助けている。
「えぇ。
怖ぁ……。」
ノーフェイスはそう言って己の身体を庇うように肩を抱く。
そもそも、人件費に糸目をつけなかったこの男の所業による。
ノーフェイスこと、大森は財閥に次ぐ資産家。
彼は金の価値がいまいちわかっていない。
価値はわかっていないが、
その使い方はよくわかっていた。
大森家の使用人の彼らの月収は高い。
更に彼から使用人たちへ渡されるチップの現金、
茶器や家具などかなりの量が渡されている。
それらを合計すれば、
彼ら使用人の月収はちょっとした企業の月の売り上げくらいある。
それだけの金があったら、
個人でも大抵のことができてしまう。
なので、主である大森に指示されれば、
その潤沢な彼らの個人資産で銃火器の扱いを学ぶ。
護身術を学び、兵法を学び、
知識を学ぶ。
そして、主である大森すら知らないうちに、
できあがった超人集団。
そんな彼らが四葉に協力している。
しかも、生半可な協力ではない。
『全面的に』、だ。
「この崖の周囲は我々どもで包囲いたしました。
四葉様のご指示通り、
崖から離れようとした者は全て捕らえます。
では、ご存分に。」
そう言い残して、唐突に姿を消す執事。
残された四葉は、ノーフェイスの顔を見て真顔で言った。
「変態怪盗、私よりお前の方がバカだ。」
「……その評価、甘んじて受けよう。」
ノーフェイスは険しい顔でそう言った。




