第23話 経緯的に死んでて当然②
パイプの中をほふく前進で突き進む四葉。
要所要所で回転する羽があったので、
破壊して進む。
「羽は崖から中へ向けて風を送るよう回ってた。
通風口だな。
素材はブリキじゃない。
潮風で錆びるからか。
何の素材だろう。」
四葉は考えをまとめるために思考を口に出す。
「考えろ。
感じた情報を並べるだけでも、
分かることはある。」
二階堂の台詞だった。
いつかのために私に、四葉に遺した言葉だ。
四葉は保護されてから漫然と平穏を過ごしていた。
それが駄目だったとはいえない。
だが、平穏は突然終わってしまった。
その時のために、先生はたくさん私に教えてくれた。
それを漫然と聞き流していた訳じゃない。
全部覚えている。
絶対忘れない、忘れたくない。
「ノーフェイスの変態野郎。
どこまで行った?」
そして、それを気付かせたのは、
大嫌いな犯罪者。
しかも、その中でもとびきりの悪人。
自ら怪盗を名乗るど変態。
四葉がしばらく進むと、
漂ってくる匂いが変わってくる。
「薬品、本、金属と錆び。
後、先生の匂いとノーフェイスの臭いが微かにする。」
四葉は速度を上げて進む。
すると、排気口を見つけた。
蓋が下に向いている。
どこかの天井だろうか。
四葉はとりあえずその排気口の蓋を破壊して、
外へ飛び出した。
「うっわ!
……お前か、四葉。」
「やっとみつけたぞ、ノーフェイス。
どこをほっつき歩いていた。
お前、顔、ボロボロだな。」
お互いを認識して第一声がこれである。
「こちらは拉致監禁されていたところだ。」
「はっ!
天才が聞いて呆れるほどの醜態だな。
助けてやろうか?」
険悪だが、
お互いを一定以上は尊重している。
そんな不思議な空気感。
「通風口、と言うことは、
崖から来たのか。
本当に獣だな。」
「お前、天才なんだろう?
なら、私と同じところから外へ出ればいい。」
言い合いながらも、
周囲を観察する四葉。
変な機械と、無数の本棚。
大きな姿見と脱ぎ捨てられた服の山。
臭い。
そして、二階堂の死体。
それを見つけた四葉は、
ふらふらとそれに向かって歩き出す。
それに気付いたノーフェイスは、
ため息混じりに説明を始めた。
「断じて、断じて。
俺じゃない。
俺を拉致監禁したヤツと、
裏切った俺の元共犯者の仕業だ。」
四葉は二階堂の死体の横に跪き、
両手を合わせて目を閉じた。
数呼吸、沈黙が流れる。
四葉はすっくと立ち上がった。
ノーフェイスは襲いかかってくるものと思って身構えていたが、
四葉は普通に振り返った。
「……どうした?
ノーフェイス。
私がお前に襲いかかると思ったのか?」
「そう思っていたが。
どうした?
腹が痛いか?」
「お前はこんなことはしない。
それは分かってる。
アホみたいな理由だが、
この数日のお前は本気だった。
そんなお前が、
こんな風に先生の遺体を雑に扱うとは思えない。」
ノーフェイスは目を丸くした。
四葉はそれを見てため息を付く。
「私は、決めた。
先生は死んだ。
もう、いない。
でも、私の中に先生がいる。
先生の教えは今もこの胸の中にある。
だから、今日から私は『探偵』だ。
私立探偵二階堂事務所、二代目所長。
探偵の四葉シロだ。」
ノーフェイスに向かってそう言いきった四葉は、
子供っぽい仕草で笑う。
「どうだ?
次の探偵候補だ。」
ノーフェイスは真剣な顔に戻った。
「一蹴するには、
いやはや、どうにも。
面白い。
では、見せてみろ、
探偵、四葉。
俺にその知力を。
あぁ、腕力は知ってるから、いーぞ。」
そう言ってノーフェイスはニヒルに笑った。
「……お前のそれ、いつも思っていたが。
格好良いとか思ってやってるのか?
とんでもなく悪い顔で笑ってるぞ?
しかも、顔が傷だらけの青あざまみれで、
とんでもなく不気味だ。」
「二言多いわ。
愚か者め。」
弛緩した空気を引き締めるために、
ノーフェイスは咳払いをした。
「さて、情報のすりあわせをしよう。
お前がここに来るまでを聞かせてくれ。
その後、私のことを話す。」
四葉はここまでを説明し、
ノーフェイスも説明をする。
もちろん、偽物の二階堂についても。
それを聞いた四葉が唸る。
「……そんなこと。
知らなかった。」
「どこまで本当のことかは不明だ。
裏取りできんからな。」
「……先生は出掛けることは多かった。
一人で夜な夜な出て行かれることも多々あった。
でも、もう一人先生がいたとは思えない。
この前のお前と同じで匂いは変えられないだろう。」
ノーフェイスは腕を組んで肯定する。
「香水や薬品でごまかせても、
その人の体臭は無理だろうな。」
「それに、
先生はそんな酷いことを訳なくするとは思えない。
私が先生を美化していたのは否定しないが、
それを差し引いても考えづらい。」
ノーフェイスは客観的に考え話す四葉を見て感嘆の声を漏らす。
「自分から言い出しただけあって、
ちゃんと考えているな。」
「ノーフェイス、お前、何目線だ?
上からにしても、
おぞ気が上がってくるからやめろ。」
ノーフェイスは苦虫を噛み潰したような顔をした。
同じような顔をした四葉は、言葉を続ける。
「私が事故現場からここまで来るのに、
約二時間。
三時間は経ってない。
だから、その偽物はもうすぐ戻ってくるぞ?
警察、三橋さんとか、色々連れて来るだろう。」
「道理だな。
なら、推理もだが、先に脱出方法を探さなければ。」
四葉は自分が入ってきた排気口を指差す。
「いや、四葉、お前なら通れるだろうが、
俺と二階堂の死体は通らんぞ。」
「いやいや、その前に、
ここはノーフェイス、お前の隠れ家だろう?
出口は?」
ノーフェイスはため息を付きつつ話し出す。
「さっき話していた爆弾だが、
どうやら出口のドアにも仕掛けてあるようでな。
そこの大きなドア以外にも、
複数脱出口を用意していた。
それらも全部塞がれている。
裏切った共犯者がばらしたんだろうな。
面倒なことをしよってからに。」
頭を抱えるノーフェイスを指差して、
四葉があおる。
「間抜けだなぁ。
人望がないんだよ、お前。
……いや、人望あるのか?
お前の家、
すごい使用人さんばっかりだったし。
今も助けてくれてるし。」
「それだがな、
我が家の使用人には多額の給金を支払っている。
だから、簡単な警備も依頼しているが、
あくまで簡単な、だ。
警察や宗教団体の狂信者どもとドンパチは無理だぞ。
そこまでできるような警備はおれ自身指示してないしな。」
ノーフェイスは正体が大森零次であることがバレても、
全く意に介してない。
四葉はその態度にひっかかるものを感じつつ、
さっき執事に聞いたことを伝える。
「でも、執事さんは銃火器も使えるって言ってたぞ。
女中さんはみんな忍者みたいだったし。」
「何それ、俺、知らない。
こわっ。」
ノーフェイスは気を取り直して、
脱出方法を考える。
「恐らく出口のドアを触ったら、
その瞬間に時限装置が発動する。
最悪、爆発するかもしれん。
しかも、このドアはかなり頑丈に作ってて、
お前の腕力でもすぐには壊れない。
この部屋に置いていた工具も武器もなくなっててな。
お前と俺で協力しても、
五分でドアをこじ開けられるかどうか。」
「いつもの小道具は?
手首からワイヤー出したり、
銃とか爆弾とか。」
ノーフェイスの衣装にはたくさんの小道具が仕込まれている。
「俺もさっき着てみてわかったんだが、
全部破壊されていた。」
「つっかえねぇ。」
「本当に腹が立つな、お前。」
四葉は使えないノーフェイスを余所目に、
脱出方法を考え始める。
自分の中にいる名探偵を呼び出して。




