第24話 あ、これは死んだかも①
約五分。
いや、偽二階堂が警官を連れてきたら、
きっと早い時点で爆発させられる。
「私の昔の記憶だけど、
例の教団は『液体の爆弾』を研究していた。
二つの液体で、
一つずつなら無害だが、
混ざると黒く濁って爆発するんだ。」
「ほう。
爆発したら、
跡には液体を混ぜるポンプしか残らないのか。
黒色火薬や灯油も検出されず。
混ざった後の薬品が検出できても、
混ざる前の液体がわからないのなら規制されない。
運搬しても、設置しても検知もされない。
それは良い兵器だ。
……これ、そうか?」
ノーフェイスは隠れ家の真ん中辺りにある時限装置の付いた箱を指差した。
「危なくて触りたくないが、
たぶんこれだと思う。
私の身体で軍部の主要施設に侵入してこれを設置、
起爆させるのがアイツらの狙いだった。
今は、軍部の施設じゃなくて、お前と先生だがな。」
ノーフェイスが大袈裟にため息を付く。
「なら、この装置を揺らすこともできないな。
例えば出口のドアを開けたら、
この装置が揺れるだけのトラップでも爆発するのか。」
「この爆弾自体を解体するにせよ、
かなりシンプルなトラップで爆発させられるから危険だ。
解体の振動で少しでも液が混ざったらそこからボン、だな。
私が天井から出てきたときに爆発しなくてよかった。」
四葉は思考を巡らせる。
記憶の中の二階堂すら、触らないことを選択する。
「ドア以外、となると私の入ってきた所。
これは、私だけで外に出る。
この出口の向こう側に回って開く。」
「ノン。
ドアは俺の指紋で開く仕掛けだ。
俺が外に出なければ開かない。」
「お前の右手を切り取って。」
「バカ。
本当にやめろ。」
四葉が本気の顔をしているので、
ノーフェイスは慌てて止める。
四葉は気を取り直して質問する。
「こっち側から開くのは、
その仕掛けなしで開くのか?」
「あぁ。
ただ、一見ただのドアだが、
ドアの要所要所にあの爆弾に繋がってるケーブルが八本あった。
トラップが仕掛けてある。
私の予想だが、
外から開いてもトラップは発動しそうだ。」
四葉はドアのない壁を眺めて提案する。
「壁を破壊して。」
「ノン。
ここは地下だし、
壁は厚さ五センチの鉄板と鉄筋コンクリート製だ。
それにお前の腕力で壁を殴ったら、
部屋全体が揺れる。
その衝撃で爆弾が爆発する可能性がある。」
何をするにせよ、爆弾が邪魔をする。
四葉は唸る。
「先に爆弾をなんとかする必要があるか。
……二つの液体が混ざる。
あ。ノーフェイス。
お前、いつかの時に液体窒素使って壁を壊してたな。
あれ余ってないか?
ぶっかけて凍らせれば安全だ。」
「あぁ。
あのときに使いきった。
もう無いし、
他の劇薬も残ってない。
あるのは大量のワセリンくらいだ。」
「怪盗が空き巣にあってちゃ、
世話ないなぁ。
その分だと貴重品もやられてないか?」
四葉がノーフェイスを煽る。
だが、ノーフェイスは意味深な笑みを浮かべて言った。
「それだがな。
ここには貴重品はほとんど置いていない。
盗んだものもほとんど換金済みだ。
一つを除いて、な。」
四葉がなにかを察してノーフェイスに食って掛かる。
「この前の五十嵐財閥から盗んだ宝石は?!
どこにある?!」
「『ここにあった』が、
今はもうない。
どうやら、武器や劇薬と一緒に盗られたようだ。」
四葉が激しく舌打ち、
悔しげに叫びだした。
「恩を仇で!
それどころか、黒幕の一味だったのか!
あのタヌキ親父めっ!
じゃぁ、偽物の先生とグルで。
……いや、五十嵐が例の教団の関係者だな!
それなら、足場を突然用意できたり、
トラックを何台も用意したりできる!
偽物と教団のパイプ役だ!」
あの宝石の騒動が二階堂殺害のために全部仕組まれていたとして、
この状況下で宝石がなくなった。
なら、五十嵐財閥、
当主の五十嵐剛蔵はこの一連の騒動と無関係ではない。
「おぉ。
推理を聞いても?」
ノーフェイスが楽しげに笑って言う。
四葉の思考はこうだ。
ノーフェイスによって宝石を盗まれた五十嵐は、
しっかり事前に保険に入っていた。
大森こと、ノーフェイスの保険だ。
宝石は盗まれてしまったため、
保険料がおりている。
全額ではないが、宝石の評価額の四割は払われていた。
そして、五十嵐はそれを受け取っている。
しかし、宝石はノーフェイスから盗まれて、
ここにない。
大騒動の果てに盗まれた宝石の換金は難しい。
しかも、ここに宝石が残っていたほうが、
ここがノーフェイスの隠れ家だと言う証拠になるはずだ。
偽二階堂の作戦なら、宝石はここに残すのが最良のはず。
それなのに、宝石はここにない。
偽二階堂がわざわざ宝石を盗んだとしたら、
誰がそれを欲しがったのか。
もしくは、誰かがそれを偽二階堂に指示したのか。
そして、宝石を一番欲しがるのは、元の持ち主の五十嵐。
五十嵐は保険金も、現物の宝石もせしめて一番儲かる。
しかも、あの宝石の騒動自体が全て仕組まれていたなら、
五十嵐も偽二階堂とグルだと考えたほうが色々やりやすい。
五十嵐が偽二階堂に協力する見返りに、
宝石を要求するのは当然だろう。
教団との接点は確証はない四葉の推測だが、
高確率で五十嵐は偽二階堂とグルだ。
「そんな話をする暇ないぞ、ノーフェイス。
警官たちと一緒に、
あの教団のヤバいやつらも来るはずだ。
五十嵐が連れて来ようが、来まいがな。
今は脱出が優先だ!」
「そうだろうな。
だが、俺も同じ推理をした。
五十嵐は黒だろう。
まぁ、裏取りは脱出してからだな。」
四葉がひらめいた顔をして、
ノーフェイスに質問を投げつける。
「ここは地下なんだな?
大きな通風口は?
地下鉄みたいな。」
「あるが、
直径三メートルほどで煙突のように地上まで、
垂直に二百メートル以上続いている。
梯子なんてないし、
鉄板を壁に張っていて取っ掛かりもない。
道具なしでは登れない。
お前ならなんとかなるかもしれんが、
俺は無理だし二階堂の死体は運べん。
しかも、通風口の蓋は雨水の排水口に擬装していて、
鉄蓋が固く重い。
足場なしではお前でも持ち上がらんはずだ。」
四葉が部屋を見回す。
部屋は天井が高くかなり広い。
壁に妙なものを見つけた。
四葉の頭がすっぽり入りそうなほど大きい穴。
そんな穴が四つ横に並んでいる。
それには『消火水栓』と書いてあった。
「あの消火水栓、開くとどれくらい水が出る?
水栓を全開にしてこの部屋、水没させよう。
他の蛇口も開けて水か何か出せるだけ出して、
排水口に詰め物をして。
そして、煙突を通風口まで水でいっぱいにすれば、
身体は地上へ向かって浮き上がる。
蓋近くまで水で近づけるなら、
私は壁を足場代わりにして蓋を外せる。
あらかじめ、
ワセリンを全身に塗っておく。
ベタベタに塗っておけば、
しばらく冷たい水に浸っても耐えられるだろう。」
「待て待て、四葉。
爆弾は液体で、混ざると爆発するんだろ?
部屋ごと爆弾を水に浸してしまうと、
それを媒介して薬液が混ざる。」
二つの液体が入った容器が水没すれば、
水を媒介して混ざるのは当たり前。
薬液が薄まることで、
何らかしら反応が変化することも想定される。
「この爆弾、よく見れば入念に密閉されている。
溶接がなり厚いから、
他の液体が薬液に触れないようにされてるみたいだ。
たぶん、簡単には薬液が漏れない。
水没しても薬液が混ざらないはずだ。
それに、比較的高いところ、
あの出口の辺りに移動しておけば浸水するのは最後だろうし。」
「パッと見だが、
この爆弾、俺の背丈より大きいぞ。
重さもかなりあるだろう。
動かした拍子に、ドカン!
ってことも、あり得る。」
ちなみに、ノーフェイス身長は二階堂と同じくらいある。
成人男性の中でも高いほうだ。
四葉は追加で付け足す。
「それこそ、ワセリンを床に塗りたくれ。
すーっとゆっくり床を滑らせれば、大きくは揺れない。」
「無理だとも言いきれんな。
ちなみに、排気口のでかいのは入り口近くにある。
あの出口は機密扉だし、
さっき話した予備の出口が全部排水口だ。
それらは全部塞がれてるから、
消火水栓を全開にして部屋に水を入れれば、
二、三分でこの部屋は浸水する。
ただ、天井の通風口はお前が入ってきたものが開いてるから、
そこから水は逃げるだろう。
排水量は知れているから、
煙突も全部浸水するだろう。
ただし、少し時間がかかるだろうな。」
ノーフェイスは部屋の角からドラム缶を転がして持ってきた。
ドラム缶の中にはぎっしりワセリンがつまっていた。
「先にワセリンを二人とも身体に塗ってしまうと、
爆弾を運びづらい。
俺がこれを床にぶちまけて、
モップでワセリンの道を作ろう。
その間に、四葉。
お前はワセリンを身体に塗れ。
俺より面積も凹凸も少ないから、
すぐ終わるだろ。」
四葉がノーフェイスの脇腹にジャブを打った。
ノーフェイスはとっさに肘で受けたが、
かなりの勢いでドラム缶の側面に身体を叩きつけられる。
轟音がして、床に倒れたノーフェイスが悶えた。
ノーフェイスの身体に風穴が開いてないので、
四葉が手加減したようだ。
それでも現役横綱の張り手くらいのダメージはある。
吐き捨てるように四葉がノーフェイスに向かって言い放つ。
「凹凸の部分は余計だ、変態。」
がちん!
爆弾から、嫌な音がした。




